表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしがわたしになるまで  作者: Dizzy
第1章
5/92

【第4話:うしなう怖さ】

誤字、表記ミスだけ直しました。

 広い平原のあちこちにこんもりとした森が点在している。

スリックデンから真っすぐにラウマの祠を目指していた。

アビスパンサーの夜霧がいれば、道は必要ないのだった。

「はやいやばいはやいー♪」

「はやすぎ、ユア少し、ゆっくり、にして」

 夜霧の鞍はアイギスの好みなのか、とても固い革製だった。

ましてやいつもユアがアミュアを抱え乗っていた部分は、荷物置き用の平らな部分であった。

今はそこにアミュアが乗り、後ろからユアが手綱を握っている。

荷物はサイドバッグとユアの背中だ。

乗り心地改善のため、汽車の応用で毛布を折り敷いていた。

お陰で少しアミュアとユアのおしりにやさしい乗り心地となった。

鞍に座るユアは鐙もあるので若干いいのだが、アミュアの乗る荷物置きはかなり痛かった。

それでも夜霧が丁寧に走ってくれるので、けして馬より痛い訳ではないのだが。

以前と違いアミュアもとぎれとぎれ話せるようになったのが、改善を感じるユアであった。




 泉の淵に夜霧が丸まっている。

泉で喉を潤し、アミュアに餌ももらって撫でられたので、ご機嫌である。

夜霧は義兄アイギスからユアが、使役の指輪ごと借りているテイムモンスターだ。

アビスパンサーという種類で、必要な時以外ユアの近くの影に潜んでいることも出来る。

ただし建物には入れないというテイム上の決まりがあるので、今はそこで待っているのだ。


祠に入ったユアがアミュアに言う。

「ねえどこら辺にあたしたちでてきたの?」

アミュアに視線を向けながらユアが続ける。

「気が付いたらアミュアに寝かされてたから、知らないんだよねあたし」

ラウマ像の前に立ち、じっと像を見ていたアミュアが答える。

「わたしもよくわからない、気づいたら足元にユアがいてここいらに立ってた」

アミュアが自分の足元を指さしながらユアを見た。

「そこから戻れるとかはないよね??」

「そういう気配はないです」

アミュアが軽く首を振った。

そうすると細い銀糸が左右に振れて、とても綺麗だなとユアは感心するのだった。

「やっぱり雪月(ゆきつき)山脈をまた越えるしかないか」

「竜のところで、お花あげたいです」

 以前山越えしたときに、山頂で伝説の古竜シルヴァリアと出会い、その最後を看取ったのだった。

そのとき一度アミュアは献花していた。

アミュアはなぜか銀竜に亡き師匠をかさねて、哀惜を感じるのであった。

「そうだね」

短く答えるユアにとってもシルヴァリアは、会ったことのない亡き父との繋がりがある相手だった。

「やっぱりラウマ様は何も答えてくれないね?」

確認するようにアミュアに問うユア。

「うん、なんの気配もしないねここは」

すっと目を伏せるアミュアであった。

今のアミュアがラウマ様をどう思っているのか、ユアには判らないのであった。




 その夜、雪月山脈が見えるあたりまで来たユア達は野営をしていた。

今日は大分長く走ったので疲れてしまったのか、ユアはすぐテントで寝ていた。

交代で夜番するので、夜半には起こさなければいけない。

アミュアは焚火の下火になった明かりを、じっと見つめていた。

 一人になると最近とても多くの事を思い出すのだ。

かつて小さな体だった頃よりも、鮮明に色々と思い出せる。

(ししょう、わたし大きくなったんだよ)

日中にラウマ像の所で思い出してから、アミュアの心には喪失の痛みが残り続けていた。

 ユアと変わらない年になったアミュアがそうして目を伏せると、その整った小顔と長いストレートの髪もあり、年齢以上に大人びて見えるのだった。

残酷だが寂しさは、少女を美しく大人にみせるのだ。

じっと炎を見るアミュアの胸には、そのときは泣けなかった悲しみが今もあるのだった。

銀竜シルヴァリアとの別れで一度、涙で流し終えた悲しみであった。

それはいまだ胸を締め付ける痛みを持ってそこにあるのだった。

(どうして?あの時はなけなかったのに)

アミュアの瞳の端には小さな雫が結ばれていた。

つっと流れ落ちるのに任せ、炎を見続けた。

(ふしぎだ、おおきくなってからの方がかんたんに涙がでる)

ちょっと自分の考えがおかしかったのか、ニコっと少し微笑みが浮かぶのであった。




 ユアは戦士として育てられ、斥候としての技術も兄から引き継いでいた。

夜番なら時間がくれば目は覚めるのだ。

そっと気配をころして外に出ると、焚火の前でマントにくるまったアミュアが寝ていた。

そろそろ限界だろうなと、交代の時間よりも少し早く起きたユアであった。

 大きくなってからのアミュアも、小さかった頃とあまり変わらずよく眠るのだった。

マントの上から持ってきた毛布をかぶせる。

まだ夏には遠く、夜は冷え込むのだ。

そっと抱き上げて横抱きにし座るユア。

両手の中に抱いていると、確かに重さが違うなと実感できる。

(前はこうしてすっぽり包めたのにな)

胡坐をかいた自分の足上に横抱きにしてアミュアを抱えていた。

やっぱり大きさ的に少し持て余してしまう。

ユアは静かに起こさないよう気を付けて、アミュアを抱きしめる。

心細いときはアミュアの暖かさが恋しいのだ。

ユアもまた沢山の喪失の先に立っていた。

母を友を失い、父は与えられもしなかった。

与えられていないはずの父から思いももらった。

すべて整理して心に収めているが、それは無くなったわけではない。

時にやんわりと心を締め付けるのだ。

そうしてユアとアミュアはお互いを癒し合い、ここまで来たのだった。

(おおきくなったアミュア)

ユアにとっては何ほどの重さではないが、確かな変化を両腕で受け止めていたのだった。

(ずっとそばにいてね)

それは願いであったか、祈りであったか。

ユアもまた、失うことを恐れる者となっていたのだった。


今夜は月がもう沈み、星だけが二人を包み込むように広がっているのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