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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
学園の怪談 編
32/51

メリーさんの電話 2


「……今度は俺か」


「やっぱり『圏外』なのに着信。100パー『メリーさん』ね」


「出た方がいい……よな?」


「出てみたら? 2回目の着信でいきなり襲ってくるってことは無いだろうし」


「じゃあ……不安だけど」


「でも不思議だよねぇ……『圏外』なのに電話が掛かってくるなんて」


 やよいだけは現状に気付いていないようである。

 メイの頭の上で気絶したままのペン八も。


「アンタへの説明は後でするわ……とりあえず大和、電話に出てみなさいな。責任はとらないから」


「とらねぇのかよ! ……もしもし?」


 仕方なく着信に応じた大和。

 彼からは特に何も発することなく、通話はすぐに終了した。

 電話の影響で、少しだけ顔色が悪くなったようにも見える。


「……どうだった?」


「……予想通り。あの『メリーさん』だった」


「その人って、そんなに有名人?」


「面倒だからアンタへの説明は後」


「のけ者にされたぁ……」


「……で。やっぱ近付いてきてた?」


「あぁ……『いま廊下のカドにいるの』だってさ……さっきの舞への電話が『同じ校舎にいる』だったから」


「近付いてきてるわね……つーことは次あたりで」


 彼女の予想通り、間を置いて廊下に再度着信音が鳴り響く。

 今度はメイの携帯電話への着信だった。


「やっぱ来たか……」


「どうするんじゃ。無視するのか?」


「出るに決まってるでしょ……逃げる必要がドコにあんのよ」


(なんか知らんがすごい自信だ……)


 メイは鬱陶しいと言わんばかりに勢いよく携帯を開き、受話のキーを押す。


「あー……もしもし?」


「……あたし……メリーさん……」


 電話口の向こうから響く、想定通りの台詞。

 声の主は幼い少女のようだが、その声には時折ノイズが走ったように雑音が混じり、酷く澱んで聞こえる。

 緊張した面持ちでメイの様子を見つめる大和とペン八、相変わらず事情が飲み込めていないらしいやよい。


(予想っていうか、想像通りだったわね……)


 一方で当のメイはといえば、まるで平常運転。危機感など微塵も感じてはいなかった。


「………………」


「ふふふ……今、あなたの後ろにぶっ!?」


(殴ったぁー!?)


 メイが放ったのは光速の拳。

 分かりやすく言うと右手の甲による、裏拳。

 自身の右肩後ろへほぼノーモーションで放たれたそれが、彼女の背後にいた『メリーさん』なる者の顔面にめり込んだのである。


「ぐっ……がっ……! にゃ、にゃにふんのよ!?(なにすんのよ!?)」


「ふーん。アンタがねぇ……」


 潰されかけた鼻を押さえ、涙目になりながらメイを睨みつける彼女。

 アンティークなブロンドのロングヘアー。大きなリボンが目立つ、ゴシック調のドレス。

 全長30センチ程度の、まるで生きているように振る舞う目の前の人形。

 この人形こそ、先ほどから自分でも名乗っていた『メリーさん』である。


「そいつが……『メリーさん』か……!」


「かわいい人形だねー」


「……お前さんもメイに負けず劣らず、のんきじゃな」


「へぇ……案外イメージ通りの人形なのねアンタ」


(……なんなのこいつら)


 彼女……メリーさんの前に立つ、3人の人間とペンギン。

 なんでこんな場所にペンギンがいるのかという疑問がまず浮かんだが、とりあえず彼女にとって不可解だったのは、本来なら自分を見たら叫び声をあげてもいいはずの女子2人が全く動じていないということ。

 男の方はさすがに緊迫した表情で身構えているが、残りの奴からは恐怖という感情がこれっぽっちも感じられない。


(ま、まぁ……あのペンギンはどうでもいいとして。それよりも……!)


