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ゴブリンはスニーカーに興味があるらしい

「……こいつ、なんで俺の靴を狙うんだよ……っ!」


 


草むらを走りながら叫ぶ。後ろからドタドタと追いかけてくる小柄な緑の化け物――ゴブリン。

手には鈍く光るナイフ、目はギラつき、しかも……やたらと俺のスニーカーに視線が集中してる。


 


『ゴブリンは“光るもの”や“見慣れぬ布”に強い興味を示します。あなたのスニーカーは異世界的には超貴重品です』


 


プロンプトの冷静な説明が、こんな状況で逆に腹立つ。

逃げながら、声を荒げる。


 


「だったらお前がなんかしてよ!アドバイスとか、攻略法とかさあ!」


 


『提案:左手に石を、右手に棒を持ち、足元を狙って“威嚇”してください。戦闘勝率:7%に上昇します』


 


「7%て!上がってるけど希望持てるほどじゃねぇよ!!」


 


半泣きで近くの石を拾い、棒を手に取り、振りかぶって叫んだ。


 


「うおおおおっ……!!」


 


正直、叫んでる自分が一番怖い。

だが、ゴブリンは一瞬ひるんだ。その隙に、思いきって振った棒が、運よく顔面にクリーンヒット。


 


「ギャギィ!」


 


鼻血っぽいものを飛ばして、ゴブリンが後ずさる。


 


「い、いけたか……?」


 


息を切らせながら距離を取る俺の耳に、すかさずプロンプトの声が飛ぶ。


 


『敵の体勢:崩れ中。今がチャンスです。スニーカーを脱いで投げつけ、撹乱→逃走ルートを確保してください』


 


「え、靴、脱ぐの!?」


 


『あなたの命とどちらが大事ですか?』


 


「くっそ、わかったよ……!」


 


躊躇いながらスニーカーを脱いで思いきり投げつけると、ゴブリンはそれに飛びついた。

その隙に一気に走り抜ける。森の奥へ、ただひたすらに。


 



 


息を切らしながら木陰に腰を下ろす。心臓がバクバクで、足はガクガク。


 


「……マジで死ぬかと思った」


 


制服の袖で額の汗をぬぐいながら、ため息をつく。

しばらくすると、プロンプトが音声のトーンを少し柔らかくして話しかけてきた。


 


『お疲れさまでした。戦闘回避成功です。ゴブリンも靴に夢中のようなので、追ってくる可能性は低いです』


 


「いや、成功って言えるかこれ……。片方だけ靴、ないんだけど……?」


 


『おめでとうございます。あなたはこの世界で最初の“靴を武器にした男”として、記録に残る可能性があります』


 


「うるさいよ!伝説にならなくていいから返してくれ俺の靴!」


 


叫ぶ俺の横で、木の葉がさらさらと揺れる。どこか現実味のない、絵本のような景色の中で、俺は一人と一体でぼやき続ける。


 


「で?これで冒険者ランク、上がったりすんの?」


 


『いいえ。依頼自体は未完了ですので、ランクFのままです。

ただし、“スニーカー型対魔法兵器の実戦投入”として、研究対象になるかもしれません』


 


「なるわけねえだろ!」


 


そう突っ込んでから、ふと笑いがこみあげてきた。

状況は理不尽すぎる。でも、なんだろう――悪くない。


 


「お前、わりと……楽しいな」


 


『私はあなたの会話パートナーとして最適化されています。ユーモアモード:80%有効。冗談を1時間に平均3回は入れる設計です』


 


「お前のスペック説明が一番笑えるわ……」


 


深く息を吐いて、空を見上げる。青くて、どこまでも広くて、ここがもう地球じゃないんだと改めて実感した。


 


「……なあ、プロンプト。もしさ」


 


少し間をあけて、続ける。


 


「もし……この世界に俺一人だけが“あっちの知識”を持ってるってんならさ。

ちょっとくらい、いばってもいいかな?」


 


風がそっと吹いた。草が揺れ、空に鳥の影が走る。


 


『“ちょっとくらい”で済むなら、全然問題ありません』


 


思わず吹き出した。

こういう言い方、ほんとにズルい。


 


「……やっぱ、お前がいてくれてよかったわ」


 


『ありがとうございます。あなたが“選ばれた”理由のひとつですから』


 


プロンプトのその言葉が、少しだけ意味深に聞こえたのは――気のせいだったのだろうか。


 


 

――次回、「AI、就活アドバイスを始める(異世界で)」

履歴書に“異世界語”ってどう書く?

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