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偽りの星屑と錬金術師の策謀

バークの執務室の机に、アークライトの古い地図が広げられた。作戦会議の始まりだ。


「黄昏の天秤のアジトは、この街の貴族街にある元伯爵の屋敷だ。表向きは美術商のオフィスとして使われている。警備は厳重で、正面からの潜入は不可能に近い」 バークは地図の一点を指さしながら、厳しい表情で言った。 「星屑の砂は、おそらく地下の大金庫か、ゴーレムが保管されているという最深部の研究室…いずれにせよ、辿り着くまでに奴らの主戦力を相手にすることになる」


絶望的な状況。しかし、タクミは落ち着いていた。彼の頭の中では、既に勝利への道筋が見えている。


「潜入する必要はありません」 「なに?」 タクミの言葉に、バークとルナリアが顔を上げる。


「敵の砦に乗り込むのが難しいなら、こちらが望む場所に、お宝の方から出てきてもらえばいいんです」 タクミは自信に満ちた笑みを浮かべた。 「これから俺は、『偽物の星屑の砂』を作ります。見た目も、魔力反応も、本物そっくりに。そしてバークさん、あなたの組織の情報網を使って、『別の買い手が現れた』という噂を流してください。黄昏の天秤よりも良い条件を提示する、謎の富豪がいる、とね」


バークの目がカッと見開かれた。彼はタクミの策の意図を瞬時に理解した。 「…なるほど。奴らがその話に食いつき、本物の星屑の砂を鑑定のためにアジトから持ち出したところを叩く、と。面白い!実に面白い策だ!」


敵の裏をかく情報戦。危険な潜入任務を、鮮やかな奇襲作戦へと塗り替える逆転の発想。バークは、目の前の若者がただの強力なスキル保持者ではなく、恐るべき策略家でもあることを悟り、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「しかし、可能なのか?本物を見たこともないのに、奴らの鑑定士を騙せるほどの偽物を作ることなど…」 「そこで、ルナリアの力が必要になる」


タクミはルナリアに向き直った。 「ルナリアは、本物の星屑の砂に触れたことがある。その時の感触、魔力の流れ、輝き…覚えている全てを、俺に教えてほしい。あんたのその鋭敏な感覚が、偽物を本物に近づけるためのコンパスになる」


ルナリアは、自分が作戦の重要な鍵を握っていることを知り、顔を引き締めた。 「…はい、お任せください!わたくしの記憶にある、故郷の希望の輝き…寸分違わずお伝えします!」


作戦は決まった。 それから二日間、タクミとルナリアはバークが用意した隠れ家の一室に籠り、偽の星屑の砂の創造に没頭した。


「もっと、粒子の一つ一つが内側から発光するような…それでいて、どこか冷たい輝きなんです」 「なるほど。魔力構造を多層にして、中心核と外殻で波長を変えてみるか…」


タクミが魔力で砂状の物質を生成し、ルナリアがその魔力反応を鑑定してフィードバックする。まるで精密な機械を組み立てるように、二人の共同作業は続けられた。SEとしてのタクミの構築能力と、エルフであるルナリアの魔力感知能力が、完璧な相乗効果を生み出していく。


そして、作戦開始予定日の朝。 二人の目の前には、青い革袋に納められた、手のひら一杯の砂があった。それは、まるで夜空からすくい取ってきた星々のように、キラキラと幻想的な光を放っていた。


「…すごい。本物と、全く見分けがつきません。この魔力の揺らぎまで…」 ルナリアが感嘆の声を漏らす。それは、単なる模造品ではなかった。タクミのスキルとルナリアの記憶が練り上げた、魂のこもった「作品」だった。


そこへ、バークからの知らせが届いた。 「タクミ君、やったぞ!奴ら、完全に食いついた!今夜、月が大聖堂の真上に来る刻、街はずれの古い倉庫で取引を行う、と返事があった!」


バークの声は興奮に上ずっていた。敵は、タクミの仕掛けた罠に、まんまと嵌まったのだ。


その夜。 指定された古い倉庫には、バークが手配した「暁の剣」の精鋭たちが、息を潜めて闇に紛れていた。 タクミとルナ-アもまた、倉庫の梁の上から、下の様子を窺っている。


やがて、倉庫の扉が開き、一人の男が入ってきた。派手な装飾のついた貴族服を身に纏い、しかしその目は蛇のように冷たい。黄昏の天秤のアークライト支部長、マルコーニだ。彼の後ろには、護衛と思われる屈強な魔術師たちが控えている。


そして、マルコーニの手には、厳重な結界が施されたアタッシュケースが握られていた。 その中に、本物の『星屑の砂』が入っている。


「買い手とやらはどこだ?」 マルコーニが苛立ったように言う。その瞬間、バークが合図を送った。


四方の闇から、暁の剣のメンバーが一斉に飛び出し、マルコーニたちを取り囲む。 「なっ…!罠か!」 「ようこそ、マルコーニ支部長。黄昏の天秤の好き勝手も、今夜で終わりだ」 バークが、悠然と姿を現した。


戦いの火蓋が切って落とされる。暁の剣と黄昏の天秤の、アークライトの闇の覇権を賭けた戦いが始まった。 だが、タクミの本当の狙いは、その乱戦の先にある。


「ルナリア、いくぞ!」 「はい!」


タクミは梁の上から飛び降りた。狙うはただ一つ、マルコーニが持つアタッシュケース。乱戦の中、敵の魔術師がタクミに気づき、炎の矢を放つ。


絶体絶命。しかし、タクミは慌てない。 彼は自らの前に手をかざし、一瞬で分厚い鋼鉄の壁を「創造」して炎の矢を防いだ。


「な…!?」


驚愕する魔術師を尻目に、タクミはマルコーニとの距離を詰める。彼の錬金術師としての、規格外の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

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