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【閑話:スリックデンの影に】

 轟々と炎が上がっている。

可燃性の資材でもあるのか、赤赤と高くまで火は燃え上がる。

工場街の火災は、なかなか鎮火をみない。隣接する市街地は混乱の極みだろう。

 ここは工場街とは反対側の魔法街と言われる、現代魔法科学の先端を行く研究所が並ぶ地区。

古くからある古風な工房から、最新のビルを成す研究所まで様々より集まり、独特の空気と雰囲気を出している。

 夜の魔法街は本来怪しい人気なさで包まれるのだが、今夜は反対側の火事騒ぎで、パラパラと人通りがある。

その片隅にあるしっかりセキュリティが効いていそうな研究所がある。

民間出資のようだが、規模の割に壁が高く囲んで入り口は鉄格子がふさいでいる。

 その高い壁の上に人影がある。

全身真っ黒なナイトドレスで、チラチラとセクシーなカットが怪しい立ち姿。

ふわりとウエーブした金髪が風に揺れている。

セルミアであった。

あの山中ではユア達に明かさなかった、素顔のセルミアだ。

「きれいに燃えたわね。予定より勢いがある」

独り言か、小さくつぶやき、すっと壁の中に落ちる。

落下音はしなかった。

 闇魔法を使ったのか紫色の魔力が滲み、影に変異し高い位置にある換気用の小窓から中に入った。

暗い常夜灯だけが隅にある廊下にセルミアが現れる。

コツコツとセルミアがそこを歩いていく。

やがて突き当り、頑丈そうな金属の扉に行き着く。

鍵は開いているのかノブを回すと速やかに開いた。

廊下よりも暗い室内に廊下から光が差し込む。

 暗闇はセルミアを妨げないのか躊躇なく歩み入る。

「これが完成品…」

セルミアが見つめる先には透明なケースに収められた、手のひら程の弾丸が一つ安置されていた。

ものの大きさに対して、厳重な設置。

ガラスは分厚く、土台は何かの装置になっている。

何本ものケーブルやパイプが装置と部屋中をつないでいる。

 セルミアが右手をかざし魔力を込める。

白と青がプリズムのように輝く魔力。複合魔法だ。

しかも青は失われたはずの重力魔法。

白は収納や圧縮魔術に使われる、空間魔術だ。

この世界では知られることも無いはずの複合魔法。

古の影獣とはそれほどのものか。

 ガラスはちりになり失せ、弾丸が晒された。

おそらくこの研究所も特別なものだったのであろう、複合魔術まで使い封印していたのだ。

「久しぶりで少し制御が甘かったわ。手こずらせてくれるわね」

セルミアの右手人差し指の爪が割れ、血が筋になり落ちる。

左手に紫色の魔力を灯し右手に向けるとすぐに血は止まりセルミアの右手人差し指は黒く覆われた。

闇魔法には珍しい止血魔法である。

その右手で弾丸を取る。

 何事もなくつまみ上げられたそれは、魔導小銃か魔導拳銃で撃てる規格口径の弾丸だ。

見た目はケースが黒い金属で弾丸も黒いという以外に異常な点はない。

「もう少し早く完成して、ダウスレムに使おうと思っていたのに。因果なものね」

誰にともなくつぶやくセルミア。

弾丸をドレスの胸元に落とし込むセルミア。

深い谷間に消えていった。

振り返るとそこにはひざまずく男が一人。

頭をたれ、動かない。

鍛えられた体躯を黒の燕尾服に包む。

「スヴァイレク、首尾は?」

セルミアに応えるため顔をあげた姿は、一度夜月山脈でユア達と話した巨人影獣のスヴァイレクだった。

本体はユア達が見た影より少し小さいが、ひざまずいてなおセルミアと同じほどの高さに顔がある。

この部屋では立ち上がるのは困難であろう。

「所員の大半は兵器を作っている自覚もなく、有用な情報も持っていませんでした」

セルミアは無言。

「責任者と思われる者も捉えましたが、研究の目的は未達のようです。念のため連れ去りました」

セルミアが歩き出す。

「では帰りましょう」

コツコツと再びヒールを鳴らしドアへ向かうセルミア。

スヴァイレクはちゃんと最初から、邪魔にならない位置にひざまずいている。

顔は上げたままだ。

 ドアをくぐる主人にそっと追加の報告をする。

「そう言えば、工場街の端で気になる影に出会いました」

スヴァイレクの声に特別な響きはなかったが、セルミアが足を止めた。

沈黙が落ちる。

主人の思考を妨げないためか、話すことが尽きたのか、スヴァイレクは黙してただひざまずいている。

「気になる影…念のため少し監視を」

それだけ告げると、今度は止まることなく去っていった。

残されたスヴァイレクも影に滑り入り消える。

あとには沈黙だけが残る。


 2人の去った部屋の隅には、粉々になった遺体が数体残されていたのだった。

影に潜むように。

これにて第2部第1章完結となります。次から第2章です。よろしくお願いいたします。

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