胡蝶の母は守りたい
ちがやの母は、ちがやを産んだ時に亡くなった
難産だった
大手術の後、赤ちゃんは無事産まれた
可愛い可愛い我が子
名前は決めている
茅だ
茅とは雑草の名前だ
なぜ我が子に雑草の名前をと思われるかもしれないが雑草を舐めたらいけない
その生命力は凄まじく何度刈っても生えてくる
人々はそれに困り果て何度もイライラさせられたことだろう
だが私は、この子に茅のように逞しく生きて欲しかった
ちがやが産まれる前、病院で難産である可能性と未熟児であることを宣告された。
最初は悩んだ。でもどんな子であろうと私の子供だ。例えこの命に変えてでも産んでみせる。
そう決意し、娘のために未熟児でも難産でも逞しく生きて欲しくて茅という名前を授けた。
でも自分が亡くなってから夫は荒れた
赤ちゃんは母が育ててくれたから何とかなったが、夫は全てに絶望している
私が命をかけて産んだ子を受け入れなかった
それもそうだろう
あんな人でも私には優しかった 大切にしてくれた
だから霊になりそばで見守ることしかできなかった
ちがやが大きくなり夫の元へ帰った
ちがやは荒れ果てた夫に嫌われているということをわかっていながら明るく接する
何度も何度も拒絶されても諦めない
お花を渡して励ましたり
慣れない手つきで料理をしたり
何をされてもいつも笑っている
そんな時、夫はついに娘に手を出すようになる
殴る夫から守ろうと私が飼っていたチワワが対抗するが敵わない
ちがやもちがやで犬を守ろうとする
私もつい、カッとなってポルターガイストを起こしてみるが牽制にすらならない
守りたいのに守れない
そんな悔しい想いをしているとふとちがやがこちらを見ているような気がした
ちがやは目をまん丸にした後ニコリと笑ってくれた
そんなちがやを気味悪がって夫は逃げていく
気づかれている?
子供の頃は見えることもあるというし不思議じゃない
私はそれからも娘を守り続けた
娘は人懐っこい
それは外でも同じだ
大阪の町の人達にも大変可愛がられている
たまに心配になるが怪しい人からは周りの人がしっかり守っていた
頼りになる人達だ
私も昔はお世話になった
大阪の町は私も好きだった
だから死んでも繋がりを感じて嬉しかった
これなら大丈夫かもしれない
そう思っていた時、夫が凶行に走った
実の娘であるちがやを殺したのだ
それも執拗に何度も何度も包丁刺して
ポチも助けに入るがそのポチまでも殺される
私は何も出来なかった
何がもう大丈夫だ
夫のことを完全に見過ごしていた
夫はその後邪悪な笑みを浮かべながら呪詛をばら撒きつつ首を吊った
最悪の展開だ
何も守れなかった
誰もが死に全てを失った
母親失格だ
そんな時、死んだはずの娘からヒラヒラと綺麗な蝶が出てくるのが見えた
この世の物とは思えない程綺麗で虹色に輝いている
私の手にひらにも満たないその蝶は天高く飛び続ける
私はふと気づく、あれは娘から出ていた
なら、あれは娘なのではないか?
そんな気がしてついていくと突如暗闇の中に入り込み後ろ後ろへと引っ張られる
蝶はそれでも前へ前へと進んでいく
凄まじい引力に引っ張られながらも私は諦めなかった
大阪のド根性みせたるわクソッタレーと心の中で絶叫しながら何とか辿り着いた
その時には蝶の姿はなく辺りを見渡す
すると、満身創痍のちがやの姿をした女の子と銀髪の少女が捕まっていた
このままではやばいと感じた私はあることを思い出す
それはちがやがまだ私を認識していた子供の頃
ジェイソンに夢の中であったと嬉しそうに話していた
最初はちがやらしい夢だと思っていたがちがやが蝶になってあの暗闇からこちらへ辿り着いたことで思い至る
もしかしたら夢と日本の世界は繋がっていてさっきのは世界の狭間だったのではないかと。
後ろに引っ張られたのも元の世界に引き戻す力
そう考えると辻褄が合う
それから私はジェイソンを探し出し懇願した
ジェイソンは完全に私を認識しており私のお願いをすんなり聞き届けてくれた
そのおかげでちがやと銀髪の少女は助け出された
私のカンは外れていなかった
やはりあの子はちがやだった
変わらない可愛い笑顔を振りまいている
愛しい我が子
これからも元気に笑って過ごしてね




