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錬金術師の目覚め

アークライトの城壁の外は、穏やかな草原が広がっていた。街の近くということもあり、凶暴な魔物の気配はない。タクミは依頼書に描かれた月光草の特徴――銀色に輝く葉と、夜になると淡い光を放つという性質――を頭に叩き込み、探索を始めた。


幸い、月光草はすぐに見つかった。岩陰にひっそりと、しかし確かにその存在を主張するように、数本が銀色の葉を揺らしていた。


「これが月光草か…」


タクミは一本を慎重に摘み取り、その構造を隅々まで観察する。葉脈の走り方、茎の繊維の密度、根に含まれる水分の量。システムエンジニアとしての解析能力が、ここで遺憾なく発揮される。彼はただ見るだけでなく、指で触れ、匂いを嗅ぎ、五感の全てを使って対象を「理解」しようと努めた。


(いける…!)


数分後、タクミは確信を得た。彼は空になった片方の手のひらを上に向け、神経を集中させる。脳内で、先ほどインプットした月光草の構造データを再構築していく。体内の魔力が、設計図に従って物質へと変換されていく感覚。


すると、手のひらの上の空間が淡く光り、まるで3Dプリンターから出力されるように、一本の月光草が実体化した。見た目も、手触りも、本物と寸分違わない。


「成功だ…!」


思わずガッツポーズが出る。これで依頼達成に必要な10本を集めるために、草原を歩き回る必要はなくなった。彼はその場で残り9本の月光草を次々と「創造」し、あっという間に依頼を完了させた。消費したMPは、1本あたり10程度。彼の膨大なMPをもってすれば、まさに無限に生み出せるも同然だった。


(待てよ…?これって、もしかして…)


タクミの脳裏に、ある言葉が閃いた。

「錬金術」

無から有を生み出す、伝説の秘術。自分のスキルは、まさにそれではないか。


(もし、もっと価値のあるものを創造できたら?例えば、ポーションとか…)


ゴブリンとの戦闘で負った擦り傷が、まだ腕に残っている。タクミはふと、この傷を癒す回復薬――ポーションを作れないかと考えた。


だが、問題があった。ポーションの現物がない。構造を理解できなければ、スキルは使えないのだ。


「いや、待て。現物がなくても、材料から作ればいいんじゃないか?」


タク_は思考を切り替える。ポーションの材料は、一般的に薬草だ。この月光草も、何かの薬の材料になるはず。


彼はギルドに戻る前に、創造した月光草とは別に、自生していたものを数本、予備として採取した。そして、街に戻ると、薬屋を探して歩き始めた。


運良く、市場の一角に「バークの薬屋」という小さな店を見つけることができた。店主は人の良さそうな初老の男性だ。


「いらっしゃい。何かお探しかな?」

「すみません、一番安いポーションを一本と、この月光草について教えてほしいのですが」


タクミが月光草を差し出すと、店主は目を細めた。

「ほう、これは上質な月光草だ。鎮静作用があって、安眠薬の材料になる。うちでは一本、銅貨2枚で買い取っているよ」


銅貨2枚。依頼の報酬は10本で銅貨30枚だから、ギルドを通した方が断然儲かる。やはりギルドは正当な仲介役を果たしているようだ。


タクミは一番安い「下級回復ポーション」を銅貨10枚で購入し、早速宿屋に向かった。今日の稼ぎは、依頼報酬の30枚からポーション代10枚を引いて、残り20枚。一番安い宿なら、なんとか泊まれるだろう。


「きしむベッドの一室」という言葉がぴったりの安宿の一室で、タクミは改めて購入したポーションと、採取してきた月光草を並べた。


まずは、下級回復ポーションの解析からだ。

赤い液体が満たされた小瓶。タクミは栓を開け、匂いを嗅ぎ、少量だけ指につけて舐めてみた。ほんのり甘く、薬草のような独特の香りがする。


(主成分は精製水。そこに、数種類の薬草の成分が溶け込んでいる…この匂いは、月光草の成分も含まれているな)


タクミは、ポーションの液体に含まれる成分を一つ一つ分離し、その構造を解析していく。それは、複雑なプログラムのソースコードを読み解く作業に似ていた。


そして、数時間後。


「…分かった。完全に理解した」


タクミの目には、下級回復ポーションの完璧な構造式が映っていた。彼は空の小瓶をイメージで作り出し、そこに魔力を注ぎ込んでいく。


赤い液体が、無から生成され、小瓶を満たしていく。

完成したのは、店で買ったものと全く同じ、下級回復ポーションだった。


試しに、腕の擦り傷に塗ってみる。すると、傷口が淡い光を放ち、みるみるうちに塞がっていくではないか。効果も本物だ。


「はは…はははは!」


笑いが込み上げてきた。これは、とんでもない力だ。

戦闘だけじゃない。生産において、このスキルは神の領域に達している。


ポーションを無限に生み出せる。つまり、莫大な富を築くことができる。

もう、納期に追われ、心身をすり減らす生活とは無縁だ。


「まずは、このポーションを元手に資金を稼ごう。そして、もっと高度なもの――魔法の武器や防具だって、構造さえ理解すれば作れるはずだ!」


タクミの瞳は、野心と希望の光で爛々と輝いていた。

色褪せた世界で死んだ男は、異世界で「錬金術師」として覚醒した。彼の作る規格外のアイテムが、この世界の常識を覆していくことになるのを、まだ誰も知らない。



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