最終決戦前
「牙の行方、分かったで!」
報告を受け、仲間たちが一斉に顔を上げる。
「これって……」
示された地図に記されたその場所──それは、空高くそびえ立つ空中王宮だった。
「あんな大掛かりな仕掛けまで作ってたとはな……」
驚きを隠せず、誰かが呟く。
元々は地上にあった王宮。それを魔法と科学技術の粋を集め、空へと浮かべていたのだ。
まるで、侵入を拒むために。
「……あそこで、最終決戦をする」
ちがやが静かに宣言する。
「冒険者のみんなや、地上の人たちは……なんとか、地上を守ってくれるか?」
「任せとけ! 人間の底力、見せてやるぜ!」
「俺らも混ぜてくれねぇか!」
「鍛治ギルドも、商業ギルドも協力してくれるなら──負けるわけにいかねぇな!」
「私たちは物資の補給を担当しますから、戦闘は任せましたよ!」
次々に声が上がる。
それは不安を吹き飛ばすような、力強い声だった。
「それと……各国からも、もうすぐ援軍が到着するって連絡が来たぞ。
だから嬢ちゃんたちