神は告げた、強くてニューゲームだと。
神様転生モノのプロローグを読んでたら、ティン!と来たのでテンション任せに書いた。
反省はしていないし、する気も無い。
ついでに言うと、続く予定も無いし、続く話も無い。
それは、机の上で頬杖を付きながらの居眠りから、何事も無く、唐突に覚醒した時の様な感覚だった。
―――ふと気付いた時、視界一面が白い事に気付いた。
トンネルを抜けた記憶も無ければ、電車の行き先は雪国でも無い。
そもそも、今は茹だる様な暑さを誇る夏真っ盛り―――だったハズだ。
いつからそうだったのか。
あるいは、今この瞬間にそうなったのか。
もしくは、今までずっとそうだったのか。
全く以って解らないが。兎に角、視界一面が白かった。
正面を見据えていた―――白い。
左へと視線を向け―――白い。
だったら右はどうかと視線を向け―――漸く、自分が腕を上げている事に気付いた。
何故、自分は腕を上げているのか。
右手がはナニカに触れている感触は無い。
ただ、視線を右腕に這わせるように上げていくと、そこには何かを握る様な形で閉じた右手があった。
真っ直ぐではなく、若干肘を曲げた形で、腕を上げていた。
この体制は何だろうか、腕を突き上げるでもなく。
落ちてくる天井を支えるポーズだろうか。
いや、それならば両腕で抑えるべきだろう。
ならば逆か。
押す姿勢出なければ、ぶら下がっていたのでは無いか。
肘を曲げているのならば、片腕懸垂だろうか。
―――そこまで考えて、回りに周り、漸く思い出した。
「そうだ………俺は、電車に乗って、たんだ……」
思い出したように吐いた声は、酷く擦れていた。
酷く喉が痛む。まるで、押し潰されたような感覚だった。
痛い。
一度認めたら、『痛い』がたくさん襲ってきた。
全身が、傷だらけだった。皮膚が裂け、肉が抉れ、服は赤く染まっていた。
喉が痛い。
頭が痛い。
腕が痛い。
脚が痛い。
身体の奥が痛い。
「―――っぐ、ぎ……ぃ、……ッ!!」
痛くない所を探す方が大変だった。
そんな無駄な事をする余裕も無いが、ただ、頭だけは冷静だった。
いや、頭というよりは、心と言うべきなのか。
自分が冷静だと認めれば、不思議と痛みが引いていった。
激痛を邪魔だと判断したのか。或いは、もう痛みを感じる事すら出来ないのか。
―――………・・・
どちらにせよ、全身の激痛で“己”を認識した俺は、全身の激痛から解放された事で、自分の正面に、自分以外が居る事に気付いた。
老人が、1人居た。
白髪の老いた男が、地に膝を着き、両手を着き、頭を着けていた。
日本人の謝罪における最大の形とも言える、土下座だった。
頭を下げ、身体を丸めている老人の表情は窺い知る事も出来ないが、ただ、謝罪の意志だけは伝わっている気がする。
小さな音が、背後から聞こえた。
耳に届くかどうかという程度に小さな、人の呼吸音だった。
背後にも誰か居るのかと振り向いてみれば、そこには少年が居た。
額を切ったのだろう。だくだくと流れる血液で、片目が塞がれていた。
無事だったもう片方の目は瞳孔が開いており、ただ虚空を見つめているだけだった。
それでも、口元から時折漏れ聞こえる、ひゅぅという風音から察するに、きっと大丈夫なのだろう。
俺と同じ、全身がボロボロで見るに堪えない姿。
ただ、ボロボロではあるが、その衣服には見覚えがあった。
俺が通っていた、高校の制服だった。
改めて視線を上げて顔を見てみれば、果たして彼は、一緒の電車に乗っていた少年だった。扉を入ってすぐ、座席の横壁にもたれ掛かる様にして扉付近に立っていた少年だ。見覚えがあった。
そう思えば、少年の周り、いや俺の周りには思っていた以上に沢山の人が居た。
ケータイ片手に喋っていた3人組の女子中学生が居た。
営業に向かっていたのだろう、スーツを腕に掛けていたサラリーマンが居た。
腰に工具をじゃらじゃらと吊り下げていた作業員が居た。
新聞を広げていた中年が居た。
携帯ゲームで対戦していた小学生が居た。
だれもかれも、電車に乗っていた人たちだった。
皆みんなボロボロで、虚空を見つめていた。
そうだ、俺は電車に乗っていて、そして――――
――――そして、死んだのさ」
背後から、頭を下げる老人が居た方向から声が聞こえた。
初めて聞く、自分以外の声に慌てて振り返ると―――老人はすでに立ち上がって居た。
立ち上がり、向こう側を向いていた。
やはり、向こう側を向いている為に、顔を見る事は出来なかった。
ただ、光を放ち、逆行となって暗い影のようになっていた。
「アンタは……一体、何なんだ……」
「己か。己は、そうだな―――“神”とでも名乗るか」
別に、何でも良いんだが。
そう付け足して、影が揺らめく。
「……神?」
「そう、神。貴様ら人間の知覚を超えた先に存在する、上位存在。故に貴様らの言葉で己を言い表せるハズも無く。
―――しいて言うならば神が一番近い、ただそれだけだ」
「――――それで、その神とやらが俺、というか、電車に乗っていた奴に何の用だよ」
放つ言葉は刺々しい。
影は神だのと名乗っているが、それを本当だとする証拠も無く。
そもそも、こんな良く解らない所に連れて来た張本人であろう事からするに、悪魔の類だったとしても可笑しくない。
不思議な感覚だった。
こんな、超常的現象に見舞われていながらも、自分は冷静で居られた。
ただの一介の大学生にしか過ぎない自分が、異常に巻き込まれながら自己を保ち続けるなど、まるで小説の主人公になったかのような錯覚すら覚える。
どの程度の時間が経ったのか。曖昧な時間感覚の中、影が言葉を放った。
「―――電車に乗っていた貴様らに別に用など無いのだが」
ならば、何故俺達はこんなところに居るのか。
「強いて言うならば、貴様らを“殺して”みたら、死んでしまったと言う他無いな」
「………なんだって?」
影の言葉は、まず理解不能だった。
殺したら、死んだ?
