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【第11話:くろきラウマ】

 ノアは森の中で、隠れている時によくトカゲや昆虫などの小動物を捕まえ遊んだ。

特に食べるところがなさそうな小さい奴でだ。

退屈しのぎに命をうばったりもする。

小さな男の子の様な行動だった。

『GYAAAaaa!!』

 今のノアが同じ遊びをすると大変である。

影獣さえ吸収していれば、特にお腹は空かなかった。

なので大きい動物もおもちゃと化したのだった。

ノアが足をのせ翼を引きさいたのは、体長が5mをこえるカブトムシ型のモンスターだ。

固い外側の翼が一枚もがれてしまった。

反対側の翼もつかんだところで、カブトムシから魔法が飛んだ。

角が輝き、闇魔法が発動する。

ノアの足元の影から手の影が4~5本飛び出し拘束しようとする。

ノアは、ん?と一瞬見たが、拘束をまったく気にせず遊びを続けた。

ぐしゃ

力が入りすぎて、乗せていた足が頭を踏み砕く。

しまった、という顔をして、汚れた左足を、カブトムシにこしこしして汚れを取った。

一応汚れるのが嫌という気持ちはあるようだ。

飽きてしまったのか、持っていた翼の外殻は捨ててしまう。

近くにある泉に向かった。

足が汚れたのがやっぱり気になるのか、しきりに手でこすった。

手もなんか汚れてきもちわるい匂いが付いたので、洗いたいと思ったのだ。




 ノアがめざした泉は、東にある雪月山脈から湧くのか、コンコンと流出する自然の泉だ。

流れ出す川は南側にちいさい淵もいくつか作る。

そこまでの大きさではないが、岩に囲まれた小屋程度の大きさに水辺を作っていた。

澄んだ水は深い青になるほどの水位で、生き物の気配はない。

ぱっと岩場にぼろぼろのローブを脱ぐと、足から飛び込んだ。

じゃぼんと音を立てて、足をたたみ丸くなったノアが小石のように泉に落ちた。

 しばらく気泡だけがぷくぷくと浮いてきていたが、ざばっとノアも浮いてきた。

沈んでいる間に足と手は洗ったのか、満足してぷかりと浮いていた。

恐らく泳ぐという発想はないのか、ただただ浮いて目を閉じている。

少し前のノアには無かった、穏やかな表情であった。

まだ出会ってはいないが、どんな強いハンターが来ても負けない自信が、余裕となり穏やかな表情を作るのであろう。




 そうして、山脈の周りにある森で自由に行動するノアを監視する者がいる。

スヴァイレクだ。

大きな体なのに、不思議と目立たない。

感の鋭いノアに見つかることなく、何度も監視に来ていた。

「まるで幼子のように行動する」

 じっと観察するスヴァイレクは、影獣に指示を出しノアと接触させた。

最初はオオカミ型の弱い個体で、たいした戦力ではないので惜しまず与えてみた。

あまり頭の良くない影獣だったが、不思議と仲間とおもったかノアに攻撃したりはしなかった。

2度目は山脈を越えて町に着いてから。

大型の熊型影獣だった。

こちらは比較的指示に従う知能があり、ノアに接触させた。

最初の獣と同じく吸収されたのか微塵も残さず消えた。

 そこからが凄かった。

ノアの身体能力はずば抜けて高くなり、スヴァイレクをして見失いかけたほどであった。

それまで執着している様だったユアとアミュアを忘れたかのように、自由に森で過ごしている。

「スヴァイレク、あれが例の影か?」

はっと気づき跪くスヴァイレク。

「起こしでありましたかセルミア様」

闇魔法には影渡りと言う術があり、影から影へある程度の距離を渡れるのだ。

熟練の術者であれば視界の外までも移動する。

影にとどまり外を監視することもできた。

その闇魔法を使いこなすスヴァイレクにすら気配を読ませない、底知れないセルミアであった。

「これはこれは…」

そこで言葉が途切れたセルミアに不審そうに尋ねるスヴァイレク。

「何か問題ありましたでしょうか?」

クスリと笑い答えるセルミア。

「そうか、お前は知らなかったかラウマ様のお顔を。あれはラウマ様の分体よ、アミュアとよく似てるでしょ?」

腑に落ちないスヴァイレクにさらに説明する。

「アミュアはラウマ様がお分けになった体で、中身は赤子みたいなものね。そこの黒いのもおそらく一緒でしょう」

驚愕の表情を刻むスヴァイレク。

「ま‥まさか伝説にある、癒し手たる女神ラウマ様でございますか?」

それに対しては答えず、ただクスリと笑う顔には言葉ほどの敬意は感じられなかった。

「この子は使えそうね」

にまっと悪い顔になったセルミアが言う。

「あのアミュアはユアとかいう、滅びの手を持つ娘といつも一緒だからね」

じっとノアを見つめるセルミア。

「影獣を食うといったわね?スヴァイレク」

「はい、今の所2体を捕食したようで、そのたびに力を増やしています」

スヴァイレクの報告に考え込むセルミア。

スヴァイレクは黙して跪いたままだ。

 時間が流れ、ノアは泉からあがり岩の上で日向ぼっこを始めた。

ローブを着る前に、体を乾かしたいのであろう。

ぬくぬくと大の字で寝て目をつぶっている。

その見た目はユア達よりは幼いが、かつてのアミュアよりは大きい。

スリックデンで吸収した獣より大型を食らったからか。

「黒髪のラウマ様か…少し調べてみるか。スヴァイレク時間を置いてから、もう一度影獣を与えてみなさい」

 その声に答えようと顔を上げたスヴァイレクは、ただ静かな森の広がりだけを見たのだった。

現れたときと同じように、魔法発動の気配さえなくセルミアは消えていた。

その凄まじい手際に冷や汗が滲むスヴァイレクであった。


ノアが起きだしてローブを着こむまで、スヴァイレクは監視を忘れ佇んでいた。


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