有言実行
邪神を封印し、魔物たちの脅威が去り、世界が救われたあの日から、数日が経った。
ちがやは胡蝶としての力を限界まで使った代償で、二日間ものあいだ眠り続けていた。その眠りは、力を貯め込むためでもあり、完全な回復を果たすためでもあった。
目を覚ましたちがやは、ゆっくりと身を起こし、外の景色を眺めた。
そこには、復旧作業に奔走する帝都の人々の姿があった。壊れた建物を修復する者、物資を運ぶ者、声を掛け合いながら懸命に働く人々。
その光景を見つめながら、ちがやは静かに涙を滲ませた。守れたのだ。この世界を、人々の笑顔を。その想いに胸が熱くなり、彼女は腕でそっと涙を拭った。
「今まで、どんな窮地でも乗り越えてきた。でも、今回ばかりは何度も諦めかけた……」
それでも、目の前にある光景──大変そうだけれど、幸せそうに笑っている人々の姿を見て、ちがやの中に込み上げてくるものがあった。
「……やり遂げたんだ」
ふと空を見上げれば、あの日魔法で安定化させた天空王宮が、今も空に浮かんでいた。
あそこで邪神と戦った日々が、まるで夢だったかのように感じる。
それでも、ちゃんと覚えている。
邪神に幸せな夢を見せて封印したこと。
人々が喜んでくれたこと。
四聖獣との出会い。
そして──仲間たち。
「皆がいてくれたから、今がある。私はそれを、決して忘れない」
「アリア、ミカも……皆、ありがとう」
ちがやの感謝の言葉に、そっと返事が返ってきた。
「頑張りましたわね……ちがやちゃん」
アリアが微笑む。柔らかな声に、ちがやの胸があたたかくなる。
「友達なんですから、いつでも頼ってくださいね」
ミカも、優しく言葉を重ねた。その一言に、ちがやの心がふわりとほどけていく。
「うん……ありがとう……ありがとう……」
ちがやは二人に抱きつき、こらえていた涙を少しだけこぼした。
前の世界では、こんなふうに支えてくれる友達なんていなかった。だからこそ、今のこの瞬間が、何よりも嬉しかったのだ。
涙が止まらなくなって、つい重ねて流れてしまう。
それでも、涙を拭って、いつものようにニカリと笑ってみせる。
「うん、私はやっぱりこうでなくっちゃ!」
ちがやは魔法陣を展開した。
「エリアハイヒール!」
広範囲回復魔法の光が、街全体を包む。疲れた人々や怪我を負った者たちが、その光に癒されていく。
ルナたちは慣れた様子で、周囲に説明していた。
「大丈夫、ちがやの『ハイヒール』です」
封印を経て成長したその魔法は、スケールが大きく、知らない者は奇襲と勘違いしてしまうほどだった。それでも、今では人々にとって安心の光でもあった。
空へと昇る光柱が目印となり、ちがやが目覚めたことを知った仲間たちが、次々と駆け寄ってくる。
「ちがや、起きたのね!」
「ちがやお姉ちゃん!」
「ちがや!」
「おはよう、ちがや」
「ちがやーっ!」
駆け寄ってくるみんなの笑顔を見て、ちがやは胸を張った。
私の、大切な仲間たち。
私は元気よく、いつもの“こゆめちがや”に戻るのだった。
「おはよーさん!」