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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
学園の怪談 編
23/51

旧校舎の噂 2


「生徒が1人、いなくなったんです……同じクラスの女子なんですけど、今日も登校してなくて」


「……いなくなったのっていつよ?」


「昨日の放課後です。俺その時、その娘と一緒にいたんですけど……ちょっと目を離した間に消えたっていうか、居なくなってて……」


「アンタが気付かないうちに帰ったんじゃないの?」


「それはないと思います……2人で一緒に帰ろうとしてたし、アイツが消えたのは階段を下りる途中で、俺の後ろにいたはずですから」


「……じゃあ気付かないうちに帰ったてのは無理か。窓から外に出るとも思えないし」


(……お前さんならやりそうじゃがな)


(黙りな。クソペンギン)


 声に出さずとも熾烈な争いをするメイたちには気付かず、少年は話を続ける。


「アイツの家にも電話してみたんですけど……家にも帰ってないみたいで」


「その話がホントなら……まさに『神隠し』ってワケね」


「昨日の今日だから、まだ騒ぎにはなってないですけど……」


「………………」


 メイは咥えたコーラの缶を傾けつつ、目の前の少年を観察する。

 勘ではあるが、嘘をついているようには思えない。

 加えて、その同級生の身を案じていることもひしひしと伝わってくる。


「まぁ、事情は把握したけどさ……アタシにどうしろってのよ」


 投げやり気味なメイの態度にもめげず、少年は再び頭を下げた。


「手伝って欲しいんです……アイツを探すのを」


「だからなんでそれがアタシなのよ。そういう話だったらまずは教師とか警察に……」


「俺……見ちゃったんです。さっき路地裏で……あなたのこと」


「ぶっ!?」


「ぬおぉっ!?」


 少年の言葉に驚き、口に含んでいたコーラを思わず噴出したメイ。

 放たれたコーラは、極小の虹を描きながら隣に座っていたペン八の顔面に直撃した。


「――なにさらしてくれとんのじゃ貴様ぁっ!」


 さすがに怒りを露わにするペン八。だがメイは咳まみれでそれに応対する余裕は無い。


「ゲッホ! ゲッホゲッホ……! む、むせた……」


「むせたじゃないわ! わざわざご丁寧にワシの方を向いて噴出しおって……あ」


「えふぇっ……ゲッホ……マジでむせたんだからしょうがないでしょ!? 不可抗力よ! 不可抗りょ……あ」


 メイとペン八は同じタイミングで固まった。フリーズした理由はどちらも同じだろう。

 予想外のアクシデントに、思わずいつも通りのやりとりをしてしまったこと。

 目の前にいる、少年の存在を忘れて。


「あ……あはは。び、びっくりした? これはその、水をかけると声を出すっていう新手のヌイグルミで……」


「……いや、そのペンギンが喋るのは知ってるよ?」


「え……」


「え……」


 少年からの予想外の言葉に、再び全身が固まる2人。


「さっき話してたの見たから……あ、っていうかペンギンでいいんだよね? 間違ってたらごめ……」


 少年の次の言葉を待たず、メイは鬼気迫る表情で少年の胸ぐらを掴む。右手には先ほどのハサミを握って。

 その流れるような動作たるや、刹那の出来事であった。


「へっへっへっ……見ちまうたぁ兄ちゃん、運が無かったねぇ……」


「いいぃっ!?」


「コラコラやめんか……どっこいしょ」


 誤魔化しても仕方ないと考えたのか、ペン八はヌイグルミのフリをやめ、2人の元へと歩み寄る。


「しかし少年。ワシが話しとるのがよく見えたのう……距離があるから大丈夫だと油断しとったが」


「いやぁ……目と耳がいいのが取り柄でさ」


「ついでに顔もいいだろってか? あ? 顔も良くて前髪伸ばしてる俺、カッコイイだろってか? あん?」


「言ってません思ってません考えてませんこれっぽっちも」


「脅すのもいい加減にせんか……じゃが少年。ワシを見て驚かんのか?」


「何を?」


「……喋らんじゃろう。普通のペンギンは」


「……あぁ! そういえばそうだね!」


 ペン八に質問されてから思い出したのか。

 少年はあっけらかんとした表情で答えた。


(……天然か)


(……天然ね)


