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悪役令嬢の専属侍女ですが、お嬢様が有能すぎて王子なんかと結婚したら国が滅ぶので全力で阻止します

作者: 杜陽月
掲載日:2026/04/14

【本日のお世話記録——お嬢様は本日も有能すぎました】

担当: 専属侍女エマ

対象: お嬢様 (ルクレツィア・フォン・ヴァルトシュタイン)

本日の最優先業務: 婚約破棄回避

備考: 準備は七日前に完了済み。予定通り進行します。

 お嬢様が有能すぎて、国が滅びそうです。


 私はエマ。お嬢様の専属侍女でございます。

 侍女歴十二年。お嬢様がまだ六つの頃から、ずっと。


 本日の業務——お嬢様の不当な断罪を阻止すること。


 今日、殿下がお嬢様を断罪なさる。

 「罪人」だと。そう仰る予定だ。

 この国を回しているお方を——あの無能が裁く。


 けれど、準備は七日前に終わっている。


 証人への根回し。資料の手配。証言の裏取り。

 七日間、眠れぬ夜を過ごした。


 あの方のために。あの方だけのために。

 それでも足りなかったかもしれない。


 お嬢様が朝六時から執務なさっているのは知っている。

 いつもと変わらない朝。

 けれど今日だけは——意味が違う。


 今日が、十二年のすべてを賭ける日だ。


 ——ただし、お嬢様はまだ何もご存じない。


【お世話記録 No.4,381】本日のお嬢様:有能。いつも通り。


 朝の日課は、いつもと変わらない。


 いつもの時刻。お嬢様は執務に入られる。

 手袋の指先に、小さな皺が寄っていた。

 昨日、帳簿の清書を十時間かけたときと同じ皺。


 その手を、私はどれだけ見つめてきたか。

 十二年。毎朝、毎夜。

 その手の動き、一つひとつが。


 朝六時から夜中の一時。

 その間に、いくつの決定がなされたか。


 いくつの修正が施されたか。

 そのすべてが、あの小さな手から。


 14歳で帳簿を見直されたとき、私は震えました。


 あの小さなお手が数字を並べ替えるだけで——いえ、あのお手の美しさの話ではなく。


 ……失礼、脱線いたしました。


 この国の歳入を支えているのは、お嬢様の領地です。


 歳入から得た余剰で飢饉対策基金を作られた。

 (くわ)の改良費も、灌漑(かんがい)施設の修繕費も。

 すべてお嬢様の支出で、民の暮らしが潤っている。


 ……けれど殿下はご存じない。帳簿なんて、お読みにならないのですから。


 調印式の前の週を思い出す。


 お嬢様は三晩、書斎にこもられた。

 灯火が消えたのは、毎夜、明け方のこと。


 私が淹れたお茶は、冷めたまま残されていた。

 机の上には、何度も書き直された書類の山。


 ……なのに調印式の壇上に、お嬢様の名前はなかった。


 あの中の何人が、本当の起草者を知っていたか。

 何人が気づいていたか。

 そして——何人が、口を閉ざしていたのだろう。


 あの三晩を思い出して、私は気づいたのです。


 お嬢様はこの国の誰にも気づかれずに、国を回している。


 あの協定書は殿下のお名前で公表されました。


 草案者の名前は、どこにもありません。


 あの交渉で、隣領の辺境伯殿だけが

 ——書類を読み終えたあと、お嬢様を見つめておられた。

 あの方の目に——尊敬の色。


 飢饉の年——お嬢様は私財を投じて民を救った。


 穀物を買い集め、配給の仕組みを整えて。

 農法の改善指導まで、なさられました。

 夜中も眠らず、ずっと計算を。


 霜焼(しもや)けで赤い手から、ようやく血色が戻った。

 その手で、民たちは大地を耕す。


 私は、そのときのお嬢様の顔を覚えている。

 悲しみで。決意で。全部を背負った顔を。


 お嬢様は何もおっしゃらなかった。


