邪神戦 最終決戦
「強い……」
権現した邪神は、想像を遥かに超えていた。
ルナが放った最大火力の魔法も傷一つつけられず、ジェイソンの剣すら軽くあしらわれる。
聖女エリスの奇跡の力を行使しても、あっという間に無力化されてしまった。
全員が、ボロボロだった。
床に倒れ、満身創痍。指一本動かすことすらできない。
そして──ちがやもまた、限界だった。
薄れる意識の中、仲間たちの顔を思い浮かべながら、意識を手放す。
──夢の中。
「やっほー! 大変みたいね」
ふわりと現れたのは、懐かしい人だった。
「お、お母さん!? お母さんも胡蝶の力使えるの!?」
「そりゃあね。根性でこっちに来たのは私も同じだもの。最初は霊体だったけど、いつの間にか胡蝶になってたのよ。……まぁ、私は肉体がないから半分霊体みたいなものだけど」
「やっぱり、うちら親子やな……にひひ」
「それはそうと、あなた──胡蝶の力、まだ使いこなせてないでしょ?
せっかく夢の中だし、お母さんが教えてあげる」
「おおきに! 助かるわ!」
「まず胡蝶の力っていうのは、夢そのもの。自由で、何者にも縛られない。……それくらいならわかる?」
「まぁ、それぐらいなら」
「でもあなたは、まだほんの入り口に立っただけ。夢の力は変幻自在、自由そのもの。……今から、その一端を教えてあげるわ」
──そして、現実へ。
「母さん……おおきにな……おかげで、邪神の倒し方が見えてきたで」
一度敗北したちがやは、夢の中で胡蝶の力を深く知った。
──そして、邪神を倒すために必要なことも。
それは、ジェイソン、ルナ、エリス、そしてポチ──仲間全員が揃うこと。
胡蝶の力は、夢の力。それは幻惑となり、仲間を模倣することもできた。
だが、本物には敵わない。あくまで、それは模倣に過ぎない。
ちがやは、たった一人、模倣の力を巧みに操り、邪神を翻弄する。
仲間たちが再び立ち上がるため──時間を稼ぐために。
「……やっぱり、うちやと皆の強さは引き出せんな……まぁ、時間稼ぎできればええから別にええか」
そして──次々と立ち上がる仲間たち。
ちがやは模倣を止め、月光蝶モードへと戻る。
「待ってたで! これからは、うちらのターンや! 皆、これを使え!」
蝶の姿となったちがやが、仲間たちの周囲を舞い、きらめく光を振りまく。
そして、夢想武器を授けた。
「これは……」
「!?」
「すごいです、これ……!」
夢想武器──それは夢そのもの。
持つ者の意思で形を変え、威力を高め、無限に成長する武器。
しかし、今回の目的は「倒す」ことではない。
封印のために──邪神を、弱らせること。
それぞれが夢想武器を手に、邪神へと一斉に襲い掛かった。
ジェイソンは超巨大なナタに変え、反魂の力を吸収する性質を付与。
ルナは杖に変え、膨大な魔力を更に増幅させ、混合魔法を詠唱。
エリスは神聖魔法と五大魔法を組み合わせ、神の炎「ゴッドブレイズ」を完成させた。
全ての攻撃が、確実に邪神へとダメージを刻んでいく。
やがて、巨体を誇った邪神が、ついに膝をついた。
「ぐっ……おのれ……」
四聖獣が現れ、邪神を拘束する。
動けなくなった邪神の前に、ちがやが静かに歩み寄った。
月光蝶モードのちがやは、凛とした瞳で邪神を見据え──
そして、シャリン、とベガが輝きを放つ。
「……聞くまでもないよな。幸せな眠りにつかせてやるからな」
慈愛に満ちた微笑みで、手をかざす。
ちがやは、封印を施した。
それは、幸せな夢だった。
普通の人間として、穏やかに生きる夢。
邪神が本当に望んでいた、ただそれだけの願い──
故に、邪神はその夢を拒むことなく、すんなりと受け入れた。
──平和で、幸せで、安らかな夢。
「……このような夢なら、覚めなくてもいいな」
その後──
長い、長い時をかけて、かつて邪神だった存在は、人々を守る守護神へと変わっていく。
それは、ちがやが胡蝶の力で導いた奇跡。
悪を善へと変えた、歴史に刻まれる偉業だった。