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あくまで天使っ!  作者: 熊川修
プロローグ 編
12/51

天界の問題児 6


「その理由……言わずとも分かっておると思うが……」


「当然。アタシが悪魔で、天使だから……でしょ?」


 彼女……メイは、自身の存在において3つの顔を持っている。


 1つ。今は霊魂という存在である彼女は、生前は下界で暮らす『人間』であったこと。


 2つ。彼女はたった今、研修という見習い期間を終え、『天使』となったこと。


 3つ。彼女が天使となる前……下界での死を迎え、初めて天界に来た後、彼女は一度『悪魔』という存在になったこと。


 つまり元人間であり、現在は悪魔と天使の両方に属する者。

 悪魔でありつつも天使でもあるという、相反する双方の能力を持っているということ。


 こんな事例……存在は過去に例が無く、現在のところ天界においてその存在は彼女のみである。


 近代に入って、爆発的に増加した霊魂処理の飽和状態。

 それに加えての慢性的な人員不足。

 これまで通りの努力ではどうにもならない天界全体の危機感。

 目に見えて追いつめられてしまっているというこの世界の状況が、この異例が考案され、承認された背景である。


 天使は天使としての能力しか有さず、それに応じた務めしか果たせない。悪魔もまた、同様に。


 それならば、天使と悪魔……どちらの能力も有する者。

 その存在を増やすことで、先に挙げた天界の現状を打破しようという考え。


 天界を司る神々が講じた、この異例措置。彼女はその体現者。

 言い方は悪いかもしれないが実験の第1号。それがメイという少女。

 逆に言えば、彼女はそれだけの素質……ポテンシャルを持っているということでもある。


「そう。通常であれば、霊魂の導きや転生は天使にしか行えぬ。そして『悪霊』を討つことが出来るのは悪魔のみじゃ……しかしこの時勢、下界の発展に伴って悪霊へと堕ちる霊魂も増えてきておる……下界、天界問わず悪霊による被害の数も、じゃ」



 ――悪霊。

 それは、墜ちた霊魂。

 負の感情を抱き、暴走した霊魂。

 ただ己が抱いている感情の消化に執着し、時には自我を失って暴走する。


 あまりに強い悪霊ともなれば、下界で目に見える被害が出るのはもちろん、自身以外の霊魂を喰らってしまうこともある存在。


「まぁ、並程度の天使や人間じゃ喰われるでしょうね」


「うむ……しかし先ほども言った通り、天界の現状でこれ以上天使達を失いたくはない……かといって、天使達を下界に下ろさないという訳にもいかん……そこで考案されたのがお前さんのような存在というワケじゃから。お前さんには早速、下界に降りてもらいたい。悪魔であり、天使でもあるお前さんが果たすべき務めについては……わかっておろうな?」


 メイはもうウンザリといった表情と仕草でそれに答える。


「もう耳にタコができそうなほど聞かされたわよ……下界における魂絡みのトラブル解決。これ以上、悪霊もその被害も増えないよう防止を。必要なら、対処を……でしょ?」


「ちゃんと覚えとるな。関心、関心……あ、そうそう。それとじゃな……」


 神さまは何か思い出したようで、そそくさと玉座の後ろに回り、大きな箱をメイの前に置いた。

 見た目には、まるでゲームの世界にでも出てきそうな、大きな木造の宝箱。

 外装からして、鍵穴等は見当たらない。

 神さまの持ち運び方、床に置く時の仕草から、大した重さではなさそうである。


「……何これ。伝説の剣でも入ってんの?」


 当然の反応とでも言うべきか。

 これ以上ないほど胡散臭いものを見つめる表情で、メイはその宝箱をジロジロと睨みつける。


「これから下界で任に就くお前さんに、いくつか渡しておく物があってな……」


「ふーん……中身は何なの?」


「ま、それは開けてみてのお楽しみってやつじゃ」


「………………」


 メイはそっと蓋を開けて中を覗きこむ。


 箱の大きさ、外装は見掛け倒し。

 宝箱の中には小さな紙切れが1枚入っているだけ。

 『ハズレ』と書かれた、紙片が。


「……これは冗談? それとも、マジでやってるワケ?」


「ほっほっほ。年寄りの軽ーいジョークってやつじゃ」


「………………」


 神さまは気付いていなかった。

 箱の中身を目にした途端、メイの周囲、彼女を包む空気が一瞬で変わったことに。


「んふふ……」


 神さまは気付けなかった。

 穏やかで、慈愛に満ちている……ようにしか見えない、彼女お得意の営業用天使スマイル。

 その奥に隠された、山火事にガソリンを撒いたような憤怒の炎を。


「えいっ」


 そこから先は刹那の出来事。

 瞬き程度の合間で、メイはその笑顔を引きつらせながら一瞬で神さまの目の前へと移動していた。


 それは併走する2発の弾丸のように。


 突き出された、彼女の(ブイ)サイン。

 ただし目の前の顔に向けて、垂直に。


「あぎゃっはぁぁぁぁっ!? 目があぁ! 目があああぁぁっ! ブっ!?」


 両目を押さえ、のたうち回る神さまの後頭部に、メイが蹴り飛ばした先ほどの宝箱のカドがぶち当たった。

 見事な奇襲と追い討ちである。


「古典的過ぎてくだらないのよ! こちとらサッサと下界に降りて羽休めたいんだから、話進めなさいよ!」


「うぐぐ……目潰しせんでもええだろうに……本物はそこじゃ。そこの箱」


 悶絶する神さまを尻目に、メイが玉座の後ろ側を覗く。

 先ほどと同じような箱が2つ並べられていた。



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