聖杯 芽生える
「お前の名前はスピカ」
なんだろう?
ボクはなぜここにいるの?
目の前の少女は?
それにボクの名前?
聖杯には今まで意思などなかった。
それは人間の道具。
物言わぬ道具に心はいらない。
だから初めて意識が芽生えた時、困惑した。
覚えてはいないけど、もっと暗い場所にいた気がする。
でも目の前の少女はどこか温かい。
それに綺麗な羽。
これはなんだろう?
見ているだけで安心する。
それに優しい手。
そうだ、この人についていこう。
よくはわからないけど、この人なら大丈夫な気がする。
そう思っていたら、体が彼女に巻き付き、変化していく。
おおおぉ!なんだこれ!?ボクの体、変わっちゃった!
でもこれなら、彼女の優しい手にくっついていられる。
ボクのお気に入り決定!
そしてボクの名前はスピカ!
何だかポカポカする。
それからというもの、彼女の腕に巻きついたまま月日が流れた。
彼女は僕によく話しかけてくれる。
ボクは話せないけど、それがなぜかポカポカした。
彼女はちがやと言うらしい。
仲間?というのも紹介してくれた。
色んな人がいるんだな。
でも皆、笑顔だ。
ちがやによく似てる。
少女は私の体をよく拭いてくれる。
優しく丁寧にしっかりと。
たまに触れてくれるのも、なんかポカポカする。
このポカポカはなんなのだろう?
彼女はたまに手をかかげる。
僕によく見えるようにしたいらしい。
周りがよく見える。
彼女の視線はちょっと低いから、新鮮だ。
ちがやは寝相が悪い。
別に痛くはないけど、思いっきり手をぶつけたとき、咄嗟に起きてスリスリしてくれる。
あやまっている?
ちがやは僕の名前をよく呼んでくれる。
仲間の皆もそうだ。
名前はボクの大切なもの。
それは呼んでくれるのが、なんかポカポカする。
ちがやが気持ちのことを教えてくれた。
ボクのポカポカは嬉しいって気持ちだったんだ。
他にも色んなことを教えてくれた。
楽しいこと、嬉しいこと、怖いこと、悲しいこと。
一つ一つ丁寧に教えてくれた。
そしてボクはわかった。
皆が好きってこと。
その中でもちがやは特別ってこと。
ちがやが色々教えてくれたおかげで、周りの人達のこともわかるようになった。
この人は嬉しそう。
この人は怖い。
この人は楽しい。
色んな人がいる。
あれ?ちょっとだけ動ける!
シャリンシャリンと音がなるけど、これでちがやに何か伝えられる。
驚いてるちがやにシャリンと動いてみる。
ちがや達が喜んでいる。
なんだかボクも嬉しい。
ちがやが何か困っている。
怖そうな人だ。
嫌な顔をしている。
この人は嫌いだ。
ちがやに近づくな。
と思っていたら、怖い人が弾かれた。
どうやらボクがやったらしい。
すごく褒められた。
どうやらあれは守りたいという気持ちらしい。
ちがやを守れて嬉しかった。
今日も皆、笑顔だ。
最近気付いた。
ちがやから何かボクに流れている。
それもずっとだ。
ちがや達がよく食事をするけど、多分そんな感じ。
ちがやは大丈夫だろうかと思って軽く力を使ったり動いたりして、なんとか聞いてみた。
すると、それはちがやの力の源で、無限に湧き出るから大丈夫らしい。
仲間が教えてくれたけど、かなり凄いことらしい。
ボクは凄い人に拾われたようだ。
ボクは闇の聖杯という帝国が作ったものらしい。
ちがやが拾ったことでこうなったらしい。
それがなんだか嬉しかった。
暗くない、寂しくない。
皆の笑顔が好きだ。
だからこれから皆を守ろう。
それがボクの初めての意思だから。




