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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
学園の怪談 編
34/51

トイレの花子さん


「はぁ!? わからないって、なんにも!?」


「し、仕方ないでしょ。ここに来たの、あなたたちよりほんの少し早かっただけだし……」


 会話をしつつ薄暗い廊下を進むメイたち。


 先ほどメイが驚きの声をあげたのは、彼女たちが今居る旧校舎内の状況についてメリーに質問し、返ってきた答えに肩透かしを喰らったからである。

 曰く、メイたちよりも先にこの校舎に閉じ込められたが、それは微々たる時間差。

 まだ校舎内の探索はしておらず、この場所にメイたち含む一行を閉じ込めた根源、その目的も居場所も把握出来ていないという。


「あーあ。とんだ期待ハズレだわこれ」


「わ、悪かったわね。でも、あたしだって多少はこの校舎の状況、把握してるのよ?」


「っていうと?」


「そうね……まずあなたたち以外、校舎内に人間の気配は感じないわ。それから、あたしたちをここに閉じ込めた元凶……犯人と言っていいのか分からないけど、そいつの目的は不明。でも単独じゃなさそうよ。校舎全体の……いたるところから強い霊力を感じるから。それからここは、どうもこの旧校舎と外の校庭だけが切り離された別次元の世界……」


「すごーい。メリーさんいろいろ知ってるんだねぇ」


「あたしをただの人形だとでも思って? もっと褒めなさい」


 彼女が感知したこと、彼女なりの考察を交えた説明にやよいは素直に感嘆するが、メイの表情は変わらなかった。


「説明ご苦労様だけど、そのぐらいのことならアタシもとっくに把握済みなの。えーっと、たしか焼却炉は……」


「ちょ、ちょっと待ちなさいって! 捨てる気!? 役に立つ情報持ってなかったからって、燃やす気!?」


「供養よ供養。アタシ流の」


「んな乱暴な供養があってたまるもんですか!」


「……なぁメイ。この校舎の状況は分かったけど、これからどうするんだ? やっぱ校庭に向かうのか?」


 放っておけばまたメイによる虐待が始まりそうである。

 そんな雰囲気を感じ、彼女らの会話に大和が割って入った。


「そうねぇ……でも、寄り道しながらってトコかしら」


「寄り道?」


「さっきメリーも言ってたでしょ? 校舎のいたるトコから強い霊力を感じるって。そこを調べながらにするわ……運が良ければ、旧校舎を包んでる霊力の元凶か根源にぶち当たれるだろうし」


「……ま、それが常套手段じゃろうな」


「っつーわけでメリー、案内しなさいな。さっき言ってた強い霊力を感じる場所に」


「あ、いや……その、校舎内に強い霊力が点在してるのは分かってるんだけど、干渉し合ってて細かい場所までは……」


「……あ?」


「しょっ、しょうがないでしょっ? 校舎全体が霊力に包まれてるうえに、霊力の発生源だって1つや2つじゃないんだから」


「あぁハイハイ。要するにアンタは役立たずのボロ人形ってことね」


「ボロ言うな! ……そう言うあなたはどうなのよ。ここから校舎全部を探知出来るの?」


「砂漠で落としたコンタクトレンズ探すようなもんよ? 出来るワケないでしょ。バカじゃないのアンタ」


「ぐぬぎっ……!」


(芸術的な開き直り方じゃな)


