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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
プロローグ 編
9/51

天界の問題児 3


「あのね、神さまが『メイはまだか!』って待ちくたびれてて、『早く来い』って伝えるように言われて来たんだよぅ」


「……あ? そんだけ?」


「うん。そんだけだよぅ」


 メイは予想以上のくだらない伝言に、カチンときた。

 こちらは呼び出しを聞いてから仕方なくすぐに向かっているというのに、知ってか知らずか催促までオマケで付いてきた点も腹ただしい。


 メイの怒りの沸点は低い。

 悪魔の如き妖艶な笑みを浮かべ、その瞳の奥では邪炎が灯っていた。


「あの変態ハゲぇ……テメェは動かないくせに、任務中に呼びつけて、あまつさえ催促とはいい度胸じゃないの……」


 怒りを通り越してニヤニヤと笑っている。見た目は天使でも、その雰囲気は悪魔か死神である。

 もう少しタカが外れれば、目の前の者を獲って食いかねない勢いだ。 


「め、メイちゃん……神さまの悪口はよくないよぅ」


「いーじゃん。嘘言ってるワケじゃないんだし」


「そ、それでもダメだよぅ……もし誰かに聞かれてて、告げ口とかされたら……」


 途端、メイの雰囲気が一変した。


「……へぇ。アンタするの? 告げ口」


「え……へっ!? あ、あの、そのぅ……」


「あー。そういや、前にアタシが転生室の花瓶割った時も、他に知ってたのはアミちゃんだけだったのに、なぜかテレさんに知られてたっていうことがあったわよね。ありゃどうしてなのかしらー?」


「だ、だってあの花瓶は貴重品だったか……あわわわっ!」


 思わずメイの誘導尋問に引っ掛かってしまったアミは、わたわたと慌てる。

 だが既に遅し。

 殺気にも似た雰囲気を身に纏ったまま、メイがアミの顔を威圧的に見つめる。もちろん、表情は笑顔のままで。


「いやぁーアミちゃんは友達思いの優しい良い子だと思ってたんだけどなー。違ったのかなぁ?」


「ひっ……!?」


 蛇に睨まれた蛙どころではなかった。その恐怖感、比喩する言葉が無い。

 アミには走馬灯すら見えた気がした。


「……死人に口なしって言葉、知ってる?」


 トドメである。

 アミの目には涙が滲んでいた。


「いいいい言わない! 言わないよぅ! 言わない言わない! アミ、告げ口なんてしないよぅっ!」


「いやー、さすが親友。話がわかるわねぇ」


 殺し屋と対峙したような雰囲気は解かれ、アミは全身の緊張が抜けていくのを感じた。


「……親友を脅迫しないでよぅ」


「まぁまぁ。気にしない気にしない」


「気にするよぅ……あっ」


 目の淵に滲んだ涙を拭っていたアミが、何か思い出したらしく再び慌てだした。


「め、メイちゃんっ。アミとのんびり話してる暇なんてなかったよぅ。早く神さまのとこに行かないと……!」


「え……ああ。そういや、そんなこと言ってたわね……」


 ここまで律儀に歩いてきた目的をメイは思い出し、同時に彼女の両足は床板から離れ、浮遊した。

 彼女がその背の翼を広げ、羽ばたき始めたのだ。


「んじゃ……せっかちなジジィに応えてブッ飛ばしますか。これ以上歩くのも面倒だし」


「ちょちょちょ、ダメだよぅ! 建造物内では飛行禁止だって何度も……」


「過去のお説教は振り返らない女だから。アタシ」


 メイは満面の笑みで親指を立て、親友からの忠告を華麗にスルーした。


「かっこよく言ってるけど、それは振り返ろうよぅ……って、もう飛んじゃってるしぃ……」


「じゃね、アミ。伝言の内容は最悪だったけどご苦労様。サンキューねー」


 軽く手を振って別れると次の瞬間、メイは突風のようにその場を飛び去る。

 瞬き程度の合間、あっという間にアミの視界から彼女の姿は消えた。



 ――きゃあああっ!?


 ――あっぶな……ひいいぃぃ!?


 ――コラァっ! 屋内は飛行禁止と決まっ……ギャアアァァ……!



 そしていつも通り、彼女が向かった廊下の先で阿鼻叫喚が響く。

 加減を知らないメイの全力飛行に吹き飛ばされたり、巻き込まれたりしているのだろう。


「相変わらず過ぎるよぅ……あれ……?」


 先ほどまでメイが立っていた場所に何か長方形の箱が落ちている。

 拾い上げると、それは下界のお菓子であった。

 メイが常時携帯しているお気に入りのチョコ菓子『パッキーチョコレート』だ。


「……落として行っちゃったのかなぁ」


 アミはしばらくその場で待ってみたが、メイが戻ってくる気配はない。

 彼女がそれを落としたことに気付いたなら、きっと阿修羅のような形相で戻ってくるはずだ。

 それが来ないということは、おそらく気付いてないのだろう。


「どうしよう……アミもそろそろ戻らないと……」


 メイを追いかけるべきか、仕事途中の持ち場に戻るべきか。


 アミがオロオロと迷っていると、手にしていたパッキーチョコレートのパッケージに目が行った。


「……『春限定・レモン味』……!」


 メイの姿が無いか廊下の奥をもう一度確認してから、アミはそれをこっそりとポケットにしまった。


「……後でちょっと味見してみよっと」


 ほっこりとした笑顔で、アミは自分の持ち場へと戻っていった。



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