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1:バルドの研究工房

 人里から少し離れた丘の上に、ひっそりと立つ小さな工房があった。

 木の香りと金属の匂い、古い羊皮紙と埃の匂い、様々な匂いが混じった中、大量の本とガラス瓶、歯車が乱雑に積まれているテーブルに突っ伏すようにして設計図にペンを走らせている男がいる。

 彼の名前はバルド・エンツ。魔導技師として、この工房であるものの研究に没頭していた。

 彼が研究しているのはーー命を宿したように動く人形、魔導人形(ピノリア)だ。

 昼も夜も関係なく、工房の中で黙々と研究を続けているが、いまだに人間のように動く人形はできず、大量の試作品たちが壁にもたれかかっていた。


 「あと少しのはずなんだ……何がダメなんだ」


 人間のように考え、動くことのできる人形。

 どうしてその研究をしようと思ったのかは今となっては遠い記憶すぎて定かではないが、人とのコミュニケーションが苦手すぎて、自分の代わりに周囲とやり取りできる方法を考えていたような気がする。

 形だけは成功している。ただ、そこに意思はない。

 命令されたことだけを繰り返す、単純なことしかできない。


 テーブルの片隅には乾き切ったパンと水の入ったコップが置かれている。

 これを用意してくれたのもバルドが作った人形だが、パンが乾いていようがカビが生えていようがそのままだ。

 これが人だったら?

 カチカチに乾いたパンには温かいスープをつけてパンをふやかそうと考えないか?

 カビが生えたパンは人に出せるものではないと判断して処分するんじゃないか?

 それを魔導人形自身が自分で判断できるようになるためには何が足りないのか。


 何日もまともに寝ていないバルドは、半ばヤケクソになりながら魔導陣を描き直す。


 「これでどうだ?」


 魔導陣から光が漏れた。

 今までとまったく違う反応にバルドは眉をひそめた。

 また失敗かと思った矢先、壁にもたれていた魔導人形の1体がわずかに動いたような気がした。

 バルドは確かめようとその人形に近づこうとしたその時、今度ははっきりと人形の指が動いた。


 今までも動く人形を作ることはできている。

 今回もきっと失敗だ。そう思いながらも心の隅に期待している自分もいる。


 「う……っ」


 人形から声が漏れた。


 動く人形は今までも成功している。だが、みな会話どころか声を出すことはない。

 バルドは目を見開いて、人形が何か言葉を話すのではないかと期待した。


 「⭐︎・△〇……⬜︎qm♦︎*?」


 確かに何か言葉を発しているが、バルドには何と言ったのかわからない。

 透き通ったガラスでできた瞳には意思が宿り、バルドと視線が重なる。


 「⬜︎△qx◎!!」


 やはり、この人形は自らの意思で言葉を発している。しかし、その言葉はバルドが使うものとは違うようで、何と言っているのかまったくわからない。

 とりあえず、意思疎通を図ろうと、バルドは人形の前に座り自分の胸に手を当ててゆっくりと「バルド」と自分の名前を伝えた。そして人形である彼女を指し「ピノリア」とゆっくり言ってみせた。

 人形の彼女も名前を言われたのとわかったのか、自分のことを指差し「ピノリア」と繰り返して見せた。

 そして、バルドとしっかり視線を合わせ、「バルド」と言って微笑んだ。


 笑った……。

 今まで声すら発したことがない人形が、自らの意思で微笑んでみせたのだ。


 「やった……!ついに成功だ!!」


 拳を握りしめて宙を仰ぐバルドのことを見つめる人形の目は「何が何だかわかりません」と訴えているようだったが、成功に興奮しているバルドには全然伝わっていないのだった。

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