 「当然のことです」と微笑んだだけ。


 あの日です。


 私が決めたのは。


 ——この方を、絶対に守る。


 お嬢様は——今日も完璧でいらっしゃいます。


 有能すぎるから、あんな無能に利用される。

 有能すぎるから、黙って働くだけで自分を守れない。


 その間、殿下は何をしていたか。


 殿下が執務室にお入りになる姿を、誰も見ていない。

 文書だけが届いている。返答を待つ通達が。


 三ヶ月。その扉は開かれないまま。

 届いた文書の数だけ、責任は積もっていく。



 王城の大広間。


 午後二時。窓から陽光が差し込む。

 その光の中で、断罪は行われる。


 貴族たちの視線が、お嬢様に集まった。

 その目に同情はない。

 断罪を見届けに来た目だ。


 殿下が壇上に立つ。聖女を見る。列席者を見る。


 ルクレツィアを——見ない。


(殿下は、お嬢様の目を見なかった。

——わかっているのかもしれない。

本当は、自分が何をしているのか)


 だが殿下は口を開いた。


「ルクレツィア、お前は聖女ミレーユを虐げた罪人だ。

婚約は今日をもって破棄する!」


(さあ——始まりました。殿下の茶番が)


 殿下の声は大きい。けれど、中身がない。


 聖女が殿下の腕にすがり、綺麗な涙を流した。


 左目から。その流れが、余りに完璧で。


(あの涙は、いつ見ても見事なものですこと)


 周囲がざわめく。同情の目は聖女に注がれた。

 女性たちの泣き声も聞こえる。


 お嬢様は穏やかに微笑んでいた。

 その横顔は、何も知らないような表情で。


(お嬢様の横顔は、いつもと変わらず穏やかだ。

それが——少しだけ、悔しい)


 お嬢様は——やはり、有能すぎるのです。


 だからこそ。私が、動かなければ。


 本日の業務——予定通り進行中。


【お世話記録 No.4,382・特別任務】状況:予定通り進行中。


「——お言葉ですが、殿下」


 大臣が一歩前に出た。手には書類の束。

 書類は、びっしりと数字で埋まっていた。


 その手が、震えている。

 度胸のある男だ。


 それでも怖いのだろう。

 王太子への直言など。


「先日の税制報告書を拝見いたしました。

国庫収入の三割が、ルクレツィア嬢の領地からの歳入であることは、

ご存じでしょうか」


 歳入三百万。その中から九十万を——

 農業改善に。基金の造成に。施設の修繕に。

 私財の大半を、民のために。この国の未来のために。


(七日で揃えた証人、書類、証拠。

全部「偶然」です。ええ、もちろん)


 殿下の眉が寄った。


「そ——そんなのは些細なことだ! 大切なのは心だ、愛だ!」


 その言葉に、何人の貴族が眉を(ひそ)めたか。


(些細、ですか。この国の三割が、些細)


 その無知さに。その無責任さに。

 貴族たちの顔が強張った。


(皆さま、よくぞ「偶然(・・)」お集まりくださいました)


 大臣が下がるより先に、声が続いた。


「貿易協定の草案をされたのは、ルクレツィア嬢と伺っておりますが」


 商人ギルドの代表。


「そんなのは——」


 殿下の声が、途中で止まった。


「飢饉の年に私財を投じてくださったのは、殿下ではなくルクレツィア様でした」


 別の声。侍従長だ。

 陛下の側近として三十年。

 王宮のすべてを見てきた男が。


 その男が立ち上がるだけで、貴族たちの顔色が変わった。


 それだけ。それだけで——十分だ。


 貴族たちのざわめきが、さざ波のように広がった。


 さっきまでの冷ややかな目が、困惑に変わっている。

 伯爵夫人と侯爵が、視線を交わした。

 視線の中に、尊敬が生まれている。


(この資料、どなたが侍従長にお渡ししたのでしょうね。

——私は存じませんわ)


