邪神顕現
牙と賢者の石を器にしついに邪神顕現が始まってしまった
静寂――というには、あまりに重い沈黙だった。
かつて帝国の栄華を誇った王宮は、いまや空に浮かぶ孤島のような存在となっていた。地上から切り離され、魔法によって支えられていたその構造体は、「天空王宮」と呼ばれるに相応しい威厳を放っていた。
だが、その神聖なる場所に、いま――“それ”が現れた。
天が砕けた。
亀裂が走る。空という空が、まるでガラスのように軋み、ねじれ、捩じれ、裂けていく。
冷たい風が吹いた。いや、風ではない。希望を削ぐ何かが、ちがやの頬を撫でた。
「……っ」
感覚が、鈍る。頭が、痛い。
ちがやほどの存在ですら、圧倒される。理不尽なほどの“存在感”が、王宮全体を支配していく。
邪神、顕現。
空から垂れ下がる黒い触手。
光を吸い込む影の渦。
それは人智の及ばぬ「かたち」を持たぬ存在。神話でも語られぬ、忘れ去られた何か。
「……来よったんか」
ちがやは静かに言った。
恐怖を押し殺していたのではない。押し返していたのだ。
だが、それでも息が苦しい。立っているだけで精一杯。膝が震える。
存在するだけで周囲を腐らせ、空間そのものを書き換え始めていた。
城の壁はねじ曲がり、魔力が逆流し、聖なる結界すら泡のように弾け飛んでいく。
ちがやは胡蝶の羽を展開した
ジェイソン、ルナ、リリス、ポチもそれぞれ武器を構える
この世界にきてずっとこの時を恐れて戦ってきた
でも、恐れてばかりはもう終わりだ
戦わなければ世界が終わる
故に震える足に力を入れ大地を踏みしめる
ちがやはこの時のために作り出した天罰くんを取り出す
祈りは既にたまりまくっていた
世界中から届いた救いの願い
それを受けて眩く光り輝いている
天罰くんはその名の通り祈りをためることで本物の神の天罰を行使する邪神対策の神器
ようやく邪神本人に使う時がきたのだ
「まずは小手調べといこか・・・天罰降臨!」
ちがやは気付いていた
目の前の邪神はこれでは倒せないことを
実際に対峙して気付かずにはいられなかったのだ
例え神々ですらやつは倒せない
それだけ絶大な力を間近で感じていたのだ
眩い光が降り注ぎ邪神に直撃する
だが、案の定邪神は、傷一つ受けていなかった
「神々が倒さず封印するわけだわ・・・」
その姿を見て思わず苦笑いを浮かべるちがや
そう、長年封印していたのは神ですら手に負えない相手だからだったのだ。
それ故に封印することしかできなかった。
神ですら倒せなかった存在
それが目の前にいるのだ
絶望せずにはいられないだろう
だが、こんなこと織り込み済みだ
ちがやは天罰くんを仕舞い、次の段階に移る
「皆、見ての通りや。覚悟はできとるよな?」
「もちろんよ」
「はい!」
「やることは決まっている」
「もちろんです!」
そうだ
ちがや達は誰よりも邪神の脅威を間近で感じてきた
何度も何度も何度も邪魔をし阻止してきた
だから、覚悟などとうの昔にできていた
「スピカ、ベガ、お前らもええな?」
「もちろんだ!ママン!」
「この時を待っていた!」
「ほな、行くでお前ら!」
そうして一気に目の前の邪神に攻撃を開始した