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規格外のポーションと商人の嗅覚

翌日。

タクミは覚醒した力への興奮で、ほとんど眠れなかった。彼は夜通しMPが尽きるまで下級回復ポーションを生成し、安宿の床にずらりと並べていた。その数、実に50本。常識的に考えれば、薬草を採取し、調合し…と、一人の錬金術師が一晩で作れる量を遥かに超えている。


「さて、これをどうやって売るか…」


冒険者として地道に依頼をこなすよりも、このポーションを売った方が遥かに効率がいい。問題は、その販路だ。一度に大量のポーションを市場に流せば、怪しまれるのは必至。最悪の場合、誰かの縄張りを荒らしたとして、面倒な組織に目をつけられるかもしれない。


タクミはまず、昨日訪れた「バークの薬屋」に向かった。


「やあ、いらっしゃい。昨日の新人冒険者さんだね。どうしたんだい?」

「すみません、これを買い取ってもらえませんか?」


タクミは背負っていた麻袋から、10本の下級回復ポーションを取り出してカウンターに並べた。店主のバークは、一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を引き締めた。


「…ほう。これはまた随分と大量に。どこで手に入れたんだい?君のような駆け出しが、そう簡単に手に入れられる量じゃないが」

「森の奥で、ゴブリンの集落を見つけまして。そこの宝箱に…」


タクミは、あらかじめ用意しておいた嘘を並べた。バークは疑うような目でタクミを見ていたが、ポーションを一本手に取り、その品質を確かめ始めた。


「……なんだ、これは?」


バークの声色が、驚きに変わった。彼は栓を開け、匂いを嗅ぎ、指先で粘度を確かめ、ついには自分の腕にわざと小さな傷をつけて、そのポーションを垂らした。傷は、市販のポーションと同じように癒えていく。だが、その治癒速度が明らかに速かった。


「純度が高い…!不純物がほとんどない、最高品質の下級ポーションだ。馬鹿な、こんなものがゴブリンの巣から出てくるわけが…」


バークはタクミを睨みつけた。その眼光は、人の良い店主のものではなく、酸いも甘いも噛み分けた商人のものだった。


「坊主、正直に言え。お前、何者だ?これをどこで手に入れた?」

「……」

「言えないか。まあいいだろう。商売人に詮索は野暮ってもんだ。だが、一つだけ言っておく。こんな『規格外』の品を一度に大量に流せば、面倒なことになるぞ。錬金術師ギルドや、この街の商業組合が黙っていない」


やはり、そうか。タクミが懸念していた通りの反応だ。


「それで、買い取ってはもらえないでしょうか?」

「買い取るとも。もちろん、相応の値段でな。普通の下級ポーションなら一本銅貨5枚で買い取るところだが…この品質なら、一本銀貨1枚でどうだ?」


銀貨1枚。銅貨100枚分の価値がある。タクミが驚いていると、バークはニヤリと笑った。


「驚いた顔だな。だが、これには条件がある。今後、お前が手に入れたポーションは、全て俺の店に卸すこと。他の店には絶対に流すな。そうすれば、お前の身の安全もある程度は保証してやろう」


それは、タクミにとって願ってもない提案だった。信頼できる販路の確保。これほど心強いことはない。


「分かりました。その条件、飲みます」

「交渉成立だ。賢明な判断だよ」


タクミは10本の下級回復ポーションを銀貨10枚で売り払い、ホクホク顔で店を後にした。銀貨10枚――銅貨1000枚。一日にして、駆け出し冒険者の数ヶ月分の稼ぎに匹敵する大金を手にしてしまった。


バークは、タクミの背中が見えなくなると、カウンターの奥から一人の男を呼び出した。


「…聞いた通りだ。あいつ、間違いなく『本物』だ。おそらくは、どこかの国のお抱え錬金術師か、あるいは、隠遁した大魔術師の弟子かもしれん」

「しかし、あのような若者が…」

「だからこそだ。才能というものは、時に常識を破壊する。何としても、我々の商会で独占的に囲い込むぞ。あらゆる手段を使って、あいつとの繋がりを強化しろ。金はいくらかかってもいい」


人の良い店主の仮面を脱ぎ捨てたバーク――その正体は、このアークライトで暗躍する巨大商業ギルド「黄昏の天秤」の幹部だった。彼の商人の嗅覚は、タクミという存在が、計り知れない利益を生む「金の卵」であることを正確に捉えていたのだ。


一方、そんな裏の動きなど知る由もないタクミは、手に入れた大金で装備を整えようと、鍛冶屋が並ぶ通りを歩いていた。


(まずは、まともな剣と鎧だ。いつまでも石槍じゃ心許ない。そして、もっと高度なものを作るための素材も見ておきたい)


彼の物質創造スキルは、まだ始まったばかり。ポーションで資金を得た今、次なる目標は、より複雑で、より強力なアイテムの創造。


タクミの錬金術師としての道は、巨大な商会の思惑と交錯しながら、今、本格的に始まろうとしていた。

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