胡蝶は覚えていた
日本のちがやの家には母が拾ってきたという一匹の小型犬がいた
名前をポチという
犬種はちわわで公園に捨てられてたらしい
そんなポチをちがやは可愛がっていた
家は父がいるから嫌いだったけどポチは家の中で唯一の癒しだった
とても賢く勇敢なチワワだった
ちがやが父親に殴られそうになるとワンワンと立ち向かってくれた
でもポチは小型犬だ
犬とはいえ大人の人間に勝てるわけが無い
父親は犬を捨てなかった
母親の形見だと思ってるらしい
でもだからこそ憎かったようだ
父親にとって母親に関するものは全て憎い
父親は母親を愛していたから
失ったことで全てを憎むようになったのだ
ちがやはこの世界にきてからずっと心配していた
ポチは元気だろうか
ポチと父親はどうしてるだろうか
餌は貰えてるだろうか
虐められてないだろうか
散歩はさせてもらってるだろうか
ちがやはポチを愛していた
だからだろうか フェンリルと聞いて真っ先にポチのことを思い出した
ちがやにとってフェンリルも犬のようなもの
見たことはないけど間違ってないだろうと確信があった
だからフェンリルが暴走してると聞いて殺さずに助けたいと思った
ポチとフェンリルは違う
でも殺すのは嫌だ
善良だったフェンリルが突然暴走したことにも理由があるはず
その理由を知らずに殺して終わりなんて可哀想だと思った
だからちがやは立ち向かう
神獣の背に乗りフェンリルの元へ
「あれがフェンリルなんやな・・・なんか辛そうや」
大草原の空で暴れ狂うフェンリルは何か悲しみのようなものを感じる
今も尚他の神獣が攻防を繰り広げているがフェンリルはその神獣を見ていない気がした
「まるで神話ね・・・」
神獣同士の戦いは壮絶だった
神話級の魔法のぶつかり合いに激しい衝突
どちらも引かず 戦いは拮抗していた
「じっちゃん、ばっちゃん!」
「他の神獣への話は付けておく、任せておけ」
「頼んだで・・・」
「ちがや・・・大丈夫?」
「へへ、おおきにな・・・悲しそうだなって思ったら早く助けてあげたくて」
「ちがや・・・」
「神獣だろうがなんだろうが関係ない 泣いているのなら助ける それだけだろう」
「せやな!ジェイソン!」
「よーし!皆でやろう!」
『おー!』
「チャンスは一回か・・・」
各地に散った仲間を見ながらちがや覚悟を決める
鏡は再使用まで時間がかかるため実質チャンスは一回
例え一回目で成功したとしても暴走したフェンリルに近付くには危険を伴う
もしも自分が殺されたら皆が悲しむ
だから絶対死ねない
「ふぅ・・・」
ちがやは全神経を集中させる
目を閉じこれまでのことを思い出す
この世界にきて何度も泣いた何度も挫けそうになった
でもちがやの周りにはいつも皆がいてくれた
いつもちがやを守り導き共に歩んでくれた
だからちがやは怖くない
一緒だと思えるから
勇気を貰えたから
その気持ちをフェンリルに伝える
「ほう・・・あれが人の子なのか・・・」
「実に面白い!!あれではもう神ではないか!」
四聖獣達は突然神の力を解放し巨大な蝶の羽を生やしたちがやをみて歓喜した
その場にいた四聖獣を丸ごとねじ伏せるだけの力があるにもかかわらず彼女は決して力に溺れない
それどころか自分は弱いと思い込んでいるらしい
だからこそ胡蝶は美しい輝きを放ち四聖獣を魅力した
「大きくなったな・・・」
その波動はジェイソンにも伝わっていた
子供の頃のちがやはあんなに小さくてか弱かった
こっちにきてからも目が離せず何度も心配していた
その彼女が今雄々しい羽を広げ今か今かとフェンリルを待ち構えている
ちがやの力で大地が共鳴する
魔力が輝きを増しキラキラと舞い降りる
ジェイソンはその姿に胸を熱くしフェンリルに一番接近し鏡に移す覚悟を決める
一番危険かもしれない
だが、それでいい
俺は1人じゃない
それをあの神々しく光るちがやが教えてくれた
だから迷いは無い
「さぁ、始めよう!神獣フェンリル!!」
「ルナ、もっとくっついてや ゼロ距離の方が変質はしやすい」
「うん・・・頑張ってね。信じてるから」
「ルナ、初めて会った時・・・うち本当は不安やった・・・怖かった・・・でも横にはルナがいてくれた・・・だから諦めずにすんだ・・・」
「それは私の方だよ・・・私だってちがやの明るさに勇気を貰った・・・だからお互い様」
「おおきにな・・・ルナ」
その時、ちがやの力が更に膨張する
それはジェイソンがあの日見た月光蝶であった
ちがやは無意識にルナとの絆に力を貰っていた
故にルナが一緒にいることで月光蝶へと進化していたのだ
いつの間にか夜がきてあの時のような満月が顔を出す
その光とちがやの輝きが共鳴しちがやの力はグングンと増していく
月光蝶の本領は満月の夜なのだ
それ故に今のちがやは誰にも止められない
「くる!!」