下界への門 2
シュアが監視塔へと戻って数分後。
メイたちの目の前にそびえる天下の門。
威圧的なまでの重厚さを纏っているその門に、ある変化が現れた。
それは、小さな光。
巨大な門の、ちょうど中心にスッと現れた、おそらくは小指の先よりも小さな光。
豆粒のような光は、空に打ち上げられた花火が、その光の輪を広げていくかのように。
放射状の直線で、中心から隅へ。やがて門全体へ電流が走るように進み、広がっていく。
数本の光の線が2本に分かれ、それらがまた分かれ、さらにそれらが……それの繰り返し。
門に施された、目を奪われるような細かく、精巧な彫り装飾。
その溝を埋めるように、その立体的な絵画のふちをなぞるように、光線たちが走っていく。
やがて、それらの光線が門全体……四角まで到達したとき。
門を、ちょうど中心で縦一文字に切り裂いたかのように、鋭く、そして巨大でまばゆい光が放たれる。
地響きのような音。門から発せられる光は一呼吸ごとに大きくなり、ついに門は開け放たれた。
向こう側が見えぬほどにまばゆい……先ほどまで目の前にあった門のサイズと同じ大きさの、まさしく光の壁を形成して。
光の向こう側は、下界。これが、天下の門。
この世とあの世を繋ぐ、唯一の門。
門が開く様子を、一部始終見つめていたメイとペン八。
メイにとって、それは初めての光景ではない。
しかし彼女の胸の内は弾んでいた。久々に下界へと降りられる喜び。
それは未知の冒険へと繰り出す、若者の心境によく似ていて。
「シュア、さんきゅーっ。帰ってきたら、お土産に『パッキーチョコ』の空き箱あげるからね」
「――いらない」
「んじゃ……行くわよペン八! レッツ下界っ!」
微笑ましいほどはしゃぎながら、メイは門の中、光の先へと飛び込んで行った。
「だからワシの名はペンディエール8世じゃと言って……って待て待て! 置いていくなというにっ!」
光の中へ吸い込まれるように消えていったメイを追いかけ、慌ててペン八も門の向こう側へと飛び込む。
「――――――」
2人の姿が光の中へと消え、見えなくなったのを確認してからシュアは門を閉めた。
何気なく監視塔から出、シュアは門の前に立つ。
いつも見慣れた景色。いつもと変わらぬ門の外見。
だがシュアはその時、これまで感じたことの無かった不思議な違和感を覚えた。
「――風」
一陣の風が、その白銀色の髪を踊らせる。
天界にも、風が吹かないワケではない。
だが下界と違い、天界のそれは穏やかで心地良いもの。
このような、ともすれば悪寒を感じかねないような風は、今まで吹いたことが無かったはず。
「――――――」
シュアの脳裏に、ここ最近天界下界問わず発生している問題……魂絡みのトラブルが思い浮かんだ。
先ほどの珍しい風といい、何か異変でも起きているのか。
それとも、これから何か起きようとしているのか、と。
しかし、この場で考えても無駄なことだと思い、シュアはまた監視塔の中へと戻っていった。
ただの思い過ごしであること。
何も起きぬことを、ただ胸の中で願って。
こうして。
天界初の『悪魔で天使』な少女メイと、その使い魔ペン八は下界へと降り立った。
彼女たちはどこへ行くのか。
誰と出会うのか。
行き着く先にきっとあるであろう、新たな出会い。
悪魔としてのメイ。天使としてのメイ。
行き着く先、彼女が見せるのはどちらとしての顔か。
彼女らは歩み始めた。
神々さえ分からぬ、その道の先へ。
『プロローグ編』――Fin――