「わたくし、ルクレツィア様にひどいことをされて……」


 聖女が泣き出した。


 その瞬間、侍従長が一歩前に出た。


「聖女ミレーユ殿に対する『いじめ』の訴えについて調査いたしました」


 その調査は、二ヶ月前から。

 十一名の侍女と執事が、すべて証言した。

 証言の一つひとつが、記録に残っている。


 大広間の空気が、凍った。


 聖女が「いじめ」と主張した場面

 ——実際はお嬢様が礼儀作法を教えていただけ。

 侍女たちの証言が、明確に読み上げられる。


 聖女がお嬢様の仕事を「意地悪で押し付けられた」と主張

 ——実際は聖女が自分から手伝うと言った。

 その当時の日記が、提示される。


「ち、違います! あれは本当に……!」


 聖女の声が裏返った。


 ひとり、またひとり——女性貴族たちの目が、聖女から逸れていく。


「でも、ルクレツィア様は私に

——『嘘をつくのをおやめなさい』と——」


 聖女が、別の目撃証言を持ち出してきた。


(——これは、想定していなかった)


 庭園の件。あのとき、私はお嬢様のそばにいなかった。


 心臓が高鳴った。知らない場面が出てくるのは、想定外。


(ですが——侍従長の資料に、あるはず)


 侍従長の手元にある調査資料を見る。——あった。


 お嬢様は庭園で毒草を指摘されたのだ。

 忠告であって、いじめではない。


 そして「嘘をつくのをおやめなさい」は別の場面

 ——お嬢様の部屋で、

 侍女たちに虚偽を吹聴(ふいちょう)する聖女に直接忠告されたときの言葉だ。


 資料の中に、証言がある。

 五人の侍女が。五人がすべて同じことを言っている。


 侍従長が前後の文脈を読み上げた。

 声は、高く、明確に。感情を込めずに。


 しかしその淡々とした語調こそが、説得力を持つ。


 招待状の控えも、提示された。

 日時、場所、そして立ち会った侍女の署名。


 全員が、同じ証言をしている。

 署名は、消せない。日付は、嘘をつかない。


 ——聖女の「切り取り」が、暴かれた。


 嘘の数だけ、証拠がある。ひとつ残らず。


(あら、涙が止まりましたね。嘘は泣けないものです)


 視線が、お嬢様から聖女に移った。

 さっきまで聖女に注がれていた同情が、別の色に変わり始めている。


 その色は、怒り。その色は、軽蔑。その色は、不信。


「嘘だ……そんな、聖女が嘘をつくはずが……」


 殿下がまだ叫んでいる。


 膝が笑っている。

 背中は丸くなり、さっきの威勢はどこにもない。


 国王陛下が、口を開いた。


 陛下の顔は、完全に冷えている。


「フェリクス。ここに、お前が署名した貿易協定書がある」


 陛下の声は低かった。

 怒号ではない。ただ事実を述べている。


「この協定書の草案を書いたのは誰だ?」


「……私が」


 殿下の唇が白くなった。血の色が失われる。


「では、第七条の関税率引き下げ条項の内容を答えよ」


 殿下は条約内容を知らない。

 知るはずがない。自分が書いたのではないのだから。


 大広間が、息を詰めた。


「……それは……つまり……」


 殿下の声が消えた。口は動いている。けれど音にならない。


(殿下、読まずに署名するのは

——いえ、殿下に申し上げても無駄でございますわね)


 お嬢様は何も言わず、じっと見つめていた。


 大広間の全員が、殿下を見ている。

 その無能さを。その虚無さを。


 国王が、もう一度口を開いた。


「では、締約国の首都名と大使の名前を」


 殿下の手が震えた。書類が床に落ちる。

 その音が、大広間に響いた。


「……」


 静寂。その静寂の中で、国王の声が響く。


「余白に残された修正跡は、ルクレツィア嬢の筆跡だ。

お前は——読みもせずに署名しただけではないか」


 あの修正が、この国にどれだけの実りをもたらしたか。


 潤った商人たち。開かれた新しい通商路。

 生まれた働き口と、救われたその家族。

 飢饉を乗り越えた農家は、再び種を蒔いている。


 お嬢様の修正が、この国を回していた。そのすべてが。


(この協定書の写しを国王陛下のお手元に届けたのも、

私は存じません。——ええ、まったく)


