1回しか話したことがない幼馴染が、俺でラブコメ主人公研究をしてくる
・日向陽登……主人公。高校二年生で友達が一人もいない。自称孤高と思っている。
・月影咲夜……高校二年生。主人公と幼馴染。超苦いコーヒーすら甘くなるデレを見せる。クール系?のような振る舞いをしている。主人公のことが好き好き好きetc……
・初書萌衣……主人公と幼馴染の担任の教師。猫背でダウナー。小説家をやっているが、みんなに隠している。
※この作品出ている幼馴染の設定(保育園から高校生まで同じ学校。お母さん同士が友達の部分は実際の人をモデルにしております。性格はオリジナルです)
俺には保育園から今通っている高校までずっと同じ学校でお母さん同士が友達の幼馴染――月影咲夜がいる。それほど接点が多い彼女だが、一回しか話したことがない。確か……小学校中学年の時に同じクラスだったと思う。どの内容で話したか覚えていない。
そして、高校二年生になって再び同じクラスになり、彼女から手紙を貰った。正確に言えば、俺の机に入っていた。今やスマホを持てば繋がりやすい時代に手紙とは不思議なものだ。いや……俺は彼女のメールアドレス、電話番号、LINEも知らないから伝達手段が手紙か、直接会話しかないから仕方がないのだけれど。
手紙の封の表面には俺宛――日向くんへ、と書かれていて裏には書いた人――月影咲夜とあり、ハートのシールで封をされている。一瞬、ラブレターだと勘違いしてしまうが、それはないと思っている。今までそんなアプローチを受けていないし、そんな噂も経っていないからだ。一瞬でも期待してしまった自分が恥ずかしい。きっと……お母さん同士の食事に同席してとかだろう。あえて、ラブなレターという勘違いさせて話の話題を作りたいだけだろう。
俺は跡が残らないようにハートのシールを剥がし、封を開ける。手紙は横に二つ折りにされていた。
「ええ?」
静かだったトイレの個室に俺の声が響いた。一文目からこれはラブレターだということがわかる。『私は日向くんのことが大大大大大大大大大大好きです』と書かれている。大が複数連続しているのは気持ちの大きさだろう。
俺をここまで好きだったのかコイツ。
そこから、間を開けて『墓場まで一緒にいたいので結婚してください』と書かれている。これを呪いの手紙と捉えるか、プロポーズと捉えるかは受け手によるが、俺の場合、結婚相手の確約取れちゃったよと心が高鳴っている。
そして最後に、『放課後、家庭科室で返事を待っています』とあり、律儀に今日の日付が記されていた。
俺の返事は「はい、よろしくお願いします」で決まっているのだが、もっと洒落た言い方をしたい。今は昼休みだし、放課後になるまで時間がある。その時間を使ってゆっくり考えようとするかな。
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放課後になり、洒落た返事の一つや二つは思い浮かぶものだと思っていたが、そうでもなかった。参考がてらにインターネットを見たのがそもそも間違っていた。
どれも特殊な言い方で、この二人の関係性だからこそ言えることだったり、世界観を含めた言い方と、今の俺には言えないものばかりだった。調べるまで心が躍っていた自分を返して欲しい……。
「失礼しまーす……」
俺はか細い声と同時に家庭科室に入った。家庭科室には誰もいなく静まり返っていた。俺は目に入った椅子に座った。この待っている間に良い返事を考えよう。熱血風に承諾の言葉を紡いだ方がいいのだろうか。
ガラガラと音を立てて家庭科室の扉が開いた。
「もういたんだ。早いね」
月影は家庭科室の扉の鍵を締め、「ここいい?」と俺に尋ね、隣の椅子に座った。了承の言葉を言っていないけれど、まあ良いか。
座る瞬間、彼女の髪から本のわずかに甘い匂いが漂ってきた。
「返事を聞かせてくれるかしら」
俺は深呼吸し、出たとこ勝負で行こうと心に決め、口を開いた。
