靴、ください。あとこの街、何なんですか
履きつぶされた片方のスニーカーを見て、俺はしみじみと現実逃避をしていた。
ゴブリン退治に挑んだあの初陣。
靴がグッバイした。
「プロンプト。俺、今、左足だけ文明失ってるんだけど」
『右足だけが現代日本です。左足はもう縄文時代です』
「おい、うまいこと言うな」
仕方なく、ギルドに戻って事情を説明すると、受付の人が困ったように笑ってきた。
「……えっと、靴ですか?」
「はい。あの、なんというか……ガチで無いです。片足だけ泥まみれです。あと、魂もすり減ってます」
「あはは……初心者さんって感じですね。でも大丈夫です、育成都市アーリスはそういう人、めちゃくちゃ多いんで」
受付嬢の女性――たぶん10代後半くらい? は、慣れた様子でカウンターの下から何かを取り出した。
「はい、どうぞ。新人支援品の“なんかそれっぽい靴”です。通称:アーリスサンダル」
「なにそのふんわりしたネーミングセンス」
『ユウトさん、履き心地レビューが欲しいですね。“異世界初心者がまず履くサンダル”でバズるかもしれません』
「バズらなくていいからちゃんとした靴をくれ……!」
でも履いてみると意外とフィット感は悪くなかった。ゴムっぽい素材に、布と革のバランスが絶妙。若干の魔法耐性もあるらしい。なんか悔しい。
「さて、新しい靴も手に入ったところで……改めてご案内しますね」
受付嬢は、手元の紙を取り出しながら少し声のトーンを切り替えた。
「ここ、アーリスは“育成都市”って呼ばれてます。王国の南部、山と森に囲まれた立地で、魔物も適度にいて、冒険者の卵が育つにはちょうどいい場所なんです」
「なんか、異世界初心者キャンプみたいな……?」
『だいたい合ってます。スライム、コボルト、ゴブリン。やられても死なない程度の敵が、ほどよく出現』
「死にかけたけどな!! 俺、わりとフルコンボで喰らったけどな!!」
「初心者あるあるですね~。でも、だからこそ訓練施設や初級魔導書の店、回復ポーションの配布所なんかも充実してるんです。失敗しても、やり直せる。アーリスって、そういう街なんですよ」
優しく微笑む受付嬢の姿に、少しだけ安心した。
――この世界にも、ちゃんと“支えてくれる場所”があるんだ。
「……とりあえず、その“やり直し”ってやつ。次こそは成功させたいっす」
「ふふっ、応援してますよ。靴、脱げないように気をつけてくださいね」
「やめてそれ、地味に心に刺さるから!!」
『ユウトさん、靴は大事です。次は靴紐二重結び推奨です』
俺は、謎サンダルで地面を踏みしめながら、今度こそ一歩を踏み出した。
初めての失敗と、ささやかな準備。
冒険者としての再スタートは、足元から始まるんだ――たぶん。




