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【第1話:アミュアの変装】

 ルメリナ郊外の廃工場。

かつて発展著しかったルメリナに、生産加工業を発展させようとした地域があった。

つわものどもも夢見がちだったかどうか、今は何棟か廃墟があるばかり。

その中の1棟に、見るからに怪しい人影が入って行く。黒いマントは長く足元まで覆い、フードもあり顔も隠していた。

 唯一顔が見えそうな口元すらハンカチで覆っている。全身真っ黒なのにハンカチはレモンイエローでヒマワリが大きくプリントされている。

つまりユアだ。

がたっと扉だったろう木の板をずらしユアが入ってくる。

「ユア!おかえりなさい」

奥から嬉しそうな笑顔で出てくるのは、背格好はユアと同じくらいだが、全く違う雰囲気。

抜けるように白い肌に、今は少しほほが赤い。

サラサラと銀糸のロングヘアーは腰まである。

すみれ色の目はぱっちりとしてユアを見つめる。

成長したアミュアであった。

 フードを外しハンカチを取りながらユアが奥まで進む。そこいらへんの廃材を組み合わせ、生活拠点が作られていた。

とある事情により潜伏しているのだ。

「ただいま!アミュア。変わりなかった?」

「まったく何もなかった」

あの事件で一気に成長し、ユアと変わらない年になってしまったアミュアだが、中身は変わった感じがない。

ちょっとおねーさんぶる事が増えたくらいだ。

「これ、いいの見つけてきたよ!」

ゴソゴソとバックパックを漁るユアが、何か白っぽいものを取り出した。

「なんですか?これ」

ちょっとあごをあげ自慢げに説明するユア。

「変装用のフードだよ、顔も隠れるヤツ」

「おお」

受け取ったアミュアが白い布を広げる。

ポンっと広がって出てきたのは、丸い形に3角が2つ付いている。

中央付近には青いつぶらな瞳とニンマリした口、そしてヒゲが左右3本付いていた。

縦より横に広い白ネコのかぶり物であった。

骨組みが工夫されているようで、折りたたみ時は小さくなる。

「……」

アミュアはじっと見つめている。

「あ、あれ?気に入らなかった?」

気に入るも何も変装になるが、目立ちすぎると言う潜伏するに致命的な欠陥に気付かないユア。

「か…かわいい!」

ほほをさらに赤くして喜ぶアミュア。

さっそくかぶってみる。

すぽんとアミュアの小顔が収まり、背に銀髪が流れる。

「う、うんかわいいよ、すごく」

ここに至ってついに変装向きじゃなかった事に気付いたユアであった。

アミュアは白ローブに水色のフードマントを重ねており、色合い的にはバッチリマッチしていた。

肩幅より大きいネコ頭がなければ。




「カーニャの所にまず行こう」

ユアの提案であった。

2人は事件後に成長したアミュアがあまりにも怪しいと、マルタスにしばらくルメリナに近づく事を禁じられたのだった。

色々事件の後始末も必要で、話し合って何箇所か旅して回る事となっていた。

うんうんとうなずくアミュアはネコあたまだ。

結構軽いのか身軽に動くようだ。

首の下で紐が結ばれ、簡単には取れない。

ユアはやっぱりそれはまずい、となかなか言い出せない。

「夜霧で行けば、ルイム城もすぐ行けるから、そこでカーニャの馬車を拾って行く」

ユアの説明にアミュアがこてんと首をまげる。

「馬車は無事ですかね?」

少しくぐもるが聞き取れる声が出てくる。

ネコ頭から。

口の所(ネコの口の下)がメッシュになっていて会話しやすい工夫もしてあるようだ。

ちなみに視界は大きなネコの青い目が半透明になっていて確保されている。

非常に良く出来た作りだった。

変装以外では活躍しそうである。




 ぷくーっとアミュアが膨らんでいた。

ほほだけ。

「ほら、アミュアみかんあるよ。たべたらいいよ」

ひょいぱく、ぷくー。である。

「しょうがないよ、顔をかくしてると汽車に乗れないって言われたら」

ユアは肩ほほに冷や汗がつーっと流れた。

(まさかそんなに気にいるとは‥‥)

「スリックデンまでいけば堂々と顔出して歩けるしね、もう機嫌なおそうよ」

身長は大きくなっても中身はちいさなアミュアのままだな、とユアは心のなかでにやにやしていたりする。

「もうすぐミーナにも会えるし、カーニャだって居るよきっと」

ミーナはカーニャの妹で、かつての事件でアミュアとは仲良しである。

かつてはほぼ同じ身長だったのもあり、お揃いのアクセサリーまでつける仲だ。

「わかった、ねこをミーナにも見せてあげる」

急ににっこりのアミュアで、ユアもほっとした。

むずかしい年ごろだわ、と自分と同じ大きさのアミュアを見るのであった。




 午後にルメリナをでた汽車は、翌日のお昼前にスリックデンに到着の予定だ。

(そういえば、初めてアミュアとのった列車もこの時間だったな)

すでに夕焼けも去り、食事もすんだ二人は、二人掛けのシートに毛布をたたんでクッション代わりにして座っている。

アミュアはちょっと前に寝てしまって、ユアの肩にこてんと頭を乗せている。

(おおきくなったのに、睡眠のサイクルが一緒なのがおもしろいな。お昼寝よくするし)

かつては肩の横に頭があったのに、今は肩の上でユアの頬に時々頭があたる。

重さも少し増えているので、肩にずっしりとくる。

フィジカルお化けのユアにとっては些細な差なのだが、間違いない成長を感じた。

ちょっとだけアミュアの髪の匂いを嗅いでみる。

同じシャンプーを使っているのに、アミュアの匂いはちょっとだけ違う。

(あまいにおい)

ユアを安心させる匂いだった。

そうして少しするとユアも寝てしまい、二人の頭がこつりと当たるのだった。

列車は暗くなるにつれ、少しゆっくり走っている。

そのやさしい揺れは二人を深い眠りに誘うのだった。


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