「夫としてよろしくお願いしやーす」
重い彼女の告白を舐めたような軽い口調で返事の言葉が口から出てきた。自分でも驚いてしまって目を大きくして彼女を見つめていた。
「ありがとう。これで夫婦同士……いやカップル同士だね」
彼女の返事から察するに好印象な反応。あれぐらいの方がいいのかな。
「さっきの返事、もっと何かなかったの?」
「……」
ごもっともですと、口に出せばいいものの、それすら言葉に出ないほど俺は動揺していた。
「……はあ、やっぱり。ラブコメ主人公ぽくないよね日向くんって」
俺の頭に疑問が湧いた。ラブコメ主人公ぽくないってどういう意味だ? 月影さんと俺とでは釣り合わないってことか? だったら俺に告白した理由は……? 止めどなく疑問が沸いてくる。これ以上この事を考えていたら彼女のことを嫌いになりそうなので、まずは最後まで彼女の発言を聞く。その後でわからない事は聞けばいい。
そんな俺を気にすることなく彼女は続ける。
「日向くんって、陰キャか陽キャどっち?」
「どちらかと言えば陰キャじゃないかな。一人で行動することも多いし、あまり人に群れていないし」
「ぶぶーん」
月影は腕を交差して否定する。自分の答えの方が合っている気がするが仕方ない。彼女の意見を聞こう。
「陽キャでしょ? 日向くんは。言ってたじゃない。三秒話せば誰でも友達って……」
「それ、小学校の頃だよ? 当たって砕けろみたいなことはあまりしないよ」
「ってことは、たまにやるんだ」
「うん……。一人で遊園地のアトラクションで同席になった時とか……」
「なんか凄いね……」
月影は苦い顔をし、顔をそらした。彼女がなぜあの反応をするのかよくわからない。運命的に出会った人だよ? 興味出たりするじゃん普通。
「私ね……ライトノベル作家を目指していて、ラブコメを考えているのだけど、男性主人公が上手く書けないの。それで……」
月影は深呼吸し、
「あなたをラブコメ主人公にさせたいの!」
彼女の力んだ声は部屋中に響いた。
「俺をラブコメ主人公に?」
「そう。実際の人をモデルにした方が書きやすいからね」
その意見は俺も賛成だ。しかし、俺が架空の主人公が務まるのだろうか。
「……でもね日向くんって、従来の主人公像と程遠いの」
「仕方ないじゃん。現実の人なんだし」
「小学生の頃から友達と呼ばれる人がいない?」
「い……」
「いいえ。小学生の時、クラスメイトの女子がわざわざ走って来てたじゃん。あれ……少し妬いちゃった」
「へえ……」
月影は俺の答えを覆い被さるように答えた。よく俺の話題を持っているな。幼馴染みだからだろうか。
「これだけは参考にできるはずよ、日向くん。私が書いたラブレターが入っていた時、どう思った?」
「どう思ったって……うれしかったよ?」
「そっ、そういおうことじゃなくて……反応? みたいなもの」
「うーん……変な紙が入っているなって……」
彼女はバッグからノートを取り出し、ペンを走らせる。
「その後は……?」
「その……紙を取り出して……手紙だと言うことに気がつきます」
「この後が重要ね」
「食事の誘いかなと思いました」
「食事の誘い……? そんなことしないよ。メール、電話とか……あっ、交換していないね」
月影はノートの一部分を切り離し、そこに電話番号とメールアドレスを記入し、俺に渡した。
「前時代的だね……」
家庭科室の扉付近で叩く音が聞こえた。音の聞こえるところを見ると、一人の女性教師が立っていた
「ちょっと行ってくるね。ここで待てって」
月影は扉の鍵を開け、廊下の向こう側に行った。扉の窓から彼女たちの姿が見える。あの先生は……俺のクラスの担任だ。ダウナー口調で少し猫背。名字が特殊で『初書』と書いて、うぶがきと呼ぶ。初を『うぶ』と呼ぶって創作だけだと思っていたから、最初に聞いたときは冗談と受け取っていた。下の名前は『もえ』と言っていて「萌とよく間違われます。可愛さに衣を付けて下さい」と変な自己紹介をしていた。あの先生――初書萌衣と月影さんはどんな深い関係があるのだろう。
