胡蝶、思い出す
邪神騒動を終え、ちがや達はのんびりとした日常に戻っていた
結果的には、派閥争い以外は解決できたしこれでようやく宗教国家を観光出来るとほっとしていた
いたのだが・・・
「お姉ちゃん、お父様に会いましょう!!」
忘れていた
リリスが怒っていたことを
そしてリリスは決して忘れないことを
正直もう忘れたかなと思い始めていた
自分ならもう忘れているという安直な考えで
だが、聖女はそんなにちょろくない
苦虫を噛み潰したよう顔でリリスに問い掛ける
「やっぱり行かないとダメなん?リリス」
「問題も片付きましたしあとはお姉ちゃんだけです!しっかりお話しましょう!」
ずずいと迫るリリスの勢いに圧倒される
この子、最初に出会った時よりかなり押しが強くなった気がする
「なんで枢機卿がおんねん!?」
「聖女様に迎えを頼まれてね ははっ」
「ぐぬぬ・・・」
うちの妹、根回しもできるんか
先手を打たれるとは正直思ってなかったわ
「教皇もソワソワしてたしやっぱり親子だね・・・」
「なっ!?」
「ほらほら!早く行きますよ!」
「あぁ!?リリス!?」
教皇の部屋
「えっと・・・」
「リリス!!?行かないで!?2人にしないで!?」
バタン
「うぅ・・・」
リリスに連れられて教皇の部屋にきたかと思えば、あとはお二人でしっかり話してくださいと退室してしまった
娘と向き合うと決めた教皇と向き合わないと分かってるけど気まずいちがやだけが取り残される
お互い様子を疑っていてモジモジとしていると
「ちがや」
「あ」
教皇が『ミラ』ではなく『ちがや』と呼び捨てで呼んでくれた
「でいいのだろうか?同化・・・したのだろう?話は聞いた」
事情は聞いていた
だからどっちが正しいのか不安になって念の為ちがやに尋ねる
「あぁ・・・ミラとうちの魂の名前って決めたからな・・・それはええんやけど」モジモジ
やっぱり気恥しい
親だと知らなかった時は普通に話せたのに
これからどうしようとちがやが迷っていると教皇が勇気を出しポツポツと語り始める
「私は・・・ただお前を守りたかった・・・」
「え?」
「神の器とは・・・それだけでこの国で狙われる・・・だから隠した・・・お前を守りたくて」
そうなのではないかとは思っていた
思っていたが教皇本人から語られることは愛されていたということのように思えて嬉しかった
「お前の母にも情報を貰っていたんだ。別に不仲なのではない。宗教国家の暗部を使って監視もしていた。」
「だから微妙な顔しとったんか・・・」
記憶の中のミラは悲しそうと言っていた
だが、客観的に見ていたちがやには微妙な顔に見えた
「そうなのか?」
「教皇の世間話したら顔に出てたからな。お母さんは生きとるんか?」
ミラの母
記憶の中ではとても優しい人だった
だから気になって聞いてみることにした
「あぁ、今日はこれなかったがこの国で生活している。お前のことも心配していた。」
「そっか・・・生きとって良かった・・・」
母親の安否を確認してほっと胸を撫で下ろす
「ちがや・・・私のこと恨んでるか?いや、恨んでもいい。私の不徳がお前を苦しめた。それはわかっている。だから」
それは教皇の本音
娘を隠し平民として育てた
親として愛情を与えられなかった
監視していたのに誘拐された
恨んでいても不思議ではない
今まではそれが怖くて向き合えなかった
だから覚悟を決めてきいてみた
「大丈夫や。恨んでへん。ほんまやぞ?裏切られたとは思ってた。でも恨んでは無い。だから泣くなやお父さん・・・」
「っ!」
涙が止まらない
こんな駄目な父親を許してくれるのか
酷い目に合わせたのにお父さんと呼んでくれた
それが嬉しくてとめどなく涙が溢れてくる
「うちも目を背けてしまってごめん・・・愛してくれてたこと知って嬉しかった・・・だから泣くなや・・・うちはこう見えて涙脆いねん・・・っ」
ちがやも勇気を出した教皇を見習って本音をぶちまける
自分は同化している
でも心のどこかで怖かったのかもしれない
今の自分を果たして受け入れてくれるのだろうか?
教皇は拒絶しないか?
日本の自分の父親のような目をしないか?
それを考えるとどうしても向き合えなかった
だから、向き合った今、真っ向から愛を伝えられて嬉しかった
「あぁ・・・あぁ・・・愛してるとも・・・同化しても変わらない・・・お前は私の子だ・・・」
「っ・・・」
ポロポロと大粒の涙が溢れ出す
拭っても拭ってもとめどなく出てくる
自分もミラもまとめて愛してくれる
それがどうしようもなく特別に感じた
そんな時だった。
ドタバタと走る音がした後に勢いよく扉が開かれる
「あなた・・・」
「っ!?今日はこれないんじゃなかったのか!?」
そこにはちがやと同じ黒髪の妙齢の女性が立っていた
どうやらかなり慌てているようだ
教皇の反応からしてまさかと思った
「職場の人が気を利かせてくれて・・・」
「お母さん・・・?」
ミラの母親
記憶の中の優しい人
温もりをくれた人
そんな人が目の前にいる
「そうよ・・・おかえりなさい」
「お母さん!!」
ちがやは勢いよく母親に抱きついた
この人も事情は聞いてるはずなのに気にした様子も見せず受け止めてくれた
日本では叶えられなかったものがここにある
自分には親がいっぱいいる
それが嬉しくて胸がいっぱいになった
「な!?」
「大きくなったわね・・・ってあなた!?私じゃなくてこの子を見てください!」
「私には抱きついてこなかったのに!」
ちょっぴりジェラシーな教皇も悪くない
「はぁ・・・そんなことで恨めしそうに見ないでください」
呆れたようにそうは言うが教皇と平民でありながら仲はいいままのようだ。
「はは・・・ほんまに仲良さそうで安心した!」
「疑ってたのか!?」
「いやぁ、一緒にいるとこみたことなかったし・・・」
ミラの記憶にもなかったこと
だから少し不安だった
特に身分が違うので今はどうなのかが気になっていた
「うぐっ」
教皇もこれにはごもっともとぐうの音も出ない
「あとうちより妹にも気持ち伝えるんやで?お父さん、不器用すぎやねん」
そんな満たされた空気の中、ちがやはちょっとした仕返しを考えた
「考えておく・・・」
「にひひ」
その日の夜
聖女リリスはちがやの策略によってすんごい甘やかされていた
それはもう激しく愛を伝えられていた
「お父様!?わかってます!わかってますから!?そんなにスリスリしないでください!愛情ならしっかり感じてますから!?」
嫌ではない
嫌ではないのだがここまで過剰なのは慣れてない
というか恥ずかしい
「愛は言わなければ伝わらないとちがやが言っていたのだ!お前には寂しい想いをさせてるとも!」
「もー!お姉ちゃーん!!」
止まらない教皇
リリスは察した
お姉ちゃんの策略だと
そして叫ぶ
この場に居ないイタズラ好きな姉に向かって
『にひひ』