 大広間から、音が消えた。

 誰も、何も言わない。


 聖女が後ずさった。

 その目に浮かぶのは——恐怖の涙。

 本物(・・)の涙だ。


 初めて、本当の顔が見えた。


(ああ——あの涙は本物ですね。

初めて見ましたわ、聖女殿の本物の涙)


「この婚約破棄は——認める」


 殿下の顔に、一瞬だけ安堵が浮かんだ。


 その安堵が、すぐに絶望に変わった。


「だが、断罪されるべきはお前だ、フェリクス」


 その言葉に、大広間は動いた。


 聖女が叫ぶ。殿下が崩れ落ちる。貴族たちが立ち上がる。


 陛下の声は、ただ静かだった。

 怒号も叱責もない。


 ただ——もう、息子として見ていない声だった。

 その静けさが、何より残酷で。


(陛下は——知っていらした。

最初から。お嬢様の功績も、殿下の無能も。

それでも息子に機会を与えていた)


 その機会を、殿下は自ら踏みにじった。

 それだけの歳月を。すべての機会を。


 王太子位の剥奪。辺境での学び直し。


 聖女には王宮からの追放と、虚偽申告に対する謹慎(きんしん)


 その内容が読み上げられる。

 ひとつ、ひとつ。

 冷徹に。確実に。取り返しのつかないほどに。


(——お嬢様の不当な断罪、阻止完了。

七日間の準備が、ようやく報われました)


 殿下が叫んだ。

 「父上、どうか——」


 その声は、大広間の天井に吸い込まれた。

 その言葉は、最後まで続かなかった。


 陛下は答えない。ただ、目を閉じる。

 その瞼の裏に、何が見えたのだろう。

 かつて息子に期待した日々か。裏切られた日々か。


 殿下の悲鳴が聞こえるようだった。

 聖女の謝罪の言葉も聞こえた。


 けれど陛下の顔は変わらない。

 王妃も、その場の全員も。

 すべてが決まっているように見える。


 裁定の直後——殿下が、初めてお嬢様を見た。


 何か言いかけて——口が開いて、閉じる。


 それだけだった。言葉がない。言葉を失った。


 十二年。十二年間、お嬢様は殿下のために働いた。

 その十二年で、殿下がお嬢様に向けた言葉は——

 今日の断罪宣言が、最も長い言葉だった。


遅い(・・)。十二年、遅い(・・)


 どよめきが広がる。

 そして——ひとり、またひとりと、お嬢様の方に頭を下げ始めた。


 さっきまで断罪を見届けに来ていた人々が。


 頭を下げる姿が、ひとつ、またひとつと増えていく。


 感謝が。尊敬が。そして——遅すぎた、謝罪が。


「私は何もしておりません。

殿下との婚約については、父と陛下にお任せいたします」


 お嬢様は穏やかに微笑んでいた。


 ——その微笑みを見て、もう一人が立ち上がった。


 辺境伯殿だ。

 あの協定書の修正に目を見張っておられた、あの方。


 深く、静かに、頭を下げた。

 言葉は、ない。

 けれどその礼には、他の誰より深い敬意があった。


 お嬢様の真価を知る人が、もう一人いた。

 それだけで——充分だ。


「ルクレツィア、お前が裏で——」


 殿下がまだ食い下がる。


 その執着に、その無知に、私は震えた。


 お嬢様が、一歩前に出た。


(お嬢様? 業務はもう、お済みでございますのに——)


「殿下」


 声は穏やかだった。いつもと、変わらない。


「私が裏で何かをしていたとおっしゃるのなら

——あの協定書の修正箇所を、ひとつでも読み上げてくださいませ。

八箇所、すべてお答えいたしますわ」


 大広間が、凍った。


 その一言に、すべてが凝結する。


 殿下は何も言わなかった。

 言えるはずがない。

 一箇所も、知らないのだから。


(——お嬢様。あなた、全部わかっていらしたのですか?)


