神の依頼
ちがやとリリスが祈りを捧げ、目を閉じると、真っ白な世界に飛ばされた。 目の前には、神々しく光る美女。 金髪をなびかせながら、ちがやとリリスを見つめ、優しく微笑んでいる。
その姿にうっとりしていた二人だったが、ふと我に返った。
「はわわわわ」
リリスは何やら慌てている。 それはもう、あわあわと焦りまくっている。 そして、先ほどの自分たちの行動を思い返し、「まさか」と美女に向き直る。
「か、神様!!?」
「お姉ちゃん、どうしましょう!? 神様の声だけなら聞いたことはありますけど、御本人にお会いするのは初めてです!」
姉妹揃ってあたふたしていると、神は優しく微笑み、二人に話しかけた。
「聖女リリス、あなたにはいつも世話になっています。私は癒やしの女神、リファです。 小夢茅、世界を渡った胡蝶。あなたには一度、会ってみたかったのです」
「うちのこと知ってんのか!? ……じゃなかった! 知っているのでございますか?? それに胡蝶って……」
さすがに神に無礼な言葉遣いはまずいと思い、急いで言い直す。 だが、神は気にしないでいいと言わんばかりに、優しく微笑んだ。
「ふふ、いつも通りで構いませんよ。あなたも、薄々気づいていたでしょう? 自分は胡蝶ではないかと」
「それはそうやけど……」
……というか、胡蝶ってそもそもどんな存在か、いまいちわかってへんねんけど。
そんなことを思いつつ、神の言葉に耳を傾ける。
「胡蝶は、私たち神々にとってもイレギュラーな存在。不運な数奇な運命を辿り、それでも挫けない精神力を持ち、最期には非業の死を遂げる……。 それでも諦めなかった魂が、極めて稀に胡蝶となり、世界を渡るのです」
「ベリーハードモードクリアした特典みたいなもんか~」
「お姉ちゃん、それで納得しちゃっていいのですか!?」
呑気なちがやに、リリスは真面目な顔で問いかける。
「まぁ、ええんちゃう?? 元の世界にはこんなにも可愛い妹、おらんかったし!」ギューッ
「あう……お姉ちゃんがそう言うなら……」
姉を心配しての発言だったが、本人がいいと言うなら何も言えない。
「その胡蝶ですら、世界を渡ったあとに形を保てず、静かに消えていくことがほとんどです……。 ですが、あなたの場合はさらに奇跡が重なりましたからね」
「うち、想像以上にヤバかったってこと!? ガチャでUR当てた気分やな……いや、宝くじ1等とかのほうが確率低いんやろか?」
ちがやはそんなことを考えていたが、実はそんなレベルの話ではない。 その確率は、宝くじ1等を100回連続で当てるようなものだった。 限りなく不可能に近い奇跡を、ちがやは成し遂げていたのだ。
「それより神様、お姉ちゃんの種族って何になるんですか? 胡蝶は固有名ですよね?」
ちがやも少し気になっていた。 何せ冒険者ギルドでのステータスはあのザマだ。 自分が何者なのか知りたいと思うのは当然だろう。
「そうね……新米神といったところかしら? 肉体を持つから、亜神ね」
「えぇ!? うち、人間ですらなかったん!? でも四聖獣たちは人間って言ってたで!」
「あの頃はまだ……ということです。 先日、ミラの記憶を見たでしょう? あれで完全に神になったのよ」
「まじか……」
そう、あの時、ようやく完全なる神となったのだ。 神としての名前はまだないが、生まれたばかりの神と思ってもらえればいい。
「お姉ちゃん……ごめんなさい……」
「あ、いや、気にせんでええで! ミラのことを知るのは、どっちにしろ必要やったし!」
「聖女リリス、ちがやさんは神になるべくしてなった存在。 心配せずとも、今までの生活は変わりませんよ」
神は、ちがやが神になったからといって連れていくつもりはなかった。 むしろ、肉体を持つ亜神として地上で人々を導いてほしいと考えていた。
「だとしたら、ここに呼び出した理由は……?」
「ちがやさん、聖女リリス。あなたたちに頼みがあります。 邪神の顕現を阻止してください」
「やっぱそれか……でも器がないと神降ろしはできんのやろ? ミラという器はうちが使っとるし、神降ろしは不可能とちゃうん?」
「本来なら、その通りです……。 ですが、帝国は実験の末、器を人工的に作ってしまいました」
「作ったというのは……人間を一人、生み出したということですか!?」
それは禁忌であり、聖女であるリリスには到底受け入れられない。 そのため、怒りが表に出てしまっていた。
「いいえ、器はあくまで道具。命は宿っていません。 ミラに比べたら粗末なものですが、受け皿としてはほぼ完成しています」
「あぁ、なるほど。神を顕現させた後は本人にどうにかしてもらおうって魂胆か。 邪神なら、それぐらいできそうやもんな」
「とはいえ、肉体を持たない邪神は不安定になります。 暴走すれば、世界がどうなるかわかりません」
「うわ……それ、降ろされて成功しても、人間が滅ばされるパターンちゃう? 邪神というより、人間側が悪いやん」
「あ、だから顕現の阻止なのですね。神降ろしが成功したら終わりだから……」
「ええ。そのための協力は惜しみません。 これは、世界全体の問題なのですから」
その言葉を聞いて、ちがやはある可能性に気づいた。
「なぁ、神様……これって、うちらが一緒に祈りを捧げてへんかったら、ここにも来れんかったよな? その時は……」
「邪神が顕現し、世界は滅んでいた……」
――もしも、リリスと出会っていなかったら? この希望すら掴めず、何も知らないまま、邪神と戦い、そして敗れていたのではないか。
「その可能性はあります。だから、自信を持ってください。小夢茅」
「え?」
「あなたの歩んできた全てが、この数少ない希望を掴んだのですよ」
「分岐するもしもの世界から、この道を勝ち取ったってことなんやな……ふふ」
だから――
「やったるで! 禁忌を犯すバカ共は、ぶっ飛ばしたらなあかんからな!!」
だからこの小さな奇跡の火を消さないためにも戦おう。
奇跡みたいな可能性のハッピーエンドを勝ち取るために