……つまり俺達は死んでいるということになる。
それは、此処が死後の世界、もしくはそれに近い何処かという事になる。
例えば、三途の川の手前だとか。
それ以上に、影は殺したと言った。それも、殺してみたら、と言った。
それは、つまり、大した意味も無く。
「―――別に、意味無く殺した訳ではない」
考えが口から漏れていたか。
半ば呆然とする俺の思考に対し、影が呟く。
「ただ、貴様らの世界は酷く単純に出来ている。何と言ったか、そう、プログラムだ。貴様らの言うプログラムで、割とあっさり書けてしまう程度の構造だ。
己はな、貴様らの世界を見ていたのだよ。貴様らでは無く、その裏側で動く構造そのものを。そうしたら何だ、貴様らの生死ときたら、酷く簡単な判定をしているじゃないか。貴様に解り易く言うなら、IF文だけで事足りる。生死ステータス値が1なら生きているし、0なら死んでいる、ただそれだけだ」
饒舌に、語る。
興が乗ったのだろうか、影の揺らぎもまた、激しくなり始めていた。
「そして、死亡判定の際に、記憶や経験の初期化が行われる。この際に莫大な処理が己に
―――ああ、改めて名乗ろう。己は、貴様らの世界を処理・実行し、動かしている存在……貴様に解り易く言うなら、コンピュータにおける集積回路のような役割を持っている」
あっさりと、何でも無いように、影は正体を吐いた。
実際、影としては取るに足らない、何でも無い事なのだろう。
言葉はまだ続く。
「それで何だったか……ああそうだ、処理だったな。己は処理を低減しようと思ったのだ。人間が死ぬ度に己は莫大な処理を行わなければならない。あまりにも短期間で大勢死ぬと処理が滞る。そして何より面倒臭い。
だと言うのにだ、だと言うのにだぞ? 最近はすぐ自殺だの何だのとポンポン死ぬ奴が増え始めた。一体、己がどれだけ苦労して世界の処理を最適化したしたと思っているのだ。思っていないのだろうな。効率的に文化を発展させ、面倒な輩を排除しつつ、稀に面倒事を起こして生き抜く事を大切だと思わせる。そうやって長い年月を掛けて、漸くそう簡単には死なない世界を作ったというのに、また死亡間隔が早くなっているとは、どんな了見だ」
怒るように、嘆くように。
しかし、ただ影は淡々と語っていた。
「だから、己は考えた。先も言った様に、記憶の初期化は死亡判定時に行われる。ならば、その処理を通さずに己が生死ステータス値を0にしてやり、殺せば、記憶は無くならず、明確な“死”という記憶を持ち、そして再度、世へと廻る
貴様らは、コレをこう言うそうだな、“強くてニューゲーム”と」
影が。
老人の姿が、端から砂のように崩れ落ちていく。
さらさらと散りながら、同時に俺の意識も遠くなっていく。
俺も、砂のように崩れていた。
「だから、己は殺そう。貴様らが死にたいと思わなくなるまで、殺して、殺して、殺し続けよう。そして死には、永遠とも思える苦痛を授けよう。
そう、いつか、貴様らが“死にたい”などと思わなくなる刻まで。
或いは、永遠の命に辿り着くまで――――
クッソどうでもいい設定集
●青年
電車に乗っていた大学生。
記憶持ちで生まれるも、普通に生活して普通に寿命で死ぬ。
「英語とか勉強する時間沢山あったから、仕事には困らんわな」
●影
世界情報処理機構。CPUにしてOS。
死亡時の初期化処理が面倒だから、というだけの理由で人類の寿命を延ばそうとした神様的ナニカ。後年になるほど、医療の発展などで寿命が延びているのはコイツの影響。
ただ、方法が「病原菌バラ撒き」だとか「無差別連続殺人事件」など、死の恐怖を煽るという形なので、迷惑な存在ではある。
面倒な事が嫌い。
●老人
土下座してた人。
神でも何でもなく、ただの老人。電車で、青年が前に立つ席に座っていた。青年が席を譲ったからだが。
神様的なナニカの正体は光の方であり、ちょうど青年との間に老人が突っ立っていた為に影になっていただけである。
●学生と周りの人
脇役。
電車の1車両だけ、全員死んでいるという怪事件で世間を賑わせるが、犯人は解らないし、死因も全員わからないという事で迷宮入りする(当然の結果)。
●この物語
特に山場も無く、
全くオチが無く、
何の意味も無い。
まさにやおいSS。
●執筆終了時の作者の一言
なんで私はこんな文章書いてんだろ、もう午前1時じゃん。
ねみぃ。