忘れていた別荘
帝国の記憶を設置し、見守るくん達と戯れていると徐々に元の街並みに戻ってきた。
救援に来てくれていた大半は国へ帰ったが、中にはこの国に残って暮らすことを決めた者も多かった。この国で出会い恋人になった者、友達になった者、理由は様々だが、戦いを通して人の繋がりが生まれていた。種族はバラバラでも、それで差別的な視線を向ける者はいない。
身体の大きな亜人や魔族が人を助けたり、逆に助けられたりしてうまく溶け込んでいる様子を見て、ちがやは微笑んだ。
「いいことやな……」
そう感心していた矢先、商業ギルドの前でよく知る人物と鉢合わせた。
「あ、ちがや様! お久しぶりです!」
元気よく手を振ってきたのは、商業国家の商業ギルドのギルマスターだった。
「商業国家の商業ギルドのギルマスやないかい。まだ残っとったん?」
「ちがや様の件で仕事が残ってたので」
「うち?」
「別荘の件ですよ。事件も収束しましたし、今なら別荘建ててもいいのではないかと思いまして」
「まぁ、それはそうやけど……もしかして、うちの貯金また増えてる?」
「えぇ……増加の一途を辿っているので、使うためにもどうかと思いまして……まぁ、別荘建てた程度で減る額ではないでしょうけど。雇用も作れるのでいい機会かと」
ちがやは軽くため息をつきながらも、考え込むように空を見上げた。
「まぁ、今回の件で家族亡くした人もおるやろし、働きやすい職場を作るのはええかもな。でも、王宮よりでかくしたらあかんで? 前より小さく作るって言ってたし」
「あっ……そうでしたね……すみません、お金使うためにデカくしようとか考えてました」
「流石にハンスに申し訳ないからやめてくれ……国民のために維持費をカットするためにスケールダウンするんやし」
「ちがや様も国作ったらどうですか? 神様認定されたんですよね?」
「いらんわ! 認定されてもうちのやることは変えんからな!」
「でも大陸統一を果たした神とも巷では有名ですよ?」
「また変な噂が……あれはうちだけの力やない。皆の意思が1つになっただけや」
「相変わらず欲がないですね……とはいえ別荘は建てて貰いますよ! ちがや様と直接取引できる機会なんてなかなかありませんからね!」
「はいはい……詳しくは中で話そうや……」
「はーい!」
――――――
「それで場所なのですが、最近ちょうどいい更地ができまして」
「またんかいこら」
「?」
「まさかと思うけど元王宮があった場所ちゃうよな? 目の前慰霊碑あるやろあそこ」
「幽霊は苦手ですか?」
「そうやなくて! 普通に嫌というかだめやろ!」
「土地だけは無駄に広いのでいいかと思ったのですけど……そうですね……どのような場所がいいですか?」
「静かなところがええな。一等地とかじゃなくてもええからうるさくないところ」
「貴族街とかもだめですか?」
「なんか面倒臭くなりそうだから嫌!」
「そうなると中心地から離れたここなら土地も広く静かですね」
「ええな、何かと破壊力あるやつしかうちにはおらんから、うっかり壊しても文句言われんかもや」
「うっかり世界滅ぼしたりしないでくださいね……邪神を倒されたちがや様達なら可能でしょう?」
「フラグ立てるっちゅーことはお望みなんか? うちは静かに暮らしたいだけなんやけどな」
「すみません勘弁してください! 失言でした!」
「まぁええけど、場所は決まりとして、どんな家がええやろか?」
「それなら鍛治ギルドにも協力を仰ぎましょう。彼らは建築も得意なので、ちがや様のためなら喜んで協力してくれるはずです」
「ドワーフのおっちゃん達か! それなら安心して任せられるわ!」
「では、鍛治ギルドに連絡しておきますね。明日またここにいらしてください。」
「任せたでー」
――――――
「おぉ! これが完成予想図!」
「立派な屋敷ね!」
「うむ」
「さすがドワーフさんですね」
「だろう? 嬢ちゃん達には恩があるからな。ドワーフ一同全力で協力させてもらうぜ」
「でも……なんでうちの部屋こんなに豪華なん? お姫様の部屋みたいやな」
「いやいや、ちがやは姫というか神様だろう? これぐらい普通だろ?」
「うち庶民派だから落ち着かんかも……ごめん」
「それは確かにだめかもな……ならこのぐらいに留めておくか」
「おお! ええなええな! このこじんまりとした感じ、しっくりくるわ!」
「ちがやは本当に変わってるな。とはいえ予算が余っちまうから他に金を回さねぇとな」
「キッチン使いやすくしたいねんけどできる?」
「お安い御用さ、どんなのをお望みだい?」
「システムキッチン! こんな感じ!」
「おぉ、これはすげえ……でもこの見慣れないものは」
「あぁ、これは自分で作って設置するからええで。場所さえ確保してくれたら」
「洗練されたデザインだな……いいだろう! 面白くなってきた!」
「おっしゃ! これで楽しく料理作れな! ジェイソン!」
「あぁ、楽しみだ」