 顔面のダメージもようやく引いたメリーさんは、懐からそれを取り出した。

 点滅する蛍光灯の光を反射する、見るからに鋭利な銀の獲物。


「あら」


「ナイフ……? メイっ! 危な……っ!?」


 危険を感じ、彼女のもとへ駆け寄ろうとした大和が驚愕する。

 一歩前へ踏み出したのを最後に、彼の全身はまるでコンクリートに埋め込まれでもしたように意思が伝わらなくなり、固まってしまった。

 見れば、不敵な笑顔を浮かべているメリーさん以外……メイも舞もペン八も、彼と同様のようであった。


「これは……!?」


「むっ……」


「あ……あれ? 身体が……」


「……ふぅん。金縛りってワケね」


「ふ……ふふ……あーっはっはっはっは!」


 戸惑っている様子の彼らを見て、メリーさんは腹を抱えて笑う。

 ようやく彼女が望んでいた反応を見られたことへの満足感、おそらく目の前の人間たちが今感じているであろう絶望感を想像して。

 手にしたナイフをちらつかせて舌舐めずりをしながら、彼女は1歩ずつメイたちへと近付いていく。


「くふふ……さーてと」


「くっ……!」


 大和は必死に全身を包む呪縛から逃れようとするが、四肢はおろか首から上すらも微動だにしない。出来なかった。


「安心しなさい。ちゃんと全員仲良く内臓取り出してあの世に送ってあげるから……ま・ず・は」


「………………」


 彼女は笑顔で迷い無くメイのもとへと近付いていく。

 しかしながら、メイの表情に焦りや恐怖の色はまったく見られない。


「あなたからね……赤髪のブサイクさん」


「あ゛?」


(あっ……マズ……)


(……命知らずじゃな)


 その場にいた大和とペン八だけは察知した。

 軽はずみな発言が、メイの堪忍袋の緒を切ってしまったことを。


「きゃはははっ! さっきのお返しに、まずはその顔をズタズタにしてもっと醜く――ぐふぅっ!?」


 握り締められたメイの拳が、目に見えぬ速さでメリーさんの頭部にゲンコツを見舞った。


「がっ……なっ、なんで!? だってあなた、あたしの金縛りに……!」


「確かにかかったわよ? ……最初だけね。悪いけどこの程度の呪縛、解くのなんてワケないわよ」


 手も足も出ぬよう追い詰め、後は狩るだけと思っていた形勢が一瞬で互角か……それ以上にメイの側へ。


「く……! こ、このっ!」


 逆上し、冷静さを失ったままメイの顔面めがけて鋭いナイフが振るわれる。

 が、メイはその切っ先を避けるどころか指1本で弾き飛ばした。


「なっ……!?」


 弾かれたナイフは床板へと突き刺さり、彼女……メリーさんは刹那の出来事に驚愕の色を隠せない。

 自分を怖がらないばかりか、金縛りを自力で解き、攻撃も防御もおよそ常人を超えている。


「あ、あなた……ひいいいいぃぃぃぃっっ!?」


 いったい目の前の少女は何者なのか……その疑問を口にしようとしたが、次にその口から出たのは恐怖と驚きによる腹の底からの悲鳴だった。

 人間離れしてはいるが、見た限りどう見ても人間にしか見えぬメイという名の少女。

 その少女の雰囲気が一変し、この世ならざる者の存在を纏い始めた。

 それは妖怪や幽霊なんて生易しい存在ではなく、もっと上の……自分には決して届かぬであろう、絶対的な壁を隔てた上位種。


「あ……あ、あああアナタもも、もしかもしかして、悪――魔――っ!?」


「知ってるなら説明は要らないわね…………んでぇ? だぁーれぇがブサイクだってええぇぇぇ……?」


「ひいいいぃぃっ!? ち、ちちちがっ! 違うの、違うの! あれは言い違えたっていうか、言葉のあやっていうか決してそういうのじゃ……!」


「ゴチャゴチャと……やかましいんじゃド腐れ人形があああぁぁぁっっっ!」


「うひぎいゃああああぁぁぁぁぁぁっっ……!」


 凶器を失い、戦意を失ったメリーさんに襲い掛かる容赦ない反撃。

 怒号と絶叫と震動と殴打音が廊下にこだまする。

 恐竜も逃げ出しそうな状況。和太鼓よりも腹に響く大騒音だった。


「うわぁ……」


「さ、さすがにアレはかわいそうなんじゃ……」


「……あぁなると腹の虫が収まるまで止められんわぃ。そもそもワシら今動けんしな」


「……たしかに」


「ちょ、ちょっとあんたら! 金縛り解いたげるから、このゴリラ女を止め……っ!」


「誰がゴリラ女じゃゴラアアアっ!」


「あががああぁぁぁぁーっ!?」


 金縛りにあっていなければ大和たちは絶対に目を覆ったであろう、恐ろしい惨劇。

 大和たちに出来る事と言えば、メイによる私刑が出来るだけ早く終わってくれることを祈るだけだった。


 活火山の如きメイの怒りが収まり、彼女らのいる廊下から絶叫が消えたのはおよそ10分後のことである。


「……あースッキリした」


「う……ううぅぅ……」


 金縛りも解け、自由になった大和たちの足元にうずくまるメリーさん。

 ボロボロだが、どうにか五体満足の状態を保てているのはメイの僅かばかりの優しさと言っていいだろう。



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