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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
プロローグ 編
8/51

天界の問題児 2


 テレサにどやされたメイが転生室をあとにしてから数分後。

 庁舎内に無数に存在する、廊下の1つ。


 床も壁も白色を基調とし金色を主な装飾とした、まぶしい程に清潔感と厳格さ溢れる、向こう端の見えないほど長い長い廊下。


 メイはその廊下を歩いていた。

 彼女を呼び出した神様の待つ、この庁舎内における最奥の部屋――天空の間へ向かって。


「……ひたっすらにメンドくさいわ……どこのどいつよ。こんな長い廊下造りやがったのは」


 彼女はこの廊下が嫌いだった。


 星の数ほどもある、天使界における規則。

 その内の1つに、「天使界の建造物内では飛行禁止」というものがある。

 背に翼を持っているはずの天使達が、たとえ息つく暇もないほど忙しくとも自らの足で走り回っているのはこのためだ。

 たとえどれほど長い距離移動だとしても、屋内を翼で飛ぶことはよほどの緊急事態でもない限り許されていない。


 そしてメイが今いるこの建物。

 通称、『天使界中央庁舎』は、その中での業務内容……用途のため、その規模、建物全体はとてつもなく巨大。

 当然建物の内部も、それはもう広大である。

 先に挙げた規則を併せて考えると、中で働く天使たちへの嫌がらせかと思うほどに。


 しかし他の天使たちは文句の1つも口にせず、律儀に規則を尊守している。

 ただ1人。先ほどから不満ダラダラの顔で歩いている彼女を除いては。


 規則などクソ食らえ。日々之フリーダムを身上としている、およそ天使らしくない破天荒少女、メイ。

 屋内飛行禁止など、面倒事が嫌いな彼女にとってはとんでもない苦行。

 よって、彼女がこの規則を破らなかった日の方が珍しい。

 それに対し、上からお説教された回数もその程度も数知れず。


「あーあ……前にいたトコは楽で良かったのに」


 彼女が天使となり、天使界での生活を始めたのは今からほんの1月前。

 ここは天災もなければ病もない、人間の一般的な価値観で言えばまさに天国かもしれない。

 しかし、厳しい規律や天使としての礼儀作法など、彼女にとってはあまりにも窮屈過ぎた。


 飛行の制限に加え、部屋から部屋まで不必要なほどの距離。

 ましてや、現在の目的地は彼女がいた転生の間から最も遠い場所にある。

 以前の住処での快適さと気楽さを思い出し、思わずため息を漏らした。


「……ったく。あのジジイも人を呼びつけるだけじゃなくて、たまには自分で来いっつーの。どーせヒマなんだろうし」


「……あのぅ、メイちゃん」


「今に見てなさいよ……いつかあのウザったい髭を全部引っこ抜いて、首から上をゆで卵みたいにしてやるわ……ぬふふ」


「め、メイちゃん。メイちゃんってば」


「……あ?」


 一時的とはいえ珍しく規則に従ってやっていたフラストレーションも限界に近付き、そろそろ目的地までひとっ飛びしてやろうかと思っていたその時。

 メイの名を呼ぶ少女の声が背後から聞こえてきた。しかし振り向いた先の視界には、声の主の姿は見当たらず。


「なーんだ……空耳か」


「そっ、空耳じゃないよぉ。こっちだよぉ、こっち!」


 再び振り向き、先ほどよりも視線を下に向ける。

 そこまでしてようやく、その声の主を視界内に捉えた。


「あぁ。やっぱアミね……相変わらず小さいわねぇー」


「い、言わないでよぅ。気にしてるんだからぁ」


 メイに容赦なくコンプレックスを突かれ、簡単に涙目になってしまった天使の少女。


 海のような青さを宿した、ショートカットの頭髪。

 メイとの身長差は30センチ近くあり、会話の時には常に彼女がメイを見上げる形となってしまう。

 彼女のその大きな瞳での上目遣いは、何かこう、たまらないものがある。

 加えて、身体のあらゆる箇所が未発達な……おそらく、その筋のマニアにはたまらないであろう幼児体型。

 さらに、弱弱しく語尾を伸ばしてしまう彼女独特の喋り方が、その幼い見た目に拍車をかけていた。


 少女の名は『アミ』。

 天使界における、メイの数少ない親友……の、はずである。


「いやいや、これは失礼。小さすぎて視界に入らなかったわ」


「うぅ、またそうやってアミをバカにするぅ……」


「ごめんごめん……冗談よ。じょーだん」


 仲は良いのだが、アミの気弱な性格とメイのドSな性格とが見事に噛み合ってしまっているようで、日頃からメイの暇つぶし役、いわゆるオモチャにされていた。


「もぅ……気付いてるくせに、いっつも無視するんだもん……」


「あらやだ。ムシだなんて人聞きの悪い……目線の高さが違いすぎて、視界に入らなかっただけだってば。ちゃんと振り向いてあげたっしょ?」


「言わないでよぅ。小さいの、気にしてるのにぃ……」


「はいはい。そんなにヘコまないの。もっと小さくなるわよ?」


「うぅ、また言ったぁ……」


「にひひ……んで? アタシになんか用?」


「あ……あぁ! そ、そうだった……そうだったよぉ!」


 メイから用件を聞かれ、アミはハッとしてわたわたと慌てだした。


(うーむ……相変わらず、なんともイジメたいオーラを出してくれるじゃないの)


「……? メイちゃん、どうしたの? ニヤニヤして」


「んー? べっつにー……ところで、用件は? 見ての通り、アタシ暇じゃないのよね」


「アミだって暇じゃないよぉ……えっとね、アミね。伝言を預かって来たんだよぅ」


「悪いけど、交際の申し込みなら断っといてね」


「こ、告白とかじゃないよぅ……神さまからの伝言だよぅ」


「ふーん。あのジジィがロリコンの変態だったなんてね……全っ然意外じゃないけど」


「だ、だからそういう伝言じゃないってばぁ……ちゃんとした、お仕事の伝言だよぅ」


 2人の会話は常時こんな状態である。主導権(イニシアチブ)がアミの側に回ることは無い。

 メイにとっては非常にイジり甲斐があり、返ってくる反応全てが楽しめる相手。

 アミにとってはこうして伝言1つするのも楽じゃない、ある意味天敵のような相手であった。



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