階段の手
音楽室での、霊力の発生源を調べ終えたメイたちは階段へとたどり着いた。
「よっ……とうわわわっ!」
「ちょっと大和、気を付けなさいよ? 落ちてきたって、受け止められるかわかんないからね」
「あ、あぁ。手すりにしがみついて行くよ……」
自分達の足音だけがどこまでも届くように響く。
降りていく先は暗闇に近く、携帯電話のライト機能を使わなければ踏み外してしまいかねない。
それでも、そう遠くない先。
外からの光がかろうじて見える1階を目指し、メイを先頭にゆっくりと歩を進めていく。
「やよい。気をつけてよ? あなたが落っこちたら、抱かれてるあたしまで巻き添えなんだから」
「うん。気を付けるね……」
「まぁ安心しなさいって。アンタらが落ちてきたら、やよいは足で止めたげるから」
「ちょっとちょっと。あたしは? いちばん小さくて、助けやすいはずのあたしは?」
「落ちてきた流れでジャーマンスープレックスかます」
「そのまま落ちたほうがダメージ少ないんじゃないのそれ……」
冗談など言い合っている間に1階と2階の中間、踊り場に到着した。
あとは目の前にある段数だけ降りれば、昇降口の前に出ることが出来るのだが。
「ひっ……!?」
「なんだこれ……」
「……まぁた、めんどくさそうなモンが待ってるわねこりゃ」
彼女らの眼下に伸びる階段。その数、13段。
その最後の段だけが墨をぶちまけたかのように黒く染まり、そこから顔を覗かせる無数のそれ。
それは手であった。
『影の手』とでも比喩しようか。
見たところ右手も左手も。
とても数え切れないほどの手たちが、うねうねと蠢いている。
「メイ、どうする……?」
「……ワシの出番か?」
「全部切り捨てていくのもいいけど、なんかめんどくさいわねぇ……増えてるし」
彼女たちが戸惑っている間も、蠢く影の手は目に見えてその数を増していた。
この階段を必ず通ると知っていて、彼らは待っているのだろう。
そして捕まえようとしているのだ。巣を張ってじっと待つ、毒蜘蛛のように。
「仕方ないわね……よっと」
「えっ? ……きゃっ!?」
メイは何の前触れもなく、メリーさんを抱くやよいを『お姫様』のように抱き上げ、傍らの手すりへと乗り上げた。
バランスをとり、そのままスケートのように手すりを滑って降りていく。
「はい無事に通過……っと」
階下で待ち構えていた影の手たちに対して、彼女が取った行動、答えがコレである。
手すりを滑ることで通り過ぎる、やり過ごしてしまえばいいというわけだ。
「なるほどねぇ……」
「あぁ……ビックリした。メイちゃん急に抱き上げるんだもん」
「にひひ。いい刺激になったでしょ?」
「刺激過ぎるよ……心臓飛び出るかと思ったもん」
踊り場に取り残された……厳密に言うと『置いて行かれた』だが、大和とペン八はメイの行動に、少しばかり唖然としていた。
驚いて声を失ったと言った方がいいかもしれない。
「なぁペン八……なんだか俺も『メイらしい』ってどういうことか、分かってきた気がするよ」
「そうか。それは良かっ……いや、良かったのかのう?」
「おーい男どもー。さっさと来なさいよ。置いて行っちゃうわよー?」
「あぁ言ってるし行くとするか……ペン八?」
いったいどうしたというのだろうか。
メイがそうしたように大和も手すりへ向かうが、彼より階段に近い位置にいたペン八が微動だにしない。
階下ではなく、遠い所を見つめるようなその瞳と後姿は、どこか哀愁すら感じさせるものがあった。
「大和……すまんが、頼みがある」
「な、なんだよ突然。改まって……」
「……抱き上げてくれ。届かんのじゃ」
元々の身長では手が届かず、ジャンプをしても同じ。
ペン八の身体は霊魂ではあったが、そこは腐ってもペンギン。
彼は飛べないのだ。魂だけの存在であっても。浮遊もまた然りである。
「……あぁ」
性別的に男ということで共感出来るところがあったのだろう。
ペン八のプライドに配慮し、大和はそれ以上何も言わず、何も聞かず、ペン八の身体を手すりの高さまで持ち上げてやる。
階段を無事に通過してメイたちと合流した後も、彼の背中はどこか寂しそうであった。