小六戀し
〈極端を極端せしめ寒さ去る 涙次〉
【i】
【魔】に* 斬首された筈の天神一享博士が、これもまた【魔】に依り、蘇生させられた。讀者に氣を付けて貰ひたいのは、博士の生命を奪つたのは、**「オールド・ウェイヴ【魔】」逹のコミューンであり、蘇らせたのは「ニュー・タイプ【魔】」逹だつた、と云ふ事だ。兩者の力は今や拮抗してゐる。これは、取りも直さず、「オールド・ウェイヴ【魔】」の殘党は、根強い潜在勢力を持つてゐた、と云ふ事だ。
* 當該シリーズ第27話參照。
** 當該シリーズ第53話參照。
【ii】
だが、「ニュー・タイプ【魔】」逹には、魔界軍と云ふ「奥の手」がある。博士の優秀な頭脳は、その軍師に就かしめんと云ふ、「ニュー・タイプ【魔】」逹の願ひに支へられ、慾されてゐたのだ。軍の要は、軍師である。云ふなれば、「將」などカリスマさへあれば、お飾りであつて良い。
【iii】
博士は、「ニュー・タイプ【魔】」に依り、刃を突き付けられ、無理矢理に、魔界軍に協力し、軍師に就任する事を誓はせられてしまつた。だが、博士もさる者、この一點だけは譲れぬ、と云ふ条件を、「ニュー・タイプ【魔】」逹が呑む迄、梃子で動かしても無駄だ、と強情を張つた。その一點とは- * 天才猫テオのコピー、袴田小六を將軍の坐に就ける、と云ふ事だつた。猫の將軍- それで魔界軍の士氣は上がるのだらうか、と云ふ疑ひがあつたが、取り敢へず野良猫生活を送り、あちこちを放浪してゐるらしい小六探しを、「ニュー・タイプ【魔】」逹は請け合つた。
* 前シリーズ第199話參照。
【iv】
何故小六? 推測が許されるなら、それは、「ニュー・タイプ【魔】」逹が小六を探し当てる迄、猶豫期間が設けられるから、ではないか。だがそれは博士のみが知り得る事。たゞ、博士には、良心と云ふものが有り余る程殘つてゐた事だけは確かなのだつた。
【v】
然し、小六の行く方は杳として知れない。焦らされて怒つた「ニュー・タイプ【魔】」逹、テオを誘拐してその居場處を吐かせた方が早いと、或る日、テオが散歩中に彼の身を拉致した。
※※※※
〈鹽バターフランスなるパン後を引く我が眠りたる食慾こゝに 平手みき〉
【vi】
「知らぬものは、知らぬのだよ」-事實、テオの天才脳を持つてしても、小六の居場處は摑めなかつたのである。珍しく冷靜さを欠いた「ニュー・タイプ【魔】」逹は、テオにも刃を向けて、彼を小六の替はりの魔界軍將軍に就かせやうとした。勿論、生命を賭してゞも、テオはそれに諾はなかつた-
【vii】
「間一髪、間にあつたか-」カンテラ・じろさんが魔界に降りて來た。實は日頃、「ニュー・タイプ【魔】」逹のミステリアスさ(何しろ、カンテラの水晶玉の魔術を以てしても、その眞相は不可思議なヴェールに覆はれ、ブロックされてしまふ)に、彼らは業を煮やしてゐたところだつたのだ。こんな機會は滅多に訪れるものではない。カンテラ・じろさんは、「ニュー・タイプ【魔】」勢力を一掃せんと、白虎と、牧野の「龍」を連れて來てゐた-
【viii】
その結果、目茶苦茶に破壊された「ニュー・タイプ【魔】」逹の「領土」は、復興する迄には暫く時間が掛かりさうだつた。かうして、博士とテオは釈放され、人間界に帰る事となつた。博士「まるで惡い夢でも見てゐるやうだつた...」
【ix】
この仕事振りを見て、對立者である「オールド・ウェイヴ【魔】」逹のコミューンは、謝禮金を醵出して來た。果たして【魔】からカネを受け取つて良いものか- それには倫理上の問題が横たはつてゐさうだつたが、易々とカンテラ、そのカネを受け容れた。「ふんだくれるところからは、ふんだくるのさ」-それがカンテラの哲學なのは、云ふ迄もない。
【x】
人間界に戻つて來た彼ら、「ニュー・タイプ【魔】」撲滅、と云ふ事で、* 仲本堯佳=ルシフェルの率いる「魔界健全育成プロジェクト」からもカネを受け取つた。だが、こちらは「オールド・ウェイヴ【魔】」の出したカネより大分、少額だつた。** 多數の死者を出したからである。「ま、いゝさ。取るべきところからは、取つたからな」-カンテラ、髙笑ひを「プロジェクト」會議室に谺させた...
* 當該シリーズ第36話參照。
** 前シリーズ第196話參照。
【xi】
果たして「ニュー・タイプ【魔】」復活はあるのか、また、「オールド・ウェイヴ【魔】」逹の動向も氣になるところであつたが、それよりも、* 小六戀しのぴゆうちやんの「小六クン、何処カデマタ會ヘタライゝノニナ」と云ふ悲痛な願ひ、小六には届いたのであらうか?
* 當該シリーズ第26話參照。
※※※※
〈人去りて猫探しをる寓居春 涙次〉
PS: 後日談。小六はひよつこり、カンテラ事務所に顔を見せた。「小六クン!!」ぴゆうちやん大喜びである。彼は天神博士の許で飼はれる事になつたが、博士再度誘拐、の話を聴くと、直ぐにまた姿を晦ませてしまつた。嗚呼、哀れ小六。己れの業への責任感には、彼は人(?)一倍鋭敏なのだつた...
〈蛇足〉
またしても言葉
地球上には言語渦卷く
(手話含む)
きみに會へると
意氣込みを燃やすが
その實風呂にも入らない
言葉の使徒
嗤はゞ嗤へ
コロンは髙価い
何もかも俺の手からは
遠い
口説いてみやう
鳴かぬほとゝぎす
きみ口は固かつたつけ
内緒だ
皆々と同じく
俺だつて逃げたいんだ
-永田-




