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見返してやろう

「うぅ・・・」


 スラム街、飢えに苦しむ男がいた


 男は事業に失敗し商人を辞めざるを得なかった


 職を失い家を奪われスラムに流れ着いた


 このままここで死んでいくしかない


 そう諦めかけていた時だった


 旅人のような一行がスラム街に尋ねてきた


 見物人かと嫌悪感を抱いていると少女が周りをチラチラと見た後に超特大の回復魔法を唱えた


 それはスラム街全てを包み込む程巨大で強力だった


 怪我や病気で苦しんでいた連中はたちまち良くなった


 ありえない


 なんだこれは?


 なんのためにこんなことを?


 疑心暗鬼になってしまった男は少女を警戒した


 それはそうだ


 なんのメリットがある?


 こんな場所であんな強力な魔法を使ってまで回復させた


 何か理由があるはずと考えるのが当然だろう


 特にこの国は弱肉強食だ


 この後何を要求されるかわからない


 だから怖かった


 自分より年下であろう小さな少女が怖くてたまらなかった


 でも逃げられない


 身体は回復しても体力がない


 最後に少しだけ少しだけでいい


 パン一切れでもいいから食べたかった


 そう思った瞬間


 目の前に気配がした


「おっちゃん、これ飲んでまず立ち上がるんや 飯もある 心配すんな」


 優しく微笑む少女


 何やら珍しい飲み物と美味そうな飯を差し出している


 周りの連中は泣きながら食べている


 少女の仲間らしき大男と銀髪の少女も協力して食料を配っている


 恐る恐る差し出された飲み物を飲むと甘くて美味しかった


 立ち上がるだけの力が湧いてくる


 あとは無我夢中で食べた


 疑うことなど馬鹿らしくなった


 涙が止まらない


 涙が止まらのに笑いも込み上げてくる


 めちゃくちゃな感情だ


 でも心がポッと温かくなった


「お前らええ顔になったやないか!」


 ちがやが煽ると、スラムの住民たちはニヤリと笑った。


 今の彼らには、見返してやりたいという強い思いがあった。


 状況はまだ厳しい。しかし、目の前で悪そうに笑う少女を見ていると、不思議と反骨心が湧いてくる。


 弱肉強食の世界らしく、足掻いてやりたくなった。


「山賊の族長みたいね」


「誰が山賊やねん!?」


 あははと笑いが起きる。


 思いの外ノリがいい嬢ちゃんのようだ。


「でもまぁ気楽にやろうや! 馬鹿みたいに笑うんや! 笑顔は力になる! 辛い時こそ笑え!」


 誰もがガハハッと笑い出す。


 最初は冗談半分だった者たちも、次第に楽しくなってきた。


 気づいたら心の底から笑えるようになっていた。


 些細なことでも笑いが生まれ、笑顔が絶えなくなった。


 それが何故か嬉しい。


 ちがやの助けもあり、スラムは瞬く間に綺麗になった。


 清潔になると、今度は汚したくなくなった。


 ちがや達はその後もスラムのために尽くしてくれた。


 いつしか異国から、同じように助けてもらった屈強な男達が建設の手伝いに来てくれた。


 彼らからちがやの凄さを知った。


 そして胸が熱くなった。


 水源を毒にされ、物流を止められ、飢饉だったにも関わらず、一からちがや達と建て直したという。


 水は彼女の力で戻したらしいが、それ以上に勇気が湧いた。


 希望を見た気がした。


 そこからスラムは次々と開発が進み、立派な街の一角となった。


 店もでき、活発になり、宗教国家から来たという医者が病院を建ててくれた。


 ちがやが国を超えて協力者を惹きつけているようだ。


 誰も彼もがちがやに恩があるという。


 自衛のためにジェイソンの旦那に戦闘の技術を学んだ。


 女子供はルナの嬢ちゃんに魔法を教わっている。


 ただの子犬だと思っていたポチですら働いている。


 そして何より驚いたのが、ちがやと仲がいい小さな女の子が聖女だったということだ。


 ちがやの発案で、大人用の職業訓練施設ができた。


 商人以外の働き方を学ぶことができる。


 子供の学校と孤児院は相変わらず活気に溢れている。


 子供たちも笑顔だ。


 気付くとスラムはスラムでなくなっていた。


 今や立派な街の一部だ。


 スラムを売ったという大商人がやってきたが、「俺らの大将はちがやだ」と言って追い返してやった。


 スッキリした。


 楽しくなって「ちがや区」と名付けようとしたが、全力で止められた。


 顔を真っ赤にするちがやが可愛かった。


 仕方ないので、ちがやがよく話していた「大阪」という名前にした。


 不思議としっくりくる。


 ちがやも何だか嬉しそうだった。


 この街は誰にも侵されない逞しい場所になった。

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