「……?」


 無言のまま珍しく意見が合った2人、その様子を見た少年は不思議そうに首を傾げていた。



「やれやれ……こりゃ、1本とられたのぅ」


「はぁ……しゃーない。とりあえずそのうざったい前髪を断髪するのだけは勘弁してやるけどさ……」


(そのためのハサミだったのか……)


「……アンタさっき言ってたわよね? アタシのこと路地裏で見たって」


「うん。それで追いかけてきたんだけど……」


「……ちなみにさ。アタシがチャラララするとことか、ニャホニャホしちゃうとことか見てたワケ?」


「なんじゃいその擬音は」


「それって、天使みたいな翼とか、悪魔みたいな翼を出すところかな……?」


「バッチリ目撃されとるなお前」


「……ほぉーりぃしっと」


 さすがのメイも額に手を当て、天を仰いだ。

 背後の口裂け女に集中してしまい、あの路地裏のどこかに少年がいたことに気付けなかったのだろう。


「あ、ごめん……ホントに偶然っていうか、覗き見るつもりはなかったんだけど……なんか、出て行ったら悪そうな雰囲気だったから」


「……んーん。いいのよぉ? 気にしてないからさぁ」


 謝罪する少年に対し、メイは穏やかな笑顔を見せる。その心中とは真逆の。

 だが次の瞬間には、先ほどと同じような構図で少年の喉元にハサミを押し当てていた。


「よぉーし。じゃあ『死人に口なし作戦』始めよっか?」


「いいいいぃぃっ!? わわ、悪かった! 悪かったです! 絶対言いませんから!」


「そのへんにしといてやらんか……それで? どうするんじゃ?」


「どうするって、なにがよ?」


「この少年の言う『神隠し』の話に決まっとろう……引き受けてやるのか? やらんのか?」


「決まってるじゃない……」


 メイは何をいまさらという表情を見せると、ようやく手にしていたハサミをしまい、少年を解放した。

 同時に、微塵もやる気のない態度で踵を返し、プラプラと公園の出口に向かう。


「面倒だからパス」


「……お前さんらしいわい」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいって!」


「大丈夫よ……アンタ若いから、なんとかなるって」


「いや大丈夫な根拠になってないですって!」


 サッサとその場を離れようとするメイと、どうにか引きとめようとする少年。


「アンタもなかなかにしつこいわねぇ……」


「どうしてもダメ……ですか?」


「ハッキリ言うけどさ……まず今日会ったばっかりの他人同士、そんなアンタを助ける理由がないってこと。それにたとえアンタがアタシの正体を言いふらしたところで、そんな話を信じる人間なんて皆無。だからアタシにとってそれは交渉材料……脅しにはならないワケ。それにそのクラスメイトがホントに『神隠し』に遭ったとは現時点では断言出来ない……まぁようするに、アタシがわざわざ苦労してその娘の捜索を手伝う必要はないってことよ」


「………………」


「反論は?」


「ない……けど……!」


 少年はうつむいていた顔を上げず、そのまま地に手と額をつけた。


「けど……お願いします!」


「また土下座って……アンタね、頭下げりゃあいいってもんじゃ……」


「幼馴染……なんです」


「………………」


「アイツに何かあったら俺……」


 少年が口にした、その単語にメイは足を止めた。


(幼馴染……ねぇ)


「なぁメイよ……ここまでしとるんじゃし、手助けしてやってもいいんじゃないかの?」


「ふぅ……しゃーないか。アンタ、もういいから顔上げなさいよ」


「じゃ、じゃあ、手伝ってくれ……!? うぐっ!?」


「………………」


 言われた通り顔を上げた少年。

 メイは間髪入れずそのアゴを掴み、観察するように彼の顔をジロジロと見つめた。


「え……う……?」


「……どーりでなんかムカツクと思ったら、アイツに似てるんだわアンタ」


「アイツ……?」


 メイは目の前の少年に、かつての知人……1人の、ある少年の面影を重ね、思い出していた。


「……こっちの話よ」


 メイは少年から手を離し、立ち上がる。


 それは、彼女しか知らぬ記憶。

 目の前の少年はもちろん、相棒のペン八も知らぬ、彼女の奥にある思い出。


 ペン八と、地に伏せたままの少年が見たその時の彼女……メイの瞳はどこか遠くを見つめ、黄昏の色合いを映していた。



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