「待たせたわね」
「あっ、うん……」
気づいたら、月影は隣の席に座っていた。いつ戻ってきたのだろう。俺が考え始めたときはまだ初書先生と話していたから、考えている最中に戻ってきたということになる。考えているときの視野角の低さはどこかで対処したい。
「明日の休日。デートに行きましょう」
「でっで、でデート?」
カップル二日目にデート? 展開が早すぎる。
「そうよ。ラブコメ主人公の研究のためにも明日、デートしましょう」
「明日か……」
できれば、もうちょっと仲を深めてからと思ったが、彼女の微笑む表情を見たらそんな気持ちは消え失せた。
月影はノートをバッグに入れ、立ち上がった。
「では、一緒に帰りましょうか」
「最後に確認していい?」
「いいよー」
「俺たちって本当のカップルになったんだよね? ラブコメの主人公を研究するための疑似カップルではないよね?」
俺は聞かずにはいられなかった。彼女の度がすぎる行動に現実味を感じられないし、目的が俺をラブコメの主人公にさせたいという気持ちから恋を演出していると見えていたからだ。もし彼女が俺の考えているものなら、今感じている恋心を捨てることにする。
「本当のカップルよ。私のラブコメ主人公研究はつ・い・でだから」
「ついでにしては大きいような……?」
「そんなに大きくないよ。カレーの福神漬けとか浅漬け、ぬか漬けみたいなものよ」
「それならいいか……」
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俺は今世紀最大のおしゃれをしている。グレーのパーカーに少し鮮やかな青のジーンズに黒い色のスニーカー。両親から貰った服の中から一番組み合わせがよく、ファッション誌のどこかしらに載っているだろうというコーデだ。
「ビタミン剤」
「ちべたい」
月影はキンキンに冷えている缶を俺の頬に当てた。どういうつもりなのだろう。缶を見ると、乳飲料の文字に全体が茶色……。これってコーヒー牛乳かな
「もしかして、胸糞映画を五本連続で見せる気? 俺……まともな人間だよ?」
「そんな時計仕掛けのオレンジみたいなことはしないよ」
「なら良かった」
「今回は、私が書いている小説のヒロイン。デレツンツンの真咲ちゃんをやるから、日向くんは、それにオドオドしている主人公の大河くんをやって」
「漫才の導入みたいだな」
「ウィン」
月影は両手を自動ドアに見立てて、ショッピングモールに入っていった。俺は数秒間その場で立ち尽くしていた。彼女は冗談を現実でやってしまう系人間みたいだ。まともな感性であればすぐ気疲れてしまう。道化を演じるしかない。
「ウィン」
俺も月影と同じことをやった。全身が火に付くほど熱くなり、脳の中が後悔で満ちあふれていた。
「なんか、遅くない?」
月影は怪訝そうな顔を見せた。
「いや……今日の服装可愛いいなって」
「え? 好き」
月影の独り言のように出てきた二文字に心臓が跳ね上がるのを感じたこれが愛というものなのか。連続で食らったら心臓が持たない。
「じゃあ、行こっか」
月影は俺の手にまとわりつくように手を握った。
「か、カップルならこういうのがやるのは普通なんだからね」
「へえ……そうなんだ」
これがデレツンツンか。ツンデレと違い直球の言葉を言うスタイルは斬新で、素直に感激してしまった。おどおど主人公を演じろと言われたのに、そんな反応ができなかった。次からはおどおどしている主人公を演じたい。
月影に引っ張られて、やってきたのは紙とインクの匂いが漂う、本屋だ。このショッピングセンターは店の移り変わりが早いのだが、この本屋だけは昔からずっとあり俺もちょこちょこ利用させてもらっているところだ。高校生になり本を読むことが少なくなり、あまり本屋に行けてなかったし気になった本があったら買おうかな。
