表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/92

【第28話:かくされていたこと】

ちょっと表記を変えました。大筋に変化は無いと思います。お騒がせしました。

「ぐあああ!はなせ!!」

騒ぐハンターを取り押さえるメイド長。

無表情ながら腕が振るえるほど力がこもっていた。

左足首を持ち関節を極めていた。

ボキと骨が折れる音がした。

「ぐあああああ!」

「だまれ」

静かに頭を踏みつけ、折った足を離した。

これでセルミナさまの”お願い”は果たしただろう。

殺すなと言われたが、折るなとは言われていない。

メイド長くらいになると、言葉の裏をかき自分を通す術も持っているのだった。


 同じように二人一組で抑え込んだメイドが4人従ってきていた。

死んだ二人でも、最初から襲うのなら勝てたはずだ。

やるせない気持ちがメイド長にはあったが、決して表情は変えないのだ。

「お疲れ様みな。ありがとう」

そう言って何処からともなく主人が現れた。

抑え込んでいるメイドも許される範囲で頭を下げる。

メイド長は相手を既に無力化しているので、綺麗なカーテシーを決める。

そしてハンターに近寄ったセルミアが、逃げようともがく男の頭に人差し指を当てる。

ズブリと入った。

痙攣して声も出ないそのハンターの体が影で覆われていく。

人が影獣になったのだ。

つぎつぎと作業のように3人を影獣に変えると、メイド達を開放した。

「もどっていいわよ」

5人で綺麗に並び深いお辞儀をし、去っていくメイド。

見送りもせず、影獣達を見るセルミア。

何も言わず影獣達は並んでいた。

「あなた達にはもう少し働いてもらうわね。地下に繋いでおいて」

何処にともなく言うと、家令風の男の子が二人跪いていた。

10代と思えるその幼い顔には表情はなかった。




 今夜のノア寝かしつけ係は不要と言われ、メイド達は下がった。

ノアの寝室にはセルミアが来ていた。

「ノアありがとう。皆を守ってくれて」

優しく髪をなでながらセルミアは言ったのだった。

「ふたり死んでしまった」

眼を半眼にしてノアが言う。

抑揚はなく先のような感情はこぼれてこない。

無くなったのではなく、隠しているのだ。

「残念だったわ。でももっと沢山の人を救ったのよノアは」

セルミアを見たノアの瞳にはすがるような光。

隠していた感情は簡単に暴かれてしまっていた。

「だからありがとうノア」

再び礼を言って髪をなでた。

 ノアの瞳から熱い涙が流れ出す。

そっと手を首の下に入れ持ち上げるセルミア。

己が胸に抱き寄せ、背をなでる。

「大丈夫私はわかっているわ。守りたかったのよね?皆を」

優しく抱きよせられながら、ノアは泣いていた。

震えはあったが、声は我慢した。

声をあげてはいけないと、強く思ったのだった。

それは死者に失礼だと、ふっと心に沸いたのだった。

自分が手をくだした死者に。

「がんばりましたねノア、ゆっくりおやすみなさい」

そう言って背をなでるセルミアの頬には皮肉な笑顔が張り付いていた。




「あいつら何に使うんですか?セルミア様」

 セルミアの部屋にレヴァントゥスが来ていた。

家令はすべて彼の部下で、ハンターを使い影獣としたものを3名地下に捉えたと報告を受けていた。

家令は長に必ず報告する。

セルミアも止めなかったのは聞かせるためだ。

「いつかユアとアミュアにぶつけるわ」

顎に拳をあてレヴァントゥスが考える。

「すぐ滅ぼされるだけでは?」

死体を見せるのは既にダウスレム達がやっている。

「アミュアを襲わせて、ノアかアミュアどちらかに食わせるから最後は」

レヴァントゥスの目にも理解の光。

「なるほど、食うところを見せるんですね」

くすりと笑い肯定する。

「せいかい」

セルミアの笑みにはノアへの慈しみが溢れる。

悪意を塗り隠した慈しみだ。




 ユア達の白い馬車が街道を進んでいく。

かつて来た道を戻るのだ。

楽しかった旅もすでに半月を過ぎ、帰路へと向かうのだった。

初日は半日だけ移動して、来るときは泊まらなかった城塞都市に泊まる予定だ。

そうやって帰路は別の町を選んで泊る予定だった。

「なんだかあっという間でした王都」

「本当に、楽しい時間はあっという間に過ぎるわ」

アミュアにミーナが答える。

 今日は二人で馬車の後部座席だ。

運転席にはカーニャとユアが乗っている。

こうして馬車で守られると、雪月山脈を思い出すアミュアだあった。

あの時はカーニャかユアが隣にいた。

今は先日の誘拐騒ぎの時のように、守るべきミーナがいるのでアミュアに油断はない。

「みえたよ!二人とも左側だよ」

開いたままの前窓からユアの声がした。

「見てみよう!」

元気にミーナが言うのでアミュアも左の窓による。

 そこには山城がかすんで見えていた。

街道を見下ろす山肌に建てられた城塞都市だ。

今となってはほとんどの住人は拡大した王都に移り住み、観光地として残っているのだ。

城内には宿場もあり、今夜はそこに泊まる予定だ。

「すごいです、落ちてこないのかな?」

アミュアの疑問ももっともなバランスで、崖から城塞がはみ出していた。

「ずっと昔に建てられたものなんだって」

とはミーナの説明。

アミュアはまたしても覚えてきた知識が役立たずぐぬぬとなっているのだが、顔には出さなかった。

ミーナには実はその我慢がお見通しで、にこにこされているとも知らずに。




「さあて、城塞都市は幽霊もでるらしいし、たのしみだね!」

「え‥‥?」

ユアの軽口に目を丸くするカーニャ。

「あれ知らないの?カーニャ?有名らしいよ」

「なんでそんなとこ泊まるのよ!!」

カーニャさん激怒であった。

アストラル系は苦手らしい。

そうして、近づいてくる石積みの頑丈そうな城塞を見やるのであった。

まだ日は高く、夏らしい雲がもくもく地平線に見えていた。

夏はこれからが本番なのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