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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
学園の怪談 編
26/51

神隠し 2


「え……私ですか? っていうか、あなた……は……?」


「アタシ? そうねぇ……パッキーチョコくれたら教えてあげるわ。ってか、そんなことはどーでもいいの。ちょっと聞きたいことが……」


「ちょ、ちょっとメイ!」


「何よダイワくん。そんなに慌てちゃって」


「ヤマトだよ! たしかにそうとも読めるけど、ヤ・マ・ト・だよ!」


「えーっと……大和くんの知り合い……?」


「そそ。一夜を供にした仲よ」


「いやいやいやいや! さっき会ったばっかだろーが!」


「大和くんって意外と浮気性だったんだ……」


「真に受けんなよ! つーかそんな哀れむような目で俺を見ないでくれよ!」


「ダイワったらヒドイ……すっごく……痛かったのに……」


「俺が何したっていうんだよ!? いや、何もしてないけど、俺が何をしたよ!? あと、ヤマトだよ!」


 騒ぎに集まってきたクラスメイトたちにあらぬ疑いをかけられ、必死に弁解を始める大和。

 そんな彼をよそに、メイは聞き込みを続けるのだった。


「えっと……それで、メイちゃんだったっけ?」


「まぁそうなんだけど……アタシの名前なんてどうでもいいのよ。それより、アンタさっき『意外と浮気性』って言ってたじゃない? 大和って、意中の人でもいたりするワケ?」


「そりゃもう……クラスの名物だから。大和くんとやよいちゃんは」


「やよいちゃん? ……それってもしかして、大和の幼馴染の?」


「そうそう。学年1の有名カップルかもしれないね。本人たちは恥ずかしがって認めないけど、ありゃどう見ても相思相愛ですヨ」


「……もしかしてその娘、今日休んでたりする?」


「うん。今日は朝から来てないね。滅多に休まないんだけど……」


(どうやら……その娘でビンゴみたいね……となると)


「……ねぇ。そのやよいちゃんの席ってドコ?」


「ん? えっとね、あそこだよ。1番後ろの、右から2番目」


「さんきゅ……お礼にコレあげるわ」


 そう言ってメイが手渡したのは、パッキーチョコの夏限定味……の、空き箱である。


「いや……ゴミ箱ならそこにってもういないし!?」


 メイはとっくに、教えてもらった『やよいちゃん』の席へと移動していた。

 奇術師もビックリの視線誘導と移動である。


(ここか……昨日まで登校してたんなら、教科書の1冊くらいは……と)


 無遠慮に机の中へと手を突っ込む。

 といっても何か盗ろうなんて気はさらさら無い。

 これも彼女なりの情報収集の一環なのだ。


(あった。……几帳面ね。ちゃんとキレイな字で名前書いてあるわ)


 適当に取り出した教科書の背表紙に羅列していた、持ち主の氏名。

 『信濃 やよい』

 それが、神隠しに遭ったかもしれないという、大和の幼馴染の名前らしい。


(しなの、やよい……ね。……と、名前よりもこっちこっち)


 たしかに捜索にあたって名前を知るのも重要ではあるが、メイにとってそれはさほど問題にはならない。

 彼女が知りたいのは、普通の人間には分からない要素であった。


 教科書を手にしたメイは目を閉じ、意識を手元に集中させる。

 大和や、教室内に残っていたクラスメイトたちの騒ぎ声が聞こえてくるが、今の彼女には気にならなかった。


(……なるほどね。目的達成かな)


「だから――うおっ!?」


 必要な情報を得たメイは、手にしていた教科書を机の中に戻す。

 と思えば、すぐさま大和の襟首を掴み、片手で引きずって教室を後にした。

 まるでハリケーンが通り過ぎたかのような一瞬の出来事に、教室内にいた生徒たちはただ唖然とするしかなかった。


(なんだったの……あのメイちゃんって娘……それに)


 パッキーチョコの空き箱を手にしたまま、少女はメイの背中にくっついていた物体を思い出す。


(あれって……ペンギン……?)