「こっちね」
月影は人混みをかき分けて俺を引っ張っていき奥の奥の方へと行く。気になる本が次々と過ぎ去っていき、漫画コーナーへと入っていった。
「日向くんは知らないかもしれないから言うけど、ライトノベルって漫画のコーナーの近くにあるんだよ」
彼女の先にはキャラクターのイラストが表紙の本がたくさん置かれていた。今までライトノベルというものを自分で買ったことがなかった。今まで友達のものを回し読みで読んでいて、海外の翻訳本よりも文章量が少なく読みやすい印象がある。
「やっぱり……ラブコメは強いよね」
彼女の見てる先にはタイトルにヒロインと書いてあるものが多く、この区画がおそらくラブコメや恋愛ジャンルなのだろう。
「日向くんはどの作品を選ぶのかしら」
「えっ……と」
俺はバックから財布を取り出し、中身を確認した。小銭は入っておらず、五千円札だけ入っていた。
「うーん……」
俺は色々な本を取っては戻していく。どの本も魅力的で一ページか二ページほど試し読みをしたいが、本が包装されていてタイトルとあらすじしか確認できない。いつも買うときは書き出しの部分を読み、これは最後まで読みそうだなと思うものを選んでいたから、中身が分からないものは非常に怖い。
「これかな……」
俺は幼馴染ものを手に取った。この本は幼馴染が主人公を引っ張る系で今の俺たちと似ている点から選んでみた。
「こっ、これ……?」
月影は表紙をじっくり見て、両手でスマホを打ち込んでいる。何か思うところがあったのだろう。彼女の素早く手を動かす様子は執念じみたもので恐怖を感じる。
「よし……」
月影はスマホの打ち込みが終わり、スマホをバックに入れた。
「良いのが書けたわ、日向くん。レジに持って行こ。やっぱりデートはいいもんだね」
月影はシュリンクされた本を手に持ち、レジの方に歩き出した。俺もレジに持っていくために後ろをついていく。
「意外と並んでいるね」
「そうだね」
俺たちの前には十人ほど並んでいた。
「さくよんは何を買ったの?」
「さくよん?」
「あっ……俺たちの中で呼べるあだ名あったほうがいいかなって……」
「それいいね。でも……ラブコメ主人公からは遠かったかな」
「え?」
「大抵の主人公はさ……一年経って、ようやくあだ名で言おうかなって考えるの。日向くんは一日後に言った。これって早くない?」
「……確かに」
「でも……現実はこれぐらいでいいの。これでいいのよ日向くん」
月影のよだれが垂れそうな力んだ声は次第に大きくなっていた。このままだと周りから変態カップルというレッテルを貼られてしまう。
「何の本買ったの?」
「これ?」
月影は自分の持っている本の表紙を俺に見せながら説明し始めた。
「これはね……社宅の友人の家の前でうずくまっている女性に餌付けをしていたらカップルになるってお話をするみたいだね」
「ろくでもないことが起きそう……」
「それが楽しみで買うんだけれどね」
月影は性格が悪いのかもしれない。あらすじを聞いた感じ、友人と修羅場になる可能性が高いし、胸くそ悪そうな展開が後半ありそうで心を痛めるのに。それを楽しみ? 信じられない。俺は勧められても絶対に読まない。
「あっ、そろそろだね」
と月影が言うと、二つのレジの一つが空いた。
「じゃ行ってくるね」
月影は先にレジに向かい会計を済ましている。そしてもう一つのレジが開き、俺も呼ばれ、カバーと付けてもらい会計を済ました。
「さあ、ご飯を食べに行こ。今日は日向くんが食べたいもの食べたい気分」
月影は手を差しのばした。今度は俺が彼女を引っ張って行かないといけないみたいだ。
「いくぞ!」
「しゅぱーつ」
月影の声と同時に俺は手を引っ張った。彼女のほんのり温かい細い手は俺の手をしっかり握っている。握られた瞬間、二度目の心が跳ね上がるのを感じた。長くこの状態だと倒れしまう。早めに飲食店に向かって、終わらせてしまおう。