 お嬢様は本当に何もご存じないのかもしれません。

 ただ事実を述べただけ——そう信じることもできる。


 ——けれど、あの「間」は。あの一歩は。あの視線の先は。


 わからない。それでよい。それがお嬢様だ。


(6歳のお嬢様が初めて私の手を握った日のことを覚えている。

あの小さな手は、震えていた。


14歳で帳簿の前に泣いた夜も。

飢饉の冬に、一人で計算を続けた夜明けも。

——十二年。一瞬でした)


 あの小さな手の持ち主が、今、大広間の中央に立っている。


 あの手は、もう震えていない。


 その一歩は、何を意味するのか。


 お嬢様は、お嬢様のままでいてくだされば。


(お嬢様があの王子と結婚しなくてよかった。

——心の底から、そう思います)



 断罪の翌日。朝の光が、廊下に溢れている。


 昨日までとは、違う光だ。

 長い冬が明けたような、柔らかい光。


 お嬢様の部屋。紅茶の香りが漂っている。

 いつもの朝と同じ香り。

 けれど、少し甘く感じる。


 窓の外から、鳥の声が聞こえた。


「エマ、昨日のこと……あなたが何かしたの?」


 お嬢様は、紅茶を飲みながら問うた。


 その表情は穏やかで。何も知らないように見えて。


 ——でも、知っているのかもしれない。


「何のことでございましょう。

私はただ、お嬢様のお世話をしていただけです」


 お嬢様が少し笑った。


「そう。ありがとう、エマ」


 その「ありがとう」が、胸に落ちた。


 ずしん、と。十二年分の重さで。


 目頭が熱くなった。堪える。侍女が泣いてはいけない。


 淡い笑顔の中に、すべてが詰まっている。

 あの歳月。あの苦労。


 あの決意と、あの信頼。

 ——そして、あの愛が。


(ああ、この笑顔を守れたなら、それだけでよいのです)


 ——ところで。隣領の辺境伯が視察にいらっしゃるそうだ。


 あの方はお嬢様の功績をよくご存じのようで。

 昨日の裁定の場でも、誰より深い礼をなさっていた。


 視察は、一ヶ月後。滞在期間は、十日。


 辺境伯より、書簡が三通届いた。


 一通目は、昨日の裁定への謝辞。

 二通目は、協定書への深い考察と賛辞。


 ——その専門知識の深さに、私のほうが驚いた。


 そして三通目は、お嬢様へのお手紙のようだった。

 ずいぶんと、厚みがある。


 本当の評価をする方の目は、誤魔化せないものですこと。


(あの殿方なら……悪くないかもしれません。

少なくとも、あの馬鹿王子よりは)


 お嬢様がその手紙を読んだとき、頬がわずかに赤くなった。


 ——あの表情は、初めて見るものでした。


 お嬢様がその手紙を閉じたとき、何を思われたのか。


 私には、わからない。


 紅茶のおかわりを淹れる。

 いつもと同じ温度。いつもと同じ茶葉。


 けれどお嬢様の口元には、見たことのない柔らかな微笑みが浮かんでいた。


 窓の外で、庭師が花を植えている。

 お嬢様の庭には、いつもの白い花が咲いていた。


 朝露が光っている。昨日より、少しだけ多い気がする。

 明日も咲く。明後日も。


 あの方が手紙の返事を書かれるかどうか。

 それは——お嬢様がお決めになること。


 私はただ、いつものようにお傍にいる。

 それが、私の出した答えです。


【お世話記録 No.4,383】


 本日の業務——完了。


 明日の業務は……お嬢様の笑顔を守ること。


 毎日同じ(・・・・)


 毎日、完了する業務。


 ——ずっと、守り続ける。


お読みいただきありがとうございます。

侍女エマのお世話記録、いかがでしたでしょうか。


なお、隣領の辺境伯が最近やたらと視察にいらっしゃるのですが——

お嬢様の価値がおわかりになる殿方なら、あの無能王子よりは遥かにマシですわね。


★評価・ブックマークいただけますと、明日の業務にも力が入ります。

なにせ次の任務は、辺境伯殿のお嬢様への不審な(……いえ、好意的な)接近の調査ですので。

お嬢様のお世話記録、続きが気になりましたらどうぞお力添えを。

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