国王にとっての国宝
生誕祭の日、我こそ国王クリスヴァンレイモンドは疲れていた
貴族との付き合いで生誕を祝われるのはまだいい、国民との謁見もいい
だが、祝いの言葉のあとにぐちぐちと嫌味を言ってくる貴族だけはいまだに苦手だ
無論、それは国王である私の力のなさなのはわかっている
だが、それ我が解決しないといけないことか?ということまで言ってくるのは嫌がらせとしか思えん。
全ての民を納められるとは思ってはいないがこれには堪える
誰もが最近娘が連れてきたちがや嬢のように賢く聡明だったらいいと寝静まった夜にようやく部屋に帰ると一通の可愛らしい手紙が置いてあった。
この字は見覚えがあるなと思いつつ中を見ると仕事が終わったら温室にきてほしいとだけ書いてあった
国王である我の部屋に入って手紙をおける人物は少ない
我を狙う暗殺者の手紙かと一瞬考えたが温室ということに引っかかる
暗殺なら今この状況を狙えばいい
誰もいないしひっそり殺すには今しかない
手紙を置けるならこの部屋に入り込むことなら容易だろう
そう考えた我は素直に温室に足を運んだ
寝静まった城内でなぜか明かりがついている
温室には美しい花々が植えられておりとても癒やされる
空気も澄んでいて落ち着く場所だ
そんな場所で見覚えのある顔がキレイに椅子に座って待っていた
「お父様!誕生日おめでとうございますわ!!」
元気に手をあげ祝ってくれるその少女は我の娘アリアだった
こんな不意打ち考えてもみなかった
アリアはどうぞどうぞと我に席に座らせ慣れた手つきでお茶を淹れてくれる
この匂い我の好きな紅茶だ
昔 アリアが淹れてくれたことをよく覚えている
そんなことを考えているとアリアがお茶と一緒にクッキーを渡してくれた
驚いて聞いてみるとなんとアリアが作ったらしい
紅茶もクッキーもアリアが作ったもの
貴族が渡してくるような高価なものではない
だが、それがよかった
些細な贈り物 でも確かに我を気遣って考えてくている
それが嬉しくてなんと素晴らしい誕生日なのだと涙が溢れた
その後も短いながらゆっくりとした娘との時間を楽しんだ
普段聞けない娘の普段のこと 新しくできた友達のこと
このお茶会へ辿り着くまでの経緯
それを聞いて思わず笑みがこぼれる
あのちがやという少女は娘にもいい影響を及ぼしてくれた
あの年で救世主と言われるだけはあるなと密かに感じた
そして何より娘に真正面から向き合ってくれたことが嬉しく感じた
我は思う、やはりどんな高価なものより、珍しい物より
我にとっての国宝はアリアだけなのだと
その日は我にとって大切な思い出になった
娘との優しい一時
我は一生このことを忘れることがないだろう