「へえ……ここか……」
月影は初めて来たみたいで物珍しい目で眺めている。
「日向くんはここに何回行ったことあるの?」
「十回ぐらいかな」
「げえ!?」
月影は汚い声を出し、右手を顔に近づけ変なポーズをとっていた。
「意外だと、思っているでしょ?」
俺はにやっと笑い、月影をからかった。
「そんなわけない……よ?」
月影は俺に目を背け、強がった。これは図星という奴だ。今、彼女は驚きの表情をしているのだろう。それを見せないように顔を隠しているのだ。なんて可愛い彼女。
「じゃあ頼みに行こう」
月影は強めに俺を引っ張った。反動で一瞬こけてしまいそうだった。
「いらっしゃいませ」
「あっ……はい」
「この方も一緒ですか?」
「はい……」
月影は顔をうつむき、俺の服を引っ張る。
「そうです。店内で食べます」
「店内ですね」
「アボカドチーズバーガーセットで飲み物はジンジャエール。ポテトはフレンチフライで……」
「かしこまりました。そちらの方は何にされますか?」
「――え?」
月影は店員に見上げ驚いた様子を見せる。
「ちょっと待って下さいね」
月影はハンバーガーの写真に指を差した。
「これで――」
「サーモンタルタルバーガーですね」
「はい……」
「飲み物はいかがなさいますか?」
「コーラ……」
「コーラですね」
「ポテトはフレンチフライかフライドポテトか選べますが、どちらになさいますか?」
「えーっと……これで」
再び月影は写真の部分を指差した。
「フレンチフライですね」
「再度確認しますね。アボカドチーズバーガーのセットで飲み物はジンジャエール。ポテトはオフレンチ。サーモンタルタルバーガーで飲み物はコーラでポテトは同じフレンチフライで間違いですね?」
「はい、間違いないです」
隣を見ると、月影は縦に首を小刻みに振っていた。
「合計三千円ですね」
俺と月影は自分の分を現金で支払った。
「お先にコーラとジンジャエールですね」
俺たちは飲み物を受け取った。
「できあがりましたらお席にお持ちしますのででは、お席で座ってお待ちください」
俺たちは空いていた二人席に腰を掛けた。
「めちゃくちゃ慣れてて、むかつく」
月影はぷくっと頬を膨らまし、ストローを手に持ち、勢いよく吸い込んだ。
「いいじゃない。そのくらい」
「私だって、物語のヒロインと同じくらいリードしたいの!」
月影は立ち上がり、俺に言い放った。
「……こちらがサーモンタルタルとフレンチフライです……」
店員さんは戸惑いながらもバーガーとポテトが乗っていたお盆を置いた。
「こちらがアボカドチーズバーガーのお客様ですね。ごゆっくりどうぞ」
店員はバーガーとポテトが乗っていたお盆をすぐテーブルに置き、足早に戻っていった。なんかごめんなさい……と心の中で謝った。
「おいしいよ、日向くん」
月影はもぐもぐしながら勧めてくる。どのタイミングで座ったのだろう。いや……考えても仕方が無いことか。
「いただきます……」
俺も食べることにした。大きく口を開き、アボカドチーズバーガーを口に入れた瞬間、アボカドの風味と肉汁が絡み合っておいしい。
「そういえば……中学の話で、授業の最初に「おにごっこしたいです」ってクラス全員の男子が一斉に窓際に横に並んで先生に向かって言ったのって本当?」
「ゲホゲホゲホ」
月影の急の質問でむせてしまった。俺はジンジャエールを一口飲む。
「――本当」
「あれ? 本当だったんだ?」
「そうだよ」
「クラスの女子はどうだった?」
「冷ややかな目で見てたよ」
「ふーん……」
「どうして、別のクラスの月影さんが知っているの?」
「あれが話題にならないわけないでしょ」
「そうだね……」
「それで、おにごっこはできたの?」
月影は不適な笑みを浮かべ俺に尋ねた。
「知っているでしょ?」
「知らなーい」
月影はわざとらしい首を傾げる。
