神さまからの贈り物 2
メイが神さまからプレゼントされた、2つの箱。
1つには、下界へと降りるのに必要な、天下の門の通行許可証。
それと、1人前だと認められた天使たちに支給される、イヤリングの飾り珠に納められた『奇跡の砂』が入っていた。
そして残ったもう片方の箱。
しかしその箱は、何の警戒もなく開けるのは躊躇するというか嫌な予感しかしない、何故かゴソゴソと動く箱。
「……まさかトラップで、中には爬虫類が大量に詰まってるとかじゃないでしょうね?」
「ふぉっふぉっ。どうかのぉ?」
「……誰かさんの持ってるゴールデンボール、両方握り潰してもいいけど?」
メイの目つきが妖しく光り、口元はニヤリとつり上がる。
その右手はニギニギと、何かを握るような動作。
彼女の発言と、手の動きの意図が分かった男子ならば、思わず背筋を凍らせるだろう。
もちろん、神さまも例外ではなく。
「ちょちょちょ……冗談じゃよ。そいつはの、『使い魔』じゃ」
「つかいま……アタシの?」
「他に誰がおる……お前さん用に決まっとろうが」
『使い魔』とは、悪魔だけが所持することを許される……彼らのみが扱うことの出来る動物の姿をした霊魂である。
霊力の塊である使い魔は、普段は悪魔のパートナーとして。
悪霊と対峙するなど、有事の際にはその身を武器とし、主人の手助けをする。
これもまた、見習いを卒業し1人前として認められた悪魔に神々より送られる、彼らにとっての武具となる物。
「え、貰えんの? アタシも」
「うむ。使い魔は悪魔しか持てんことになっとるが……今のお前さんは天使であると同時に悪魔でもあるんじゃ。なんら問題はあるまい……下界で、悪霊と対峙するということも十分想定できるからのう」
メイはそれを聞いた途端、目の色を輝かせて満面の笑みになった。
惚れ惚れするほど現金な少女である。
「さっすが神さま! 頭だけじゃなく、心までピカピカのツルツルだったのね!」
「やかましいわ!」
「なにかなー。アタシの使い魔はなんだろなー?」
一応感謝の言葉を口にした後は目もくれず。
メイは上機嫌の鼻歌交じりで箱を開けにかかった。
「可憐なアタシに相応しい黒猫? 漆黒の夜空に羽ばたくカラス……コウモリもいいわねー。それとも妖艶な大人の色気を演出する毒蛇とか……」
まるでクリスマスプレゼントをもらった子どものように、はしゃぎながら箱を開けたメイ。
「……あ゛?」
しかし中を覗き込んだ彼女の目に飛び込んできたのは、想像の遥か斜め上を行く、とんでもない使い魔だった。
大きな箱。
少しの無理をすれば、メイですらなんとか入り込めてしまうであろう、大きな箱。
その箱の中に、それは居た。
メイにとって初めての……これから数多の任務を共にこなしていく、パートナーとなる存在……その使い魔が。
その使い魔を目にしたメイは、絶句。
言葉が出て来ない。どうリアクションしていいものか分からない。
そんな見てくれの使い魔。
箱の蓋を開けた状態のまま、石のように固まってフリーズしているメイ。
そんな彼女に向かって、それは口を開いて言葉を発した。
「……お前さんがメイか。噂だけは色々と耳にしとるぞ」
それの声が聞こえていないのか、メイは眉一つ動かさず、ピクリともしなかった。
「なるほど。想像よりも若い……というより、幼いな。ワシからすればまだまだガキんちょじゃ」
1人というか、1匹で何かつぶやいているその使い魔。
メイは何の反応も示さず、ただ黙って箱の蓋を閉じた。
「あ? ちょ、ちょっと待て! なんで閉め……っ!?」
箱の外装越しに響く、それの抗議の声。
メイはその声を拾いはせず、ただうつむき黙って神さまの元へと近付いていった。
「どうじゃメイ? 気に入ったかの……アダダダダダっ!?」
そして無言のまま目の前にあったフサフサの白髭を引っ張り上げた。
「な、なんなんじゃいきなアダダダっ! 髭を引っ張るな髭を!」
「なんなのかって……それはこっちのセリフよジジィ! 何なのよアレは!?」
「な、何ってお前さんの使いまっ痛だだだだだだだだ!?」
「アレがアタシの使い魔って……ふざけんじゃないわよ! あんなのがアタシのパートナーだなんてね……!」
「……ふんっ。『あんなの』とは随分な言い草じゃな」
自慢のお髭を引き千切らんばかりの勢いで迫る、神さまへの猛抗議。
そんな彼女の後ろで、その使い魔は自ら箱の蓋を開け、這い出して来た。
「げ。出てきやがった……」
明らかにその使い魔を嫌悪する、メイの露骨な表情。
「自身の使い魔との初顔合わせじゃというのに、また酷い態度じゃな」
「顔合わせったってねぇ……」
その使い魔は、メイに負けず劣らずの尊大な雰囲気を漂わせている。
ハッキリ言えば態度や口調が、どこか偉そうである。その見た目に反して。
「なんじゃ。ジロジロ見おって」
「……って言ったってさぁ」
燃え上がる火の玉のような赤と黄の混じる鬣。
あからさまに目つきの悪い、つり上がった目尻。
その小さな全身を包む、青と白の体毛。
鋭利な先端、証明を反射する黄色の……クチバシ。
「もしかして……いや、もしかしなくても……」
短い両足を動かし、ヒョコヒョコとメイのもとへ歩いてくるその使い魔。
その姿は、メイが下界にいた頃からよく知っている。
いや。実際に対面した経験はないが、写真や映像でなら、何度も目にしてきた。
「ひょっとしてアンタ……ペンギン?」