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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
学園の怪談 編
22/51

旧校舎の噂


「……っていうカンジでさ」


 ペン八への説明を終えたメイは立ち上がり、ベンチ横の自販機へと向かった。


「ふーむ……今時そんな都市伝説がのぅ」


「アタシも遭遇したのは初めてだけど、ちょっと古いわよねぇ……あ、アンタもなんか飲む?」


「おう。ブラックで」


「ペンギンのくせにコーヒーとか……オシャレを勘違いしてない? ……ほい」


「やかまし……あじゃじゃじゃじゃっ!?」


 メイが放り投げた缶コーヒーを受け取ったペン八だったが、次の瞬間には短い手をパタパタと振るい、缶のお手玉状態になった。


「な、なんじゃこりゃ! 熱々の缶コーヒーって、ふざけとんのか!?」


「あー。ここの自販機、昔からオールシーズン品揃えが変わんないのよ。ちょっとした名物ね」


 それでもわざと『あったか~い』表記のコーヒーを買った確信犯。

 自分はキンキンに冷えたコーラでリフレッシュタイムである。


「この炎天下にホットコーヒーて……ワシを殺す気か」


「……アンタ霊魂でしょうに」


 さすがにそのまま口にする気にはなれず、木陰に置いて冷めるのを気長に待つことにした。


「やれやれ……しかしいいのか? そやつを野放しにしておいて。いくら凶器を持ってきたとはいえ……」


 ペン八は口裂け女のハサミを手に取り、それに光を当てるように眺める。

 刃に汚れの1つもなく、おそらくは使用したことの無い新品だろう。

 逆に考えればこれで傷つけられた人間……被害者もいないのではということだが。


「大丈夫っしょ。ちょっとキツめに脅しといたから……しばらくは軽い対人恐怖症じゃないかしらねー」


「まぁ……だといいが……ん?」


 前方に何か発見したのか、ペン八は目を点にし、急に固まったように動かなくなった。


「……? どしたの急に」


 メイの問いに答えるペン八の声は、隣にいる彼女がギリギリ聞き取れる程度の小声になっていた。


「しっ……今のワシはヌイグルミじゃ」


「……は?」


「……前を見てみろ。こっちを見とるヤツがおる」


 ペン八に促された方向に目を向けると、公園の入り口にたたずむ人影が1人。


「な?」


「あら……ん? ってことは、今のアンタはヌイグルミだから、踏みつけられても文句言えないわけで……」


「いやシャレにならんからやめ……っておい。こっちに来るぞ……!」


「ヤバイわね……とりあえずアンタはヌイグルミのふりしときなさい」


(……最初にワシが言ったんじゃが)


 近付いてきたのは黒髪の少年。

 メイも知っている学園の制服姿。身長はメイよりもやや上、歳は16、7といったところか。

 ショートカットではあるのだが、眉間を隠し、鼻頭まで届くほど伸ばされた前髪の中央部が特徴的である。


「……なによ?」


「あ……えっと、その……」


(なんじゃコイツは……?)


 少年はメイたちの元へと近付いては来たが、なにやら煮え切らない態度で言葉に詰まり視線を泳がせている。

 そんな少年を、メイはゴミ収集所に集まるカラスを見るような目でジロリと睨み、ペン八はヌイグルミのフリをしたまま観察を続けた。


「言っとくけどナンパならお断りだかんね……それとも何? 薬でも嗅がせて路地裏にでも連れ込もうっての?」


「い、いやいや! そんなことしないって!」


「だったらなおさら何の用なワケ? 見せ物じゃないし、見たいんだったら金取るわよ。1分3万円」


「高っ!? ってそうじゃないって! ちょっと聞きたいことがあったからさ……」


 相も変わらず利用しようとする相手以外には初対面から容赦ない対応のメイだった。


(そこまでの価値もないじゃろうに……)


(クチバシ砕くわよクソペンギン……黙ってなさい)


「で。聞きたいことって?」


「あ、あぁ……うん……」


(……随分と煮え切らん男じゃな)


(……メンドくさいわねぇもう)


「その、なんていうか……」


「………………」


 少年から話しかけられた時から不機嫌だったが、それに輪をかけてメイは不機嫌になっていった。


「……えっと」


「――っだぁもうっ! イライラさせんじゃないわよこの前髪男ぉ!」


「いだだだだだだだああーっ!?」


 我慢と怒りの沸点到達からの頭髪一本釣りコンボである。


「なんなのこの前髪! なんで真ん中だけ伸ばしてんのよ! 『前髪ダラっと伸ばしてカッコイイ俺』とでも思ってるワケ!?」


「お、おお思ってません! 思ってませんって!」


(あー……前にワシもやられたなアレ)


 彼女らの他に人気の無い公園内から騒がしさが消えたのは、およそ数分後である。


「……マジで頭皮ごと持っていかれるかと思った」


「お望みならやってあげてもいいけど?」


「カンベンしてください……」


 どうにかメイの苛立ちも落ち着き、ベンチに腰掛けて冷たいコーラを飲みながら話を続ける。


「で……いいかげん話しなさいよ。用件ってヤツをさ」


「う……うん。その……」


 メイの無駄に尊大と相まって、2人の様子は傍から見たら圧迫面接か会社重役からのお説教のようである。


「……アンタねぇ。それ以上オドオドして沈黙続けるようなら、こっちにも考えってモンが……」


 いい加減蹴りの1つでも入れようかと思っていた矢先、目の前の少年はいきなり地に額をつけた。


「――お願いします!」


「……は?」


(なんじゃ……?)


「……助けてください」


 微塵も予想していなかった突然の土下座にメイもペン八も、目を点にして固まった。


「なんなのよ一体……助けてくださいって、ぜんっぜん意味が分からないんだけど?」


「……呉野学園って、知ってますか?」


 呉野学園くれのがくえん――メイたちが今居る巨大都市『呉野市』における、中高一貫のマンモス学園である。


「ん……まぁ、知らないこともないけど」


「俺、そこの生徒なんです」


「まぁ、それは制服見て分かってたケドさ……だからなんなのよ」


「実は今……学園で噂になってることがあって。その……『怪談話』っていうか」


「かいだん……? ふるくさっ」


「いや、一蹴しないで聞いてください……」


 すがるような形で事情を説明する少年。


 『呉野学園』は創立されてからかなりの年月が経つ、歴史ある学園である。


 しかしそれまで使用されていた校舎の老朽化に伴い、今年の春に新校舎が設立された。

 現在では新校舎のみが使われ、その隣に立つ旧校舎は立ち入り禁止となっている。

 近々、旧校舎の取り壊しも始まる予定だという。


 だが最近生徒たちの間で、とある噂話がささやかれているという。


「……旧校舎から女の声がするって?」


「はい……居残りで遅くなった生徒が聞いたとか、深夜に学園の近くを通った時に聞こえたとか……色んな噂が」


「ふーん……」


(ありきたりな怪談話じゃな……)


 メイはまるで興味が無いといった態度で、静かにコーラを飲み進める。


「もちろん、噂だけだったら俺も信じなかったんですけど……」


「……単なる噂じゃ済まなかったってワケ?」


 メイの表情が微かに強張り、少年は深刻そうな表情でうなずいた。



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