国の再建
王宮が天空に飛んで行ったせいで、この国は王宮なしで、ハンスという新たな国王のもと再建を急いでいた。
後片付けも山ほどあり、王族や兵士など多くの命が失われたこともあって、地上の城跡地には慰霊碑が建てられた。
新しい王宮は、前のように巨大にする予定はなく、せいぜい貴族の館程度の規模になるらしい。場所も移転予定で、不動産業者と相談中だという。
慰霊碑には、「二度とこのような悲劇を繰り返さないように」という戒めの言葉が記され、国民たちは静かに祈りを捧げていた。
「それで、あそこは大丈夫なのか?」
ハンスが空を見上げながら問うと、ちがやは自信満々に胸を張って答える。
「うちが固定したからへーきへーき! 倒壊したら大事故になるからな」
邪神と闘った跡地はボロボロで、今にも崩れそうだった。そこで、ちがやが魔法で時間を止めて固定し、安全を確保していた。
その場所には転送陣も設置され、観光スポットとして整備しようという案が進んでいた。
「観光スポットにするのはよしとして、その金はどうするんだ?」
ハンスが懸念を口にすると、ちがやは軽く笑いながら言った。
「そんなん国の再建に当てるに決まってるやろ。あれは王族の所有物、ちゅーことはハンスの所有物でもあるんやからな」
転移門を作り、天空の遺跡を固定したのは紛れもなくちがやだった。それを当然のように語る姿に、ハンスは少し呆気に取られた。
(商人だから、数パーセントは持っていくと思っていたんだがな……)
街はところどころ半壊していたが、回復した住民たちが協力して建て直しを進めていた。壊れた門も、大陸の仲間たちの協力で順調に修復されつつある。
種族も出身地もバラバラな人々が、まるで敵対していた過去が嘘のように、笑顔で溢れる日々。
人手が豊富なため、正直ちがやたちは手持ち無沙汰だった。
「先に言っておくが、変なことするなよ?」
ハンスが釘を刺すと、ちがやは慌てて手を振った。
「へ、変なことなんかうちがしたことあったか?」
「ありまくりだ。善意なのはわかってるけど、お前の力は強すぎるからな。使う時は程々にしてくれよ」
「わかっとるって……」
ちがやがその気になれば、街一つを一瞬で直すことも可能だった。今や胡蝶としての力を完全に使いこなせるようになった彼女に、不可能はない。
だからこそ、「自分たちで建て直した」という事実を大切にしたいハンスは、あえて先に忠告しておいたのだった。
「そういえば教皇から聞いたのだが、正式に神認定されたらしいぞ、お前」
「は!!? 確かにうちは亜神やけど、なんで宗教国家が!?」
「お前があれだけのことしたら、隠しきれるわけがないだろう。ならいっそ公表して、変な連中から守る方がいいと判断したそうだ」
「いつかなるんじゃないかとは思ってたけど、もうとは……。たまに拝まれるのはそのせいかぁ」
いや、実を言うと、もっと前からその兆候は感じていた。
というのも、拝まれると願いの声が聞こえてくるのだ。大量に飛んでくる願いの数々に、ちがやは嫌でも気づいていた。
しかも、それは世界中から飛んできている。手に負えないレベルだった。
ちがやは各地の神官を通して、「まずは努力してから願ってこんかい」と信託を飛ばした。
本音としては、鬱陶しかったから逆ギレしただけだったが、信徒たちはそれを真剣に受け止め、「努力してから願う」ようになった。
それは良い傾向で、結果としてこの世界の人々の意識レベルがワンランク上がった気がする。
……だが、ちがやとしては心の底から願っていた。
(これ以上、ヤベェやつ出てきませんように……)