【第10話:いつでもどこでも】
ここから第二部第二章です。
ユアが赤い馬車で進んでいく。
馬車の横には夜霧にまたがるアミュア。
今日は騎乗するため、ユアに借りたひざ丈の白いミニスカートだ。
合わせてブーツも夏用に、布の通気性が良いくるぶしまで隠す水色の靴になった。
上から薄手の白マントだけ付けて、中には水色のノースリーブだ。
ヒラヒラとマントが揺れ、ゆっくり進んでいる。
アミュアも夜霧も風が気持ちよくご機嫌である。
夜霧も時々目を細めて鼻をくんくんしている。
アミュアはスカートまで捲れないように上手に鞍を使っている。
「だいぶ慣れたね!アミュア」
赤いカーニャの馬車を操るのはユア。
ユアも暑くなってきたので鎧下が、薄手のノースリーブになった。
オヘソが出る短い丈だ。
下はいつもの白ミニにお気に入りの膝上まである赤茶色の皮ブーツ。
白い靴下がブーツの上まで出る長さだ。
別に夜霧は影の中でついてこれるのだが、ユアが可哀想だとごねたので外に出した。
ついでなので馬にも乗ったことがないアミュアの騎乗訓練を並行してしているのだ。
「とても風が気持ちいいです。いつもこれくらいが良いと思います」
かなり夜霧が遠慮してゆっくり歩いている。
歩幅がいつもの半分くらいだ。
トテトテ歩いてる感じである。
「いつもの夜霧も抑えて走ってるってにいさんが言ってた。」
ニンマリでアミュアを見るユア。
「本気のも見てみたいよね?やってみる?アミュア」
「いえ、けっこうです」
素早く否定するアミュアであった。
クスクスっとなるユアが足元の制御板を見る。
半分くらいしか踏み込んでいない。
「馬車はもう少し早くできるけど、アミュアも頑張って見る?」
手綱を握るアミュアがじっと前をみて考えて答える。
「少しなら平気かもです」
長い銀髪も風に流れ後ろに引いていた。
それが少しづつ角度を水平にしていく。
夜霧は人間の言葉が解りとても利口。
ユアとアミュア会話から、口に出さない要求まで対応する。
前髪も後ろに流れアミュアの笑顔が咲いた。
速度が上がったのだ。
「わぁ!風が強くなりました!すごいです夜霧」
楽しそうなアミュアに置いていかれないよう、ぐっと制御板を踏み込むユア。
ユアの肩までの明るい茶髪も流れ始める。
「いいよーどんどん行こう!夜霧!」
追いついたユアが夜霧に指示する。
さらに速度が上がり、アミュアの悲鳴が前に消えていった。
「ひゃああぁぁぁ‥‥」
ユアも全力で馬車を操るが、少しづつ離されていく。
大きな声でユアが呼ぶ。
「夜霧ぃ!もうちょいゆっくり!馬車にあわせて!」
聞き届けた夜霧が速度を落とし、馬車に並んだ。
結局、最初の速度からちょっと速いくらいに落ち着くのであった。
「すごかったです!風で口があわあわなりました」
アミュアの感想に、そこは小さい頃といっしょかーとユアは思いながら。
「まあ急がないしこれくらいでいいよね!」
とにっこりしたのだった。
何時でも何処でも楽しめる2人だった。
アミュアの銀ロッドが宙を薙いだ。
薙ぎながら5連射のアイスニードルが飛ぶ。
シュピピピッ
ロッドの動きに追従し、射出角度が変わる高度な魔法発動だ。
しかも高速のその氷の矢は、若干ながら自動追尾が付加され、命中率が高い。
無詠唱に無詠唱を重ねるダブルキャストだ。
不定変化軌道で回避する巨大な蜂が5匹。
ブオンと野太い音を立てアミュアに迫っていた。
そのうち4体までを撃ち落としたアミュアが、空中でレビテーションを発動し落下軌道を逸らす。
落下予測して、アミュアに迫った蜂の頭上に出るアミュア。
振り向こうと一瞬静止した蜂が、スパッと真っ二つになる。
ギリギリジャンプして、斬り付けたユアだ。
そのまま斜めに落下し受け身を取る。
クルンと回って立ったユアの上に、アミュアが落ちてくる。
ドスっと結構な衝撃だが、ユアの腕はびくともしない。
これで強化魔法なしである。
横抱きになったアミュアが礼を言う。
「ありがとですユア。緊急回避に使ったからすぐ切れちゃったレビテーション」
「平気、見てたからここいらだと予測してたよ」
アミュアは気に入ったのか昨日から履いてるミニスカートがめくれて、中身を露呈していた。
気付いたアミュアがさっと直す。
「あぶないです、魔法が発動しちゃいます」
先日の女の子魔法の定義が色々間違えてるアミュアだが、方向性は間違っていないと放置するユア。
「アミュアの魔法は強力だから気を付けてね!」
と、むしろ煽るユアであった。
ウンウンと真面目なアミュアは反省するのだった。
「でも、ミニスカートとても涼しくてよいです」
にっこりアミュアを抱いたまま走り、馬車まで戻るユア。
馬車の守りを夜霧に任せて、丘の下にいた蜂型モンスターを駆除した2人は、馬車の近くに転がった蜂を解体しに行くのだった。
高低差以上に高くにいたモンスターを迎撃するため、手を組んだユアに上に向かい放り投げてもらい、横向きに一瞬飛行魔法。
そこから冒頭のシーンである。
飛行魔法は魔力消費が激しすぎて、攻撃魔法と併用は今のアミュアには無理だったのだ。
それでも敵が落ちる方向までを、コントロールしたアミュアの技術は神がかっていた。
「一匹逃がしちゃいましたしね」
「あたしも活躍出来て良かったよ!」
解体しながらでも会話が途切れることは無かったのである。
今日は雪月山脈の麓までこれた2人、流石に暗くなってきたので野営となった。
季節はまだ移り変わりの最中。
標高も上げてきているので夜は冷えた。
焚き火の前で毛布を敷き、もう一枚毛布を出して2人で包まるのだった。
食後のココアを2人で飲みながら話している。
「あの町のお医者さんすごい優しかったよね。アミュア仲良くしてたね」
ユアが言うと、ねむねむしながらもアミュアがココアを置いて同意。
「うんとても(お話が)上手でした。ユアがいない間にいっぱい(お話し)したよ」
「えっ!?」
色々言葉が抜けたアミュアのセリフは誤解を受けやすかった。
「アミュアって‥‥あの先生が好きなの??やっぱり」
じっとアミュアを観察するユア。
「もちろん(先生の話し方が)好きです」
ちょっと眠くなっているアミュアは色々省略しがちであった。
「アミュアが先に大人に‥‥」
すやすやするアミュアの横で、翌日誤解が解けるまでショックを受けていたユアであった。




