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トレードフロント

ちがや達は宿屋で一夜を明かし、リリスのことで話し合っていた。


「リリス、ほんまに痛くない? 成長期だし、筋肉痛になるのは普通のことなんやで?」


 昨日はかなり歩いたはずなのに、リリスは翌朝になってもケロッとしている。ルナが筋肉痛で苦しんでいたのを見ていたちがやは、不思議に思いながら問いかける。


「教会にいた時もよく走り回ってたからですかね? 特に疲れてませんし、痛くもありませんよ?」


 リリスは自身の体調を確かめるように腕を回しながら、元気そうに笑った。


「ウチと同じやな!? やっぱり姉妹やから行動も似とるな!」


 ちがやはリリスの反応に驚きつつも、どこか嬉しそうだった。


「貧弱なのは私だけってこと!? 仲間だと思ってたのに!?」


 ルナはショックを受けたように肩を落とし、思わずふてくされた表情を見せる。


「ルナお姉ちゃんは痛いのですか? 良かったら回復魔法を……」


 リリスは心配そうにルナを見つめながら、そっと手を差し出した。


「ありがとう、リリス……でも大丈夫! 私だって少しずつ成長してるんだから!」


 ルナは笑顔を作りながら、強がるように背筋を伸ばした。


「まぁ、大丈夫ならええんやけど。旅は過酷やから、体調に変化があったら些細なことでも知らせるんやで?」


 ちがやは優しく釘を刺しながら、リリスの頭を軽く撫でる。


「はい!」


 リリスは元気よく返事をすると、軽く腕を回してストレッチを始めた。その様子を見て、ちがやは改めて彼女の体力に感心する。


「ほんま、不思議なくらい元気やなぁ……」


 ちがやは呆れながらも、どこか羨ましそうにリリスを見つめた。


「はい! 旅が楽しくて、ワクワクしてるからかもしれません!」


 リリスは嬉しそうに笑いながら、軽く足踏みをして体をほぐした。


「ええことや。でも無理はしたらあかんで?」


 ちがやは念を押すように言い、リリスの肩をぽんと叩いた。


「わかりました!」


 ルナは少し拗ねたように腕を組みながらため息をついた。


「私もその元気、分けてほしい……」


 彼女は羨ましそうにリリスを見つめながら、肩を落とす。


「ルナお姉ちゃんも、無理せず一緒に頑張りましょう!」


 リリスは優しく微笑みながら、ルナの手を握る。


「うん、ありがとう……リリスの明るさには、いつも助けられるよ」


 ルナは少し照れくさそうに微笑み、リリスの手を軽く握り返した。


 ちがやはそんな二人を見ながら、今日の行動を考え始めた。市場の散策をするつもりだが、まずは朝食を取って準備を整えなければならない。


朝の市場は多くの人々で賑わい、活気に満ちていた。雑踏の中、リリスは少し怯えたように声を漏らした。


「うぅ……人が多いですね」


 彼女の小さな体は人混みに揉まれ、押し流されそうになっている。


「ジェイソン! リリスが潰れてまう! 肩車してあげて!」


「うむ」


 ジェイソンは無言でリリスをひょいと肩に乗せた。


「ひゃあ!? ジェイソンお父さん!?」


 リリスは驚きながらも、すぐに安定した体勢を取り、周囲を見渡した。


「ふぅ……これで安心や……」


 ちがやは安堵の表情を浮かべ、リリスが安全になったことを確認する。


「ちがやもはぐれちゃうから手を繋ごうね」


「しゃーないなー……」


 ルナが手を差し出し、ちがやは照れくさそうに手を握った。


「ポチも大丈夫? 頭の上、不安定じゃないの?」


「わん!」


「魔法かなんか知らんけど、ピッタリくっついてるから平気やぞ。ウチもなんか慣れてきたわ」


 ちがやはポチの様子を確認しながら、彼が不思議と落ちないことに改めて驚いた。


「ふふ、ポチとお揃いです」


「ワン!」