 その日からしばらくは『ぐったりとしたペンギンを背負った、謎の美少女』の噂で、クラスの話題はもちきりとなった。


「ちょ、ちょっ……放――苦し……!」


「はい。おそらくとーちゃく……っと」


 襟首で呼吸困難になっていた大和が解放されたのは、階段の踊り場に到着してからだった。

 規格外に広い校舎に相応しく、階段もかなり余裕を持った広さ、作りである。それこそ、無駄にと言えるほど。

 踊り場もまた然り。

 しかも生徒の服装や生活態度への訓示のつもりなのか、全身が映るほどの大きな姿見の鏡まで置かれている。


「ゲッホ……ゲッホ……オエッ! なっ……なんなんだよ急に」


「アンタのクラスでの情報収集は終わったからね……ココでいいの? やよっちがいなくなった階段の踊り場って」


「普通に『やよい』って呼べって……そうだよ、この場所。アイツがいなくなったのは」


(なるほど、ね)


「う、うむ……ここは……?」


「あ、忘れてたわ……おはよーさん。ペン八」


 背中に密着していながら忘れ去られるほどの沈黙、グロッキー状態であったペン八だが、ここに来てようやく意識を取り戻した。


「む……? シャケはどこいった? ワシの目の前に山積みじゃった、シャケのムニエルはどこいったんじゃ?」


「胃もたれしそうな夢だな……」


「アンタにとっちゃ幸せな夢だったんでしょうね……」


 メイは寝ぼけ眼のペン八を降ろし、これまでの状況を説明する。


「なるほどのう……大和のクラスで情報を得て、この場所でその娘が行方不明になって、シャケのムニエ……げふっ!?」


「どんだけシャケに未練あんのよ。いい加減目覚めなさい」


 目覚ましとしては殺傷力のあり過ぎる、綺麗なフォームのかかと落としが決められた。


「いつつつ……し、しかしじゃなメイ。神隠しの現場に来たからといって、どうする気じゃ?」


「よく言うでしょ。『犯人は現場に戻る』って」


「いや、その例えは……なんか使い方間違ってる気がしないですしないですから殺さないでメイさんごめんなさい」


 大和は今にも泣き出さん勢いで謝罪を繰り返す。

 殺意を宿した視線は、時に拳銃より恐ろしいものとなり得るのだ。


「と、まぁ冗談は置いといて……いつまで肝冷やしてんのよ大和。あのさ、アタシ聞き込みしたいんだけど」


「……そのために校舎入ったはずなのに、ロクに目的果たしてないような」


「40回くらい死んでみる?」


「なんでもありません……それで? 聞き込みしたいって、誰に……」


「アンタによ」


「……俺?」


「そ。アンタの幼馴染のやよいっちんぐがいなくなった時のことをね」


「普通に呼んでやってくれ……最初に言った通りだよ。2人で帰ろうとしてたら、この場所で消え……」


「そこまでは知ってるわ……アタシが聞きたいのは、やよいが消えた時の状況よ」


「状況……?」


 やよいが、大和と共に下校しようとこの階段を下りていた際に姿を消したのは、既に大和から聞いて把握している。

 メイが知りたがっているのは、その時のこの場所での詳しい状況。

 2人の位置関係。彼らの他に誰か別の人間はいなかったのか。この場所……階段の状況はその時と同じなのか、ということ。


「じゃあ……アンタの記憶の通りなら、その時ここには2人だけ……アンタと、やよいしかいなかったと」


「うん……それは確実だと思う。俺たち以外の話し声も、足音もしなかったし」


「で、この場所の状況は昨日と変わらず……ということじゃな?」


「あぁ。って言っても、この階段にある物なんてそのデカイ鏡くらいだし。昨日と……というか、いつもと変わらないよ」


(鏡ねぇ……)


 大和が指差した踊り場の鏡。

 ガラスの表面は軽くぼけてしまっており、木造の額はすっかり変色している。

 いったいどれほど古い物なのだろうか。

 見た目からして、まさにアンティークといった感じである。


「………………」


「メイ……どうした?」



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