届かぬ声
――どうして。
場所は日本、季節は夏。
されど、身を包む空気から暑さは感じず、それどころか薄気味の悪い悪寒が走る。
――どうしてなの。
暗闇に近い、灯りのない教室。
隅の壁に背を預け、膝を抱えた制服姿の少女はうつむいたまま心の中で問う。
右手で握る携帯電話。彼女がいる、この教室内での唯一にして、頼りない灯り。
表示は圏外。示す時刻は、16時ちょうど。彼女が、この教室へやってきた時刻と同じ。
――なんでこんなことに……。
どれほどの時間、この教室にいただろうか。
何時間?
いや、何日?
時間の感覚など、とうに忘れてしまった。
教室の後ろ、壁に掛けられた時計も16時ちょうどを示したまま、その針は微動だにせず。
携帯電話に表示されている時刻も、もちろん日付も、少しも変化する様子はない。
――助けて。
初めのうちは、逃げ出すことを考えた。
扉を開こうとし、窓にも手を掛けた。
しかし何度試しても、それらは開かず。
彼女は、まるで夜のように薄暗いこの教室に閉じ込められていた。
――誰か。
もはや自力での脱出は諦め、今はただ助けを懇願するのみ。
誰かが気付き、誰かが手を差し伸べてくれることをただ願って。
――誰か……助けて。
表示されている時刻は、夕前にもかかわらず。
窓の外に、陽の光はなく。
まるで、世界からこの校舎と共に、切り離されたよう。
――やまと……。
彼女はただ願い、脳裏に浮かぶ、彼の名をつぶやく。
そして切望する。
この場所から自分を救い出してくれる存在、奇跡のような何かを。