【第37話:なんだかかわいいな】
ヴァルディア家に泊まる時は、ユアはいつもカーニャの部屋で一緒に寝る。
カーニャは最初嫌がって別の部屋を準備すると頑張ったが、今では何も言わずここへ通すのだ。
沢山持っている夜着を借りたり、化粧を教わったりもする。
カーニャのベッドはミーナのとおそろいでとても大きな天蓋付きなので、二人で寝ても余裕があるのだ。
今はカーニャがお風呂に行ってるので、一人で寝室の続き部屋でソファに座ってお茶を飲んでいた。
ヴァルディア家御用達の紅茶はとても香りがよく、リラックスできるのだった。
ユアは先日の戦いを思い出していた。
(スヴァイレクといった、あの影獣。どこまで話を信じていいのかな?)
戦闘の初期にまるでユアを煽るように告げたのだ。
ーーーお前の母親を殺したのは俺だ。
抑えきれない感情が、右手の剣に流れ込みその輝きを増した。
ーーーあの村を襲ったのは、お前を殺すためだった。
全身にまわるラウマの異能、身体強化が燃えるように体を熱くした。
その後の戦闘をよく覚えていない。
長年研鑽した剣技だけで動いていたのだと思われる。
最後は上空にいた別の敵から、すごい攻撃で落とされたので、逃がしてしまった。
その時のユアは心がはち切れそうで、何も考えられなかったのだった。
(今冷静になって考えれば、どう見ても誘いだった)
きゅっとそれでも眉が寄ってしまうのは、あまりにも酷い情報だったからだ。
それだけは聞きたくないとさえ思えた情報。
ユアは母親の死を見ていない。
どこかで生きているとは考えないが、未だリアルに死を感じられずにいた。
それを受け入れてはいるのだが。
そこにその情報。
間違いなく死んだのだぞ、と。
それだけでも辛かった、怒りにふるえた。
ーーーさすが手強いなペルクールの使徒、ラドヴィスの娘。
(あたしの、ううんおとうさんの力を知っていて、村を襲った?迷わせるための嘘?)
ユアの心はぐちゃぐちゃと整理がつかないが、感情は落ち着いていた。
(こうゆう情報を整理するのはカーニャが得意だよなあ。あたしは苦手だ)
カーニャに相談しようか、しても仕方ない事かと悩んでもいた。
そこにカーニャが戻り、ユアもお風呂に行くこととなった。
カーニャは髪を乾かしながら、考え事をしている。
生活魔法で温風を出し、ゆっくりと髪をすいていく。
(ミーナの決心は堅そう。恐らく適正も高い。)
心を占めるのはここの所一つの事だ。
それはミーナの魔法適正にも強くかかわる。
12才で真実を知ってから、誰にも相談したことがない事。
まだ子供だった自分には受け入れ難く、また誰にも話せない姉妹の秘密であった。
それ以来両親とはまともに顔を合わせていない。
憎しみがあるとかそういうことではなかった。
秘密を持っていた両親をそのまま受け入れられないのだった。
断片的に思い出される記憶。
ーーーこの子に健やかな日々を授けてほしい。願いをこめて名を贈る「カーニャ」と。
母親のノートに書いてあった言葉だ。
カーニャとは「希望」という意味を持つ。
(単純に嬉しかったのを覚えているわ)
だからこそその前後の記述に違和感を覚え、探るように読み込んだのだ。
隠してあった母のノートを。
末尾にはこうも書かれていた。
ーーー二人目のこの子はとても儚い。どうか人並な幸せを受け取ってほしい。願いをこめて名を贈る「ミーナ」と。
ミーナは「未来」という意味だ。
儚いミーナにふさわしく美しい名付けだと、涙ぐむほど嬉しかった。
だからこそ確認せずにいられなかった。
問い詰めたのだ、両親を。
当時飛び級に飛び級を重ね、大学に進学が決まっていたカーニャである。
戦術情報処理や組織心理学も得意で、論理的な推論が可能であった。
ーーー私たちはあなた達の子供じゃないの?!
そこには姉妹の誕生にかかわる情報が散見されたのだ。
一般的な出産ではあり得ない内容だった。
優秀なカーニャは本人たちが隠していても、家人や他者から情報を得てほぼ正解と言えるものを見つけていた。
二人がとある特殊な技術の研究者であったと。
そこまで考えたころには髪は乾かし終わり、ガウンから夜着に着替え終わっていた。
丁度ユアが戻ったので、悩むのは一旦棚上げにした。
カーニャにとってもユアと過ごす夜は、掛け替えのない楽しい時間となっているのだ。
「ユア髪かわかしてあげる」
「うん、拭きながら来たからほとんど乾いたけどね!」
「お行儀わるいわよ。今度躾けてあげますからね!」
「アミュアみたいなこといわないで~」
そう言いながら座ったユアの髪に櫛を入れながら、温風を当てるのだった。
(ふふふ、なんだか大きな妹が出来たみたい)
ミーナにはない愛らしさがユアにはある。
宣言通りすぐに髪は乾くのだった。
(ユアの髪はとても柔らかいのに腰が強いわ)
にこにこしながらそのつやつやな手触りを堪能する。
「ユアって髪伸ばしたことないの?」
乾いたかな?と髪に触っていたユアが振り向く。
綺麗な茶髪もくるりと回るのだった。
「いまくらいが一番長いかも??」
ユアの髪は肩に触れる程度だ。
確かに出会った頃より大分伸びた。
「そっか?延ばさないから栄養が行き渡るのかな?」
最近のカーニャは二人の時、とても自然で可愛らしいなとユアも感じているのだった。
なんだか可笑しくなり、二人でクスクス笑い合うのであった。
こうして相手がもう欠くべからざる相手だと、自覚なく心で理解しているのだった。
お互いに悩みを抱えながら。