「………………」


「さーてと。そんじゃあ怪しいトコから適当に……って、どしたのやよい。急にモゾモゾして」


「………………」


「やよい……どうした? もしかして具合でも……」


「そっ、そうじゃないよ! そうじゃなくて、えぇと……」


「……?」


「その……メイちゃん、ちょっと……」


「何よ突然……」


 やよいは顔を赤くしながらメイに手招き、特に大和には聞こえぬよう、その片耳にボソボソとそれを相談した。


「……はぁ!? おしっこ行きたいからついて来てくれって!?」


「ぶっ!」


「ななななな、なんで言うのぉ! 聞かれたくないからコッソリ話したのにぃ!」


「あ、あはは……」


 メリーを抱いていない方の手でポコポコとメイを叩く。

 残念ながら相談する相手が悪かったとしか言えない。

 2人の会話を聞いてしまった大和は、乾いた苦笑いを浮かべるしかなかった。



「……ほい。着いたわよ」


 やよいの要望にこたえ、手短な女子トイレの前まで移動した一行。

 メイが電灯のスイッチを入れてみるも、点灯したのは古ぼけた蛍光灯1本のみ。

 その灯りすらついたり消えたりを不規則に繰り返し、期待とは程遠い明るさで心臓によろしくない。


「ほら、メリーは大和にでも預けてサッサと……」


「う、うん。大和、お願いね」


「わかった。預かっとくよ」


 やよいは抱いていた人形……メリーを大和に託し、空いた両手で今度はメイの腕をがっしり掴んだ。


「じゃあメイちゃん、よろしくですっ」


「……は?」


 否。メイの腕にがっしりとしがみついた。


「いや、アタシは用足しする気はないんだけど……」


「……怖いから、ついて来てくださいです」


「――アタシゃあアンタの母親かっ!」


「だって暗くて古いし、怖いんだもの……です」


「だったらメリーの野郎を連れてけばいいじゃないのよ」


「誰が野郎だ。悪いけどムリ……今のあたしじゃ、長い時間は浮いてられないし」


「……ならやよいが片手で抱いて連れてけばいいでしょうが」


「何かの拍子に落とされたりしたらどーすんの。こんな古臭くて汚そうなトイレの床にダイビングなんて、冗談じゃないわ」


「……なら大和に」


「それこそ冗談じゃねぇっての!」


「メイよ、行ってやれ。ここであーだこーだしとる時間が惜しいわい」


「他人事だと思いやがって……あぁもうっ、わかったわよ。行けばいいんでしょ。行けば」


「ごめんね? 急ぐから、ね?」


「そーしてちょうだい……」


 こうしてメイとやよいは女子トイレの中へ。

 大和とペン八、それにメリーの3人はトイレ前の廊下にて待機することになった。


「……やっぱり中は怖いね」


「出来る限り早く出たいもんだわ……匂い的にも」


「じゃあメイちゃん。すぐ終わらせるから」


「是非ともそーしてちょうだい……」


「……ドアの前で待っててね?」


「当たり前でしょ。個室の中まで同行する気はサラサラないわよ」


「……置き去りにして、先に行っちゃヤダよ?」


「しないから安心しなさい」


「……大声出して脅かしたりとか、上から水かけたりとかしたらヤダよ?」


「……しないから。安心しなさい」


「あとね? 急にノックされるとビックリするから、用があったらまずは声を出してから……」


「――いいから早く入れっ!」


 メイに怒鳴りつけられ、ようやくやよいは個室の方を向いた。


 彼女たちがいる女子トイレ内には個室が3つ。

 やよいは少しばかりどれにするか迷う動作をしてから、真ん中の個室のドアを開けた。


「……なに迷ってんの? どれも開いてんのに」


「え? んーとね、『どれにしようかな』で決めたんだけど……残念ながら右から3番目だったので、その隣にしました」


「あっそ」


「あ! 『神さまの言うとおり』まで入れてやった方がよかったかな?」


「――はよ入れっつうの!」


 やよいは半ば押し込まれる形で個室へと入り、扉を閉めた。

 メイは憤慨こそしているが、それでも律儀に扉の前で待ってやっている。


(あー……ペース狂うわホント)


「メイちゃーん。いるー?」


「はいはい。いるわよー」


(……ったく。アタシゃお母さんじゃないっての)


「メイちゃーん。いるー?」


「いるわよー」


(……どんだけ怖がってんのよホント)


「メイちゃーん……」


「――いるっつってんだろうが! しつこいわ! あと確認する間隔短すぎるわ!」


 さすがのメイも辛抱できず、個室のドアを軽く蹴り飛ばした。


「だってぇ……中はほとんど真っ暗なんだもん。怖いですよコレ」


「いーからチャッチャとして……頭痛くなりそうだわ色んな意味で」


「はーい。もうちょっとー」


(大和も大変ねぇ……あ、アイツも天然だからちょうどいいのか)


 ふと、メイはある事を思い出し、先ほどやよいが避けた……個室の前に立った。


 『女子トイレ』、『右から3番目の個室』。


 2つのキーワードから、とある怪談話が頭をよぎったのだ。


(一時期流行ってたわね……『トイレの花子さん』。かなり懐かしい感じがするけど)


 普段のメイであれば「くだらない」と一蹴していただろうが、今の状況を考えるとあながちあり得ないとも言えない気がする。


 断言は出来ないが、校舎内に幾つもある強い霊力の発生箇所……その1つが、どうもこの女子トイレの辺りから感じとれていたこと。


 加えて、ここに至るまで口裂け女にメリーさんという、都市伝説に直接遭遇してしまっているのだから。


「まさかねぇ? さすがに、ねぇ?」


 そう口にしながらも、念のため扉の向こう側を確認するメイ。

 記憶にあった『右から3番目の個室の扉を3回ノックする』という『花子さんと出会うための手順』を踏んでから、メイは扉を開ける。


「………………」


 そして固まった。

 そこで待ち構えていた、それを目にして。


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