「……はぁ、わかったよ。何もなかったように授業が始まりました」
「あっはははは」
月影は頭を動かしながらケタケタと笑う。
「ちょっと……」
月影の様子に俺は戸惑う。
「ほんっと、おかっしいひひひ」
月影は両手でお腹を押さえながら笑い続ける。
「はあはあ……笑いすぎて腹痛い。もう食べられない。日向くん残り食べて」
月影は片手で腹を抑えつつ食いかけのハンバーガーを俺のおぼんに乗せた。
「半分しか食べてないじゃん」
「――もう無理」
月影は両手で腹を抑えながらまだ笑っている。
「はあ……わかったよ」
月影が食べかけのハンバーガーを口に運んだ。味はサーモンの香ばしさとタルタルの酸味がきいていた。彼女の口づけたからといって格別においしくなったというわけではない。
「間接キスバーガーどうだった?」
月影は顎に指を添えて不敵な笑みを俺に尋ねてきた。
「やられた……」
俺は月影の策略に乗せられた。あの状態で俺が断れないと踏んで決行した感じだな。今日はぽわぽわした感じだと思っていたが、まさか策を講じてきたとは、とんでもない奴。
「で、どうだった?」
「最高でした」
「きもちわる……」
「へえ……?」
「あっ……ごめん咄嗟に出ちゃった。気にしないで」
月影は俺が傷付かないようにフォローしているが、自分が『きもちわるい』と思ったことは否定していない。
「それで……おにごっこの話を小説に入れてもいいと思う?」
「いいと思うけど、それが使える場面ある?」
「ないかも……」
月影の頭が下に下に向かっていく。ちょっと落ち込んでいるようだ。仕方ないじゃないか。あの場面をどこに入れる隙がある? ギャグ回でもあれはおかしいと感じるというのに。
「まあいいわ。あれができたら、今日のデートは成功みたいなものだから」
月影は意味ありげな台詞を吐いた。あれとは、一体何を示しているのだろう。次行く場所に掛かっているのかなと俺は推測する。
俺と月影はおぼんにあるゴミを捨て、おぼんを返しに行き、次の場所に向かった。
「最後はここね……」
月影は女性ものの下着屋に足を止めた。
「じゃあ……俺はここで待っているよ」
「わかったよ」
「ちょっと……?」
月影は俺が手を放しても離れないようにしっかりと手を握り店の中へと引っ張った。
目の前に広がる女性ものの下着にたじろぐ。目の間のやり場に困る。
「私に合う下着を選んでよね」
月影は腰に手を添えて俺に指さした。これは素なのか? それとも物語の主人公がやる場面なのかわからないが店内にいる男は俺だけ。何も理由がなければ通報されるかもしれないし、ここは月影さんが言ったことをやるしかない。
「わかった……やります」
「そうこなくっちゃ。日向くんは主人公なんだから」
月影さんの言う主人公理論はなかなか理解できない。
「じゃあ私は適当にぶらぶらしているから、決めたら声かけてね」
俺は縦に首を振り、下着選びが始まった。まずはイメージで選んでみる。月影さんのイメージはクールだから、紫、緑、水色の寒色系かな。黒、白もある。いや……こういうのはよく選びそうな気がする。あえて暖色系の赤とか……。
赤色の下着を見たとき下着の方が目立っていると感じた。たまにグラビアの写真がテレビに流れたときに水着を拝見したときがあった。あのときの着ている感じというのは俺にとって刺激的だった。対して、今見ている赤の下着は着られている感じがあり、どうしてもぎこちない。他の色を探してみよう。俺は暖色系で絞って探してみたが見つからない。寒色で明るい方がまだ見つかりそう……と考えた矢先目に入ったものを月影に渡した。
「水色と黄色の花柄ね……」
「これで許してもらえないでしょうか……」
「……うーん」
月影はレジに持って行き、会計を済まし戻ってきた。
「これが私の正解ね」
月影は袋を俺の前に出し、とびっきりの笑顔を見せた。
※ちょこちょこ出てくるエピソードは作者の実体験をベースに少し脚色しています




