【第46話:神話から始まり】
「ただいまですおかあさま」
『??おかえりなさいアミュア?』
コテンと首を曲げるラウマにアミュアはニコニコで降りてきたラウマの手を取った。
「ユアがそう言ってました。わたしはラウマさまの娘だと」
んーっと、といった顔でラウマも答えた。
『まあ、間違いではないですね。本当にユアは面白いですね』
そう言って、ラウマもにっこりするのだった。
じっと今度はノアを見てラウマは話出す。
『ノアもおかえりなさい。わたくしの世界で保護していたあなたをペルクールの衝撃で取り落としてから探していました』
「???」
全く話が分からないノアは首をひねっていた。
『わたくし自体も大きな傷を負ってしまい、回復には大分時間がかかりました。記憶もほとんど無くしてしまいましたね?ノア』
「その記憶は大事なものなの?」
ノアは記憶に興味があるようだ。
何も記憶のない状態で、荒野から始まるノアの世界は非常に不自然であった。
世界に順応できる最低限の記憶も無かったのである。
メイド達の教育で今は人並みの知識と判断力を持ったのだった。
そのノアの判断では、現在の状況は不明過ぎ理解できなかった。
記憶があるなら与えてほしいと思ったのだった。
『そうですね、大事かどうかは貴方の判断によると思いますが‥‥』
少し考えてから提案するラウマ。
『残念ながら貴方が以前持っていた記憶は既に失われています。わたくしが知る、貴方の誕生から最近までの記憶を見せますのでそこから必要な事を知って下さい』
アミュアの手を取ったまま反対の手でノアの手を取るラウマ。
先ほどのテラスでの状況をラウマがユアに変わり成すのだった。
『アミュア、貴方も見て必要なことを読み取るのですよ』
そうしてそこから長い長いラウマの記憶を辿る旅が始まったのだった。
すっとノアもアミュアも視界が暗転する。
最初に見えたのは青い星。
漆黒に浮かび弧を描くまるい姿。
ユア達の世界たる惑星の姿だ。
衛星軌道と思われる高さから地上を見ているのだ。
青い海と、大きな大陸。
真っ白な雲があちこちで渦を巻く。
すうっと一つの大陸に視線が移動した。
自分の姿はノアもアミュアも認識できず、視界だけがあるのだ。
そこは緑の世界。
巨大な植物と巨大な昆虫が支配する緑の世界だった。
「でっかいトンボでした」
アミュアが通り過ぎていった、巨大な昆虫をみて言葉を漏らす。
姿はそこに見えないが、すぐそばからノアの声もした。
「あれくらいのトンボなら前に倒した」
ちょっと自慢げなノアの声にイラッとするアミュア。
「ナマイキです黒ノア」
『2人とも仲良くしてね?』
「ぐるるる」
ノアもアミュアも仲良くする気はないようであった。
気配だけになっても。
果てなく続く緑の中に巨大な白い塔が見える。
「きれい。まっ白だ」
「神々の塔?」
ノアかアミュアか、はたまた同時か。
答える声はなく進んでいった。
どんどん近づくと白い壁しか見えなくなった。
壁をすり抜けて内部に視界が進む。
塔の中央には大きな円筒状の空間が上下に果てなく続き、そこは光に満ち溢れていた。
その中央には、さらなる輝きを持つ1本の線が上下に走っている。
線を挟んで双子の少女が浮いてゆっくり回っている。
お互いの手をつなぎ輪となし、そのなかに黄金の線が上下に走る。
よく見ると外側にも光の輪があり、その姿はユアと成した円環の奇跡を示している。
一方は黄金の髪を輝かせるラウマ、もう一方は白銀の髪を輝かせるラウマそっくりな少女。
10才前後の容姿で、衣服は身につけず目を閉じている。
『これが最初に見たわたくし達ですノア』
そう、白銀に輝くラウマの双子はノアであった。
「えぇぇ‥」
不満そうな声はアミュア。
視界が恐ろしいほどの速度で動き変化した。
激しい光の明滅にアミュアとノアは声にならない呻きを上げる。
ぱっと動きが止まりまた別の場所を映した。
地上を真っ黒な影が覆っていた。
黒一色の軍団だ。
数えることなど不可能な数の兵士が群れをなしているのだ。
そこに巨大な竜が飛んでくる。
白銀のその姿にアミュアは見覚えがあった。
「シルヴァリア!」
興奮したアミュアの声にラウマが答える。
『かの怒れる竜は世界を滅ぼすものです』
視界の中で青かった星は赤赤と燃えていた。
飛び回る竜は複数いて、それぞれが恐ろしい炎で地上を執拗に焼き払っていた。
『こうして全ての秩序が失われて、あらたなる世界が始まったのでした』
また視界が明滅する。
止まった時には見慣れたラウマの空間だった。
中央に立つ金色のラウマと、真っ黒に輝きを失ったノアが力なく足元に座っている。
「わたしが黒くなった?」
ノアがショックを受けた。
『この時点でノアは力をほとんど失いました。わたくしの世界に引き入れ、力を分けることで残したのです』
ノアもアミュアも声はなかった。
また視界が激しく明滅し、目を開けていられなくなる。
目はそこに無いのだが。
そして場面はまた止まり、あらたなる世界を映した。
「セルミアだ!」
ノアの声が響く。
そこには現在と同じ姿のセルミアがいて、大きな椅子に腰掛けていた。
『新しく興った世界の影には、セルミアだけではなく、多くの影のものがありました』
ラウマの声は淡々と続く。
場面が切り替わり城の地下にある儀式場。
かつてアミュアが放り込まれたあの深淵が映る。
その淵には鎧の大男。
「ダウスレム‥‥?」
今度映った男を見てアミュアが声を出した。
『かの者はわたくしの世界を、元の世界から切り離し行き来を禁じた者の配下です』
話のスケールが行き来するのでアミュアにもノアにも理解は難しかった。
また場面が切り替わる。
段々と明滅の速度と時間が変わってくる。
ただの灰色に見えた明滅は切り替わる光と影になり、その時間も短くなっていく。
新しい世界はとても発展し、現在でも見ることのない進んだ技術により支えられていた。
世界中を遍く知り、ありとあらゆる手段で世界を変えていった。
そしてその超文明同士の戦争が始まる。
世界は再び炎に包まれる。
シルヴァリアの炎には劣るが、それでも世界を滅ぼしうる光と炎が溢れた。
世界は2度目の終わりを迎えようとしていたのだ。




