番外編:聖女リリスの小さな休日
――それは、ある平和な日のこと。
「お姉ちゃん! 今日は少しお休みが取れました!」
リリスは嬉しそうに笑いながら、ちがやに報告した。
ここ最近は帝国の陰謀を暴いたり、誘拐事件を解決したりと、忙しい日々が続いていた。
だが、今日は珍しく 何の事件も起こらない日 だ。
「おー、それはええことやな! たまにはゆっくり休みや~」
ちがやがソファに寝転びながら、だらけた声で答える。
ジェイソンやルナも、今日はそれぞれ自由な時間を楽しんでいるらしい。
リリスは手を頬に添えながら、しばらく考えた。
「……お休み、何をしましょう?」
普段はちがやたちと一緒に戦い、旅をし、助けを求める人々を救っている。
だが、いざ「自由な時間」と言われると、何をすればいいのか分からなくなる。
「うーん……」
悩んだ末、リリスは 街へ行くことにした。
たまには一人でぶらぶら歩いてみるのも悪くない。
「ちがやお姉ちゃん、私、少し街を見てきますね!」
「おー、いってらっしゃ~い」
「ルナさん、ジェイソンさんにも伝えておきます!」
「気ぃつけてな~」
そうして、リリスの 小さな休日 が始まった。
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街 の散策と、お菓子屋さん
街を歩いていると、あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
露店の並ぶ通りでは、新鮮な果物や焼きたてのパンが並んでいる。
リリスはふと立ち止まり、ある お菓子屋さん の前で足を止めた。
「わぁ……!」
ショーウィンドウには、美味しそうなケーキやクッキーが並んでいる。
普段は甘いものを食べる機会が少ないので、たまには自分へのご褒美として買ってみようと思った。
お店の扉を開けると、優しい香りがふわっと広がる。
店員さんがにこやかに迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、お嬢ちゃん。何かお探しかい?」
「えっと……どれも美味しそうで迷っちゃいます……」
ショーケースをじっと覗き込む。
チョコレートケーキ、ベリータルト、ふわふわのシフォンケーキ――
どれも魅力的で、選ぶのが難しい。
「うーん……」
リリスが悩んでいると、店員さんが優しく笑った。
「初めて来たのかな? なら、オススメを教えてあげようか?」
「本当ですか?」
「もちろん。今日はね、特別な 聖女の祈りタルト があるんだよ」
「聖女の……祈りタルト?」
名前に惹かれて、リリスは興味津々になる。
店員さんが指さしたのは、白いクリームがたっぷりのタルト。
「これはね、甘さ控えめのクリームと、ほんのりレモンの風味がある特別な一品なんだ」
「すごく美味しそうです……! じゃあ、それをお願いします!」
こうして、リリスは 聖女の祈りタルト を購入した。
せっかくだから、どこかでのんびり食べよう――
そう思って、街の広場へ向かうことにした。
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広場でのんびり
街の中央にある広場には、大きな噴水があり、たくさんの人がくつろいでいた。
リリスは、木陰のベンチを見つけて座る。
「いただきます!」
そっとタルトを口に運ぶと、優しい甘さが広がった。
クリームはふんわりとしていて、レモンの爽やかな風味が絶妙に合わさっている。
「美味しい……!」
幸せな気持ちになりながら、一口ずつ味わって食べる。
すると、ふと足元に 小さな猫 がやってきた。
「にゃ~ん」
「えっ?」
白くてふわふわの毛並みの、小さな子猫だ。
リリスを見上げて、ちょこんと座っている。
「こんにちは、あなたもお腹すいてるの?」
「にゃん♪」
小さく鳴いて、しっぽを振る。
可愛らしい仕草に、リリスは思わず笑みをこぼした。
「ごめんね、これは人間用だから、あなたにはあげられないの……」
猫はじっとリリスを見つめた後、スリスリと足元に寄り添ってくる。
「ふふ、甘えん坊さんなんですね」
そっと撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
そのまましばらく猫と過ごしていると、後ろから声がした。
「やっぱりここにいた」
振り向くと、ルナが立っていた。
「ルナお姉ちゃん? どうしてここに?」
「ジェイソンが『リリスが一人で大丈夫か見てきてくれ』って言ってきたのよ。過保護よね、あの人」
「ふふ、優しいですね」
ルナはベンチに腰掛けると、リリスが持っていたタルトを見つめた。
「それ、美味しそうね」
「とっても美味しいですよ! ルナお姉ちゃんもいかがですか?」
「え、いいの?」
「はい! せっかくなので、二人で食べましょう♪」
そうして、二人はタルトを半分こしながら、のんびりとした時間を過ごした。
「……たまには、こういう時間もいいわね」
「そうですね。のんびりするのも、大事なことです」
子猫は二人の足元で丸くなり、静かに昼寝をしていた。
暖かな陽射しの中、リリスの 小さな休日 は、こうして穏やかに過ぎていった。
――そしてまた、新しい冒険へと続いていく。