 そんな和やかなやり取りの最中、不意にちがやは誰かとぶつかった。


「おっと……すまんすまん、ぶつかってもうた……って、あれ? まさか!? スリ!?」


 ぶつかった相手の手元を見ると、ちがやのバッグがわずかに開いていた。


「ポチ! 匂い追える?」


「ワン!」


「ジェイソン!」


「分かった!」


 ジェイソンは一瞬で状況を理解し、ちがやとルナを両肩に、さらにリリスを頭に乗せたまま走り出した。


 ポチもスリ犯を追いかけ、異様な光景に周囲の人々は驚きながら道を開けた。


 まるで重戦車のように駆け抜けるジェイソン。行き着いたのは裏路地の行き止まりだった。


「観念せい! それ、盗んでも意味ないで!」


「そんなはずは……!? なんだこれ!?」


「ガルルッ」


「わぁ!?」


 スリ犯はポチの威嚇に驚き、尻餅をついた。


「うちら以外取り出せんマジックバッグやからな。とっても意味ないんや」


「くっ!」


 改めて相手をよく見ると、まだ幼い少年だった。その身なりからして孤児なのかもしれない。


「よー見たらまだ子供か……その身なりからして孤児なんか?」


「ふん! この国で孤児なんかいくらでもいる! あんたら旅人か?」


「旅人や。孤児院はないんか?」


「あるけど、あそこには行きたくない」


「ふむ……」


 ちがやは少し考え込みながら、ルナとジェイソンに視線を送る。


「どうするの?」


「警備隊に突き出して法の元裁くのが筋やろけど……」


「……」


「なんとかしてあげられないんですか? お姉ちゃん」


「同情してるのか? 言っておくが、そんなもの俺は望んではいない。突き出すなら突き出せばいいだろ」


「そんな……」


「リリスも小僧も勘違いしとるな。こういうのは子供だけが問題やないねん。環境の問題や」


「環境?」


「ええか? お前はなんで盗みを働く? 生きるために金を手に入れるためやろ?」


「あぁ……そうでもしないと野垂れ死ぬ……だから」


「小僧、何歳や?」


「9歳だけど」


「9歳の子供が貧困に喘いで盗みをしないと生きられへん国のせいっちゅーことや。大方、貧困差が激しいんやろ? 商業国家やもんな。成功するやつもいれば、失敗するやつもおる。でも失敗した大人はええとして、子供は? 親の責任被らなあかんのか? それは絶対に違う……!」


 ちがやは拳を握りしめ、真剣な表情で語った。


「だけど! 盗みを肯定するわけちゃうからな? 勘違いすんなよ?」


「わ、わかってるよ……盗んでごめんなさい」


「よく言った! ええ子や!」


「っ……」


 とはいえ、これは国単位の問題だ。一朝一夕でどうにかなる話ではない。


「なぁ、この国の孤児院ってどんなところ?」


「金持ちの道楽と見せかけて、子供達を売る奴隷商の腐れ外道がやってる場所だ。出される飯も今と変わらないし、ベッドもない。俺はそんなところから逃げ出してきたんだ」


「奴隷か……教会関係でもないっちゅーことやんな?」


「むしろあいつらは冒涜的だよ。金を神様と崇めているようなもんだ」


「ふむ……そうかそうか」


「お姉ちゃん? 考えでもあるのですか?」


「まぁ、できるかどうかはやってみんとわからんけどな」


「宗教国家から教会員を派遣してもらって孤児院を開くの?」


「さすがルナ、その通りや。ウチの莫大な資産も使ってな」


「とりあえず避難させなあかんな。坊主、名前は?」


「ハルトだ!」


「ハルト、お前みたいな子供達を集めてくれ。ウチが安全な場所を用意する!」


 ハルトは少し驚いたようにちがやを見つめたが、やがて小さくうなずいた。


「わかった……信用していいんだな?」


「もちろんや!」


 こうして、ちがや達の新たな行動が始まるのだった。


 

 

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