【第57話:旅は好きだと意見がそろう】
晩夏の山裾をすすむ白い馬車。
つやつや輝く車体はユア達の馬車であった。
運転席にはアミュアとユアが並んで座り、開け放った客室の前窓に両手をつき上半身を外に出したラウマが、気持ちよさそうに風を受ける姿が見える。
ユアはしっかり武装しており、腰にはいつもの短剣も釣っている。
アミュアも最近は着ていなかった白いローブの前を開けて着込んでいた。
少し暑そうだが、腰にはしっかりと銀のロッドも光る。
ラウマは軽やかな夏服で、にこにこと楽しそうにしているのだった。
ユアをみてアミュアが言う。
「最初はわたしとラウマさまが地上に出た、あの廃城に行きましょう。おそらくノアもあそこから動いたはずです」
「ラウマさまではなくラウマです」
にこにことラウマに否定されるアミュア。
じっとラウマ様をみて提案。
「では”おかあさま”でよいですか?」
「それ以外でおねがいします‥‥」
ラウマすら黙らせるアミュアの切り返しスキルであった。
「まぁアミュアはわりと丁寧に話すし、ラウマさまでもおかしくはないよね!」
ユアもさりげなくフォローしたのであった。
今日は風も穏やかなのでむんむんと熱気が満ち、地平線には入道雲が立ち上がり夏らしい一日となりそうであった。
『GYAhaaaaaa!!』
わりと大きめの白いワイバーンだった。
雪月山脈の固有種でスノーワイバーンと呼ばれている。
4匹も群がってきているが、ユアは慌てない。
すでにアミュアの詠唱が終わっていたからだ。
「拡散マグネティカメガフォトン」
馬車の屋根に上がっていたアミュアの、静かな宣言とともにピンク色の極太ビームが複数曲射される。
きしくううぅぅん!
といった大気を切り裂く焼けた重粒子のビームが目標追尾して8本伸びる。
炎と光の複合属性、この世界にはない異世界の魔法であった。
超高温のビームはスノーワイバーンの弱点属性にもなっていた。
一瞬で4匹とも貫いて空に消えていった。
「4匹のワイバーンを一瞬で殲滅だと‥‥ルメリナの白い悪魔はばけものか?!」
説明先輩ハンター風にユアが説明セリフを真似てみた。
「あせりの気持ちが伝わってきませんね、70点です」
すとっと地上におりたアミュアの評価は辛かった。
「でもすごいね!アミュア。前より格段に早くて強かった」
細い腕でちからコブを作ろうとするアミュア。
「ラウマさまと一緒だとすごく魔力が湧いてくるのです」
曲がった白い腕にはコブは出来なかった。
あいかわらず会話が切れない二人は、慣れた手際で辺りにちらばって落ちたワイバーンを解体するのだった。
ラウマはそれをニコニコ見ながら、じっと馬車に乗っていたのだった。
そうして何度かエンカウントしながら、山頂の広場まで来たユア達。
スリックデンを出てから7日が経っていた。
馬車には詰めるだけの食料を買い込んできているので、当分旅は続けられるのだった。
今日はワイバーンからお肉がドロップしたので、これは新鮮なうちにと分厚いステーキに仕上げたのだった。
それでも半分も消費できなかったので、夜霧を呼び出し食べれるだけ食べてとドサっと生肉で提供した。
夜霧は大喜びだが、きっと体積的に食べきれないだろう。
他にも濃い味付けで煮込むと日持ちするので、ユアが仕込んだ大きな鍋がコンロにまだコトコトかかっていた。
「うまい!塩胡椒だけでここまで味があるとは!これが野外バーベキューマジックか!」
「もう、説明セリフは終わりにしてといいました」
いまだ説明先輩ハンターごっこがやめられないユアに、もう飽きたぞとアミュア。
「本当に美味しいです、アミュアもユアもありがとう」
ラウマももぐもぐしっかり食べていた。
ほっぺが少し膨らむ姿が愛らしい。
ユアとアミュアの影響か、ラウマは相当ハンターっぽい食べ方になってきていた。
一口がダイナミックになったのだ。
そうして暮れていく空のグラデーションを楽しみながら、焚き火を囲んでいたのだった。
この広場にも何度か泊まっていて、途中で摘んだお花も供え終わっていたので、ゆったりと夕飯を楽しむのであった。
「こうして旅をつづけるの、あたし好きだな!町でわいわいするのも好きだけど。やっぱりこうして焚き火をかこむのが好き」
ユアにしては珍しく述べた自己主張にアミュアが答える。
「わたしもすきです。時間がゆっくりすぎていくのを感じます」
ニコニコみているラウマは語らない。
「ラウマはイヤじゃない?外で泊まるの?」
ユアが尋ねる。
「ええ、わたくしもどちらかと言えば静かな所が好みです」
その高い音程の声はアミュアに似ているのだが、少しだけことなる波長を持っていて、アミュアとは違う癒やしがあるなとユアは感心した。
「この騒ぎが終わったらまた南に行ってみたいな」
ユアはそう話し始める。
今夜は珍しく主張の多いユアであった。
「もちろん王都でミーナやカーニャにも会いたいけど。もっとずっと南に行ってみたい」
「そういえば前にもそんな話をしてましたね」
と答えるアミュアは思案顔。
「そうそう、南の海まで行ってみたいんだよ!あたしの名前って南の方にある海の名前から取ったって、昔おかあさんに聞いたんだ」
すっと目線を下げるユア。
「ユラ(Jural)海って所があって、同じつづりだよって言ってた。あたし自分の名前が好きでね、いっぱい練習して書けるようになったんだよ」
少しだけ寂しそうにするユアに、心配の目を向けるアミュア。
今夜はやけに饒舌だなとも思ったアミュアであった。
さあっと雲が月にかかり影が辺りを覆った。
楽しそうな雰囲気が一瞬で凍りつく。
ぱっと立ち上がり抜剣したユアが叫ぶ。
ザワリとした殺気が背をなでる。
「ラウマ!馬車にはいって!」
ユアのセリフが終わると同時に、アミュアのディテクトエビルが発動。
「南1‥‥おおきい」
短いアミュアの報告とともに、何かが広場の端に降り立った。
ズゥン!
思い着地音が不穏に響く中、やっとラウマが馬車にたどり着いた。
そこには巨大な黒い人影がゆらゆらと炎をまとったシルエットになり立ち上がってきたのだった。
「スヴァイレク!!」
ユアの声には余裕がない。
かつて蹴散らしたスヴァイレクにはないプレッシャーがそこには有った。
大気を歪ませるほどの殺気だった。
アミュアの掲げるロッドが震えている。
殺気に当てられているのだ。
「久しいな娘たち‥‥あいたかったぞ」
全く親しみのこもらない再会の挨拶であった。




