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【第35話:13才の決意】

 王都までなんとかたどり着いたユア達は、病院の前で途方に暮れていた。

ミーナは一旦入院となったが、怪我は概ね問題なく翌日には退院できるとの医師の所見であった。

問題は馬車の方の怪我だった。

「クスン、ごめんねきっと直してもらうからね」

とはわずかに残った外装に頬ずりするユアである。

涙目であった。

ミーナよりも遥かに重症となった馬車は、3つしか残っていない車輪で、ここまでの道程を最後の力で乗り切った。

今は車輪が2個になってしまい、自走出来なくなった馬車は邪魔にならないよう、病院の横の空き地に寄せられていた。

「わたしもいっぱい働いてお金を貯めます。ミーナをまもってくれてありがとう馬車」

アミュアもユアの横で馬車に手をあて、礼を言った。




「姉さま‥‥ごめんなさい。私のせいで余計な手間を」

目が覚めたミーナは病室に詰めていたカーニャに詫びる。

伏せられた目には思いがけず長いまつ毛。

「いいのよ、貴方さえ無事なら何を失ったってかまわない」

そっとミーナの頭を胸に抱き寄せ、カーニャの瞳には安心と喜びの涙が流れるのであった。

しばらくそのままでいて、互いの温度を感じあった。

唐突にミーナが言う。

「私ね、魔法学校に入りたいと思うの。姉さまみたいに強くなりたいです」

はっと離れミーナの顔を覗き込むカーニャ。

しっかりと見つめ返すミーナの瞳には、冗談などではない覚悟が見て取れた。

カーニャの目には明らかな迷いがあった。

何度も唇を震わせ、話し出そうとしては噤む。

「‥‥ミーナどうして魔法学校に?ほかにも沢山学校があるのよ?やりたいことや、興味があることはないのかしら?」

そうして口をついたのは柔らかな保留案であった。

「‥‥」

ミーナは表情を変えず口を引き結ぶのであった。

「お父様とお母さまにも相談してみるといいわ」

最後にカーニャはそう言って話を終えてしまったのだった。

父母が決して認めないと知りつつ。




「二日でなんとかしてやる」

たくましい腕を組んだドワーフの職人が言う。

「すごい!ありがとうおじさん!うれしい!!」

飛び上がって喜ぶのはユア。

「なに、しっかりした作りだ。作ったやつに礼を言うんだな。後輪の車軸と外装以外はほとんど無事だ」

コンコンと工具で馬車の床面をたたき試すドワーフ。

「スリックデンまで持つようにするなら2日あれば余裕よ」

そういってニカっと笑うのであった。

「おねがいします」

アミュアも深々と礼をした。


王都の馬車工房に持ち込み、仮修理だが自走できるよう直してもらう。

最終的にはスリックデンの工房で直す流れとなった。

修理代はけして安いものではなかったが、カーニャがどうしてもと半分出してくれたので何とかなりそうではあった。

修理中の二日は、壊れてしまったり失くした馬車の装備類補充とミーナの退院。

退院おめでとう会などで忙しく過ごしたのだった。




そして出発の日。

まだまだ暑い一日を想起させる晴れやかな朝であった。

「よし!これなら大丈夫。スリックデンまでたった7日だ、頑張ろう!」

帰路は無駄なく走らせ、宿泊も宿で済まそうとなった。

馬車は仮屋根はついたが、外装は無く車内が吹き曝しになっている。

大雨にそなえたシートも買ってきたので、最悪は雨をやり過ごすこととなった。

ミーナはすっかり回復したが、3人が心配するので御者台の椅子に座り、カーニャかユアが隣で運転することとなった。

初日はユアが運転し、カーニャとアミュアは夜霧だ。

後部ハッチ周りの被害が大きく、圧縮収納もいくつか壊れてしまった。

おかげで客室だった部分がまるまる荷室のようになっている。

馬車には二人しか乗れないのだった。

「では先行するけど、基本馬車がみえるところにいるわ」

「ミーナ無理しないでね、お昼は一緒にたべようね」

今日はカーニャが手綱を握り、アミュアが前椅子だ。

「そっちも気を付けてね!」

「アミュアもあとでね!」

馬車組はどことなく元気で、夜霧組は心配顔だ。




そうして4人の旅が終わりに向かうのであった。

思いがけぬイベントも多く大変な事もあったが、総じて振り返れば楽しく実り多き日々。

それぞれが沢山の事を考え、相互をより深く理解した旅であった。




「お父様、お母さまご心配おかけしました」

カーニャの実家の居間である。

ミーナが途中で怪我をしたと聞き、両親は心配顔で聞いてくる。

「無事でよかった。沢山学びがあったようだね?見違えたよミーナ」

とは父親のレオニス・ヴァルディアで、ミーナの父親にしては年かさで40代と思われる。

今は実家の仕事を手伝っているが、かつて研究員であったためか理知的で、声を高めた所をミーナは見たことがない。

「本当に大丈夫なのミーナちゃん、痛い所はないのかしら?」

こちらは母のエリセラ・ルミナ・ヴァルディア。

元は父と同じ研究機関にいたが、今は祖母より家督も譲られ家の仕事に選任している。

一番のミーナ過保護者で、出かけるのですらいまだに心配して玄関までくるくらいだ。

二人共例外なく姉のカーニャとは会わない。

ユア達が来ると、カーニャへ家人に連絡を頼むのだが、同時に両親にも知らせるのだ。

カーニャが帰宅すると。

ミーナが闘病中も、カーニャが帰省するとそろって奥に下がり出てこない。

不仲の理由はやんわりと意見の相違などと説明されている。

「いつもご心配おかけして申し訳ございませんお母さま」

最近のミーナは両親に対して少し距離を置く。

心配掛けまいという気持ちよりも、自由にさせてもらえないという不満が先にある。

「いいのよ、無事でなによりだわ。しばらくは家にいるのですよね?」

予想通りの母の言葉に、用意していた答えを告げる。

「ミーナは先日魔法学校の推薦をいただきました。費用に関しては姉に相談しました。」

きりっと意志の強い瞳で見返して母に宣言した。

「秋から編入させてもらえるよう話を進めております。ご承知置きを願います」

相談でも要望でもない、宣誓であった。

もう決めたと。話は進んでいるぞと。

これくらいでなければ、母が承知しないことは理解しているミーナであった。

「そんな!ミーナちゃんはまだ12才ですよ!」

「先日13になりました。」

即答で否定するミーナ。

「何をおっしゃても、ミーナは取りやめません。勝手をお許しください」

思いがけず強いミーナの言葉に何も言い返せなくなる両親であった。



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