第16話 説明会
「皆揃ったようね。
それじゃあ、説明会を始めます」
ソフィアがアカツキが席に着いたのを確認して口を開く。
「……ところで、それなに?」
だが、アカツキを…正確にはアカツキの行っていることを見て、尋ねる。
「気にしないでください」
気にするなと言われても気になるのが人間の性である。ソフィアはじっとアカツキを見つめる。
ではここでアカツキが何をしているのか説明しよう。
一言で言えば葉巻を吸おうとしている。……別にグレた訳ではない。ただ、個人の趣味として楽しんでいるだけで「たばことか葉巻吸ってる俺カッケェー」みたいな餓鬼思考によるものではない。事実、人体に有害(アカツキには関係無いが受動喫煙という形で周囲に影響が出る可能性がある)な成分は入っていない。どちらかといえばハーブや紅茶の様に香りを楽しむようなものだ。まあ、葉巻といえばニコチン摂取が目的のタバコとは違うので当たり前といえば当たり前だが。
まあ、結局のところ。紅茶やハーブの様に香り等を楽しんでいるというだけのことだ。
余談だが、アカツキはシガレット(俗に言う紙巻タバコ)タイプの物も持っている。ただ、某蛇をリスペクトして葉巻タイプを愛用している。気分によって使い分けるようだ。
「いや、気にしないでって言われても…」
「……吸ってみます?別に有害というわけでもないですし…まあ、大麻やらを間違えて使えばまずいけど自家製の葉を使ってますし…あ、でもそれならハーブみたいに使ったほうがいいですよ」
「あ…うん、わかった?」
アカツキはその言葉を聞き、ナイフで葉巻の吸い口を切る。
「あー、マッチだとダメかな、ここだと」
口のなかで呟きながら、ポケットに手を突っ込みシルバーの唐草アラベスクに近い紋様とクラシカルなユリの紋様が刻まれたライターを取り出し、「キィーン」という音を出して蓋を開け、葉巻に火を着ける。通常はこの様なライターではなくマッチを使用する(理由はオイルで葉巻の臭いを消さないため)のだが、オイルライターではなく魔導具としてのライターのためこれを使用している。
「……すごい見られてるんだけど…ここ禁煙ですか?ちょっと嫌なこと(某教師が「絶対殺すなよ!絶対だぞ!ホントにホントにホントだぞ!」みたいな感じで念を押してくる等)があったんで落ち着きたいんすけど」
「……いいわよ、そのままで」
ソフィアが答える。
それにしても某教師……そんなに言っているのか。
「それじゃあ、気を取り直して始めます」
「あー、会長。ちょっと待ってくれよ」
ソフィアが始めようとすると一人の男──五年序列1位ジル・スペクトルが口を挟んだ。
「まさか、アイツが最後の一人ってことは無いよな?」
ジルはアカツキを指差しながら言った。
「その通りですが、なにか?」
ソフィアはそんなジルに簡潔に答える。
「はぁ!?」
ジルはソフィアの言葉を聞くと、そんな声を出しながら立ち上がる。その時、椅子が倒れそうになるが序列五位ユリアがそれを抑え、ジルを睨み付ける。しかし、ジルはそれに気付かずに口を開いた。
「そんなガキが最後の一人なんて認められねぇよ!」
「認めるも認めないもこれは学園側の決定です。それに何が認められないと?」
「何が認められないって、んな物実力に決まってんだろ!おい、お前何年だ!」
ジルにいきなり訊かれたアカツキは煙を吐き出すと、
「一年ですが?」
とまったく興味無さそうに答える。
「一年!?なんでそんなヤツがここに居るんだよ!ここは一年なんかが来るような場所じゃない!皆、自分の力に自信を持ってここに来てんだ!一年なんかが居るなんてのは俺らへの冒涜だ」
「それには全くの同意見だね」
ジルの言葉に緑髪──ラインが同調する。
一方、二人の怒り?の矛先であるアカツキは二人に目を向けるでもなく、手元に置かれている四煌極星祭選抜戦の資料を読んでいた。
「お前話聞いてんのか?!」
「普通、先輩は敬い、話をしていれば耳を傾けるものだと思うけどなぁ」
何故か怒っている二人は自分の席からアカツキの方へと歩いていき、アカツキの両脇に立ち、そんな事を宣う。
そこまでされると流石にめんどくさくなったのだろうか。アカツキは吸い始めたばかりの葉巻をアッシュトレイに置き、資料を机に置く。
そして、
「話?もちろん聞いてますよ?
それと、なんでしたっけ?先輩は敬え?
悪いけど敬う要素のない人間を態々敬う趣味は無いですよ」
「ああ、あと実力がどうたらって言ってましたね。
先輩方に俺の何が分かると?大体、貴殿方にどうこう言われる筋合いは無いのですが」
「それと、俺の個人的な意見を言わせてもらうとすれば、その年功序列至上みたいな考え方は止めたほうがいいですよ。第一、何をもって一年は弱いと断じるのか理解ができない」
「何も知らない相手を自分より下と決めつけて守らないといけない様な下らない自信とプライドなんて捨てたらどうですか」
煽りといえば煽りな言葉を二人に投げ付ける。
「あ?ふざけてんじゃねぇぞ!」
ジルが声を荒げ、アカツキに掴み掛かろうとする。
だが…
「……っ…!?」
喉元に片刃の剣を突き付けられ、それはできなかった。
ジルの喉元に剣を突き付けているのは灰色の髪の男──六年序列一位グレイ・アグナムル。
「下らないことは止めろ、ジル。彼我の実力差もわからず突っ掛かるな」
グレイは落ち着いた声音でジルを諌める。
「は、はい。一年相手に大人げ無かったです…」
ジルは冷や汗を流しながら答える。
しかし、剣が離れることは無く、心なしか剣へ魔力が集まっている気がした。
「違うな。お前は勘違いしている。
この場合、弱者はお前だ、ジル」
「なっ、そんなことは!」
「いや、間違いない」
「絶対にありえません!」
「あー、先輩方。
もうそろそろダルくなって来たんで落ち着いてくれませんか?そうしないと……強制的に黙らせることになるんで」
アカツキは二人の回りに数千の雷でできた針を展開させる。この針は小さいが殺傷力は十分過ぎるほどにある。
「……ジル、話は後程だ」
グレイはそう言うと剣を納め、自分の席へ座る。
ジル達もグレイに睨まれ自分の席へと戻る。
だが、アカツキはそんな二人に興味はなく、グレイに興味を持っていた。
(種族【最高位人族】、スキル【刀術(仮)】か。最高位人族なんてソフィアさん以外に見たことないな。あと、5人か…。それに【刀術(仮)】。さっきの剣は片刃だけど刀にしては幅広。刀と言えなくもないけど…ということか。しかし、自分で刀(仮)を打ったのか…)
そして、この後は特に何事もなく説明会は終了した。
「少し良いか?」
だが、アカツキの平穏はまだのようだ。




