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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
プロローグ 編
16/51

下界への門

 ――天下の門。


 人間がよく使う言葉を用いるなら、この世とあの世を繋ぐ門。

 この門を通らずに下界へと降りることは出来ず、また下界からここ天界に来ることも出来ない。

 また天使や悪魔に開くことは出来ず、下界の民にはその存在すら知られていない。


 想像を絶するほど巨大かつ重鎮的な雰囲気を持つ門の隣。

 そこにそびえ立つ、高さでは傍らの門すら超えようかという円柱状の建物。


 この門を管理し、開閉の操作を行える天界唯一の種族が、この監視塔に駐在している。

 鍵人と呼ばれる彼らでなければ開けない、異なる世界を繋ぐ門。



「ほい。到着……っと」


 下界へと向かうため、天使界を飛び出したメイとペン八も、当然この場所へとやって来た。


「おーい! 誰かいるー!? 出てこないと目玉ほじくるわよー!」


 到着するなり、監視塔に向かってメイは物騒な叫びを投げつける。

 下界と天界どちらを探しても、これ以上の物は存在……構想すらされず、その必要性もないであろう巨大な門と、その監視塔。


 メイにとって小難しい理屈など知ったことではないが、天界における地としてどこまでも広がる雲の、その上にそびえる2つの建造物は、まさに度肝を抜かれる光景である。


 見上げれば星空よりも雄大で、見つめれば津波のような圧倒感。


 何度も訪れているとはいえ、メイですらこの場所にいると見えない何か……空気や雰囲気のようなものに全身が圧迫される感覚を覚える。


「ぜっ、ぜぇっ……や……やっと、追いついた、ぞ……」


 かなり遅れて、ペン八もようやく到着した。フルマラソン後のような状態で。


「あ、やっと来たの……アンタね、もう少し早く走りなさいよ」


「無茶言うな! ペンギンの身体構造考えんかいっ!」


「走れないなら飛んで……あー、ムリか。なんてったってペンギンだもんねぇ」


「……なんじゃそのニヤニヤした生温かい視線は。哀れみか! 鳥類なのに飛べない、ペンギンさんへの哀れみの視線か!」


 場所を変え、またしても些細な理由から死闘が繰り広げられようとしていた……ちょうどその時。

 先ほどのメイの雄叫びに気付いたのか、監視塔の入り口が開き、1人の鍵人が外の状況を覗いて確かめるように顔を出した。


「――騒がしいと思ったら。――やっぱりメイだった」


 扉を後ろ手に閉め、無表情のままメイたちのもとへ近付いてきたその人物。

 名を『シュア』という。


 雪のような白さと鉱物のような輝きを併せ照らし、スラリと足元に向かう白銀のロングヘアー。

 メイと同じ瑠璃色の眼。


 麗人。そんな言葉が適切なのではないかという、目鼻立ち整ったその顔は若干の中性さ……容姿から感じ取る性別差に曖昧さを感じさせる。


 この場所……天下の門を守る鍵人たちの1人であり、メイとはちょくちょく顔を合わしており。

 親友とまではいかないかもしれないが、知人と区切ってしまうのも微妙な関係である。


「やっほーシュア。2億年ぶり」


「――2日前に会った」


「そだっけ? いやー、ここんとこ記憶力がね……」


「――正確に言うと下界時間換算で2日と2時間13分41秒前」


「……うん。そこまで記憶力なくてもいいわ、アタシは」


 メイの典型的なボケには微塵も動揺せず。

 まるで丘の上でそよ風にでもあたっているかのように涼しい顔で答える。


 その無表情さ。

 まるで空気のような透明感。


 メイに対してだけの、特別な態度ではない。

 いつもと変わらぬ、誰に対しても、いつも通りの態度であった。


「なんじゃ、お前さんの知り合いか」


「そっ。シュアっていってね……ココの門の鍵人なの」


「――――――」


 シュアは微動だにしない。その四肢も、表情も。

 ただメイとペン八に視線を向けるだけ。


 喋ることはしているのだから、その口は明確に開閉運動をしているはず。

 しかし、その小さな口の動きはとても微小で、注視しなければ口を開いているかどうかすら見抜くのは困難。


 その姿は、まるで人形のように静かで、穏やかで、冷たい。


「ふむ……お前さんの脅しに屈するようなタイプには見えんが」


「ん……? アタシの脅し?」


「聞いた話では、いつも無許可で下界に行くときには鍵人を脅して、門を開けさせてたんじゃろ?」


「あぁ、それはまた別の娘の話よ……そういえばここしばらく見かけないけど、あの娘は?」


「――最近は監視塔の外に出たがらない」


「あらら……『引きこもり』ってやつ? まぁ若いうちは色々あるもんだからねぇ……」


 やれやれと言わんばかりにメイは肩をすくめた。まるで他人事である。


「……お前さんの脅しのせいじゃないのか」


「コラコラ。勝手に人のことを原因にしない」


「――それに訪門者が来る度に部屋の隅でガタガタ震えてる」


「やっぱりお前さんの脅迫が……」


「なんか言った?」


「別に……」


 明らかな真実を口にしようとしたペン八に音も無く向けられた、阿修羅のような殺気と睨みつける視線。

 さすがの彼も思わず口をつぐみ、視線を逸らしてしまう。


「――今日の用件は何?」


「あ、そうそう。忘れるトコだったわ……下に行くのよ。門を開けて」


「――また遊びに?」


 メイは天界でも名高い、無断外出の常習犯。

 疑われるのも無理はない……というより、疑われて当然である。


「ふふん……ざんねんでした。今回はちゃーんと任務で降りるんだから。ハイこれ」


 メイはこれ以上ないくらいに自慢げな顔で、神さまから貰った通行許可証を見せびらかすように服の胸元から取り出した。


「――偽造品?」


「……お前さん全然信用無いな」


「し、失礼ね! なんなら手にとって調べてみなさいよホラ」


 シュアは手渡された許可証を、透かしてみたり角度をつけて見たり……本物かどうかを細部まで確認する。


「――たしかに本物。――通行許可」


「確認にえらく時間掛かったわね……」


「日頃の行いじゃな」


「……クチバシ砕かれたい?」


「お断りします」


「――門を開ける。――待ってて」


 シュアは彼女たちの殺伐とした空気に関心を寄せることなく、通行許可証をメイに返すと監視塔の中へと戻って行った。



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