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【閑話:むかしのおはなし】
「解ったわ、もうお話することはありませんわ」
静かな拒絶であった。
12才にして優秀で早熟なカーニャは、滅多に声を荒らげることがない。
パタンと静かに出ていく娘を見送り、こらえていた涙があふれる母。
そっと隣に座り肩を抱く父。
その胸でいつまでもふるえていた母であった。
「どうしてノートを残していたんだい?」
優しく問いかけ、返事を待つ父。
しばらく母のすすり泣きだけが流れ、落ち着いてから返事が来た。
「もちろん話し合った様に、全ての研究データもログも処分したわ」
目を伏せたまま表情を消している母。
父は何も言わずただ母の手に、自分の手を添えて待った。
突然また母の顔がゆがんだ。
涙をこらえたのだ。
「あのノートだけ捨てられなかったの‥‥」
ポツリとまた雫が落ちた。
父の顔にも深い苦悩と後悔がにじむ。
「あの子達に名前を贈った大切な思い出だったのですもの」
それだけを絞り出すと、母はまた父の胸にすがった。
ごめんなさいと涙の間に言葉がこぼれたのだった。
希望を込めて「カーニャ」と。
未来を望み「ミーナ」と、名付けた日のノートであった。
第4章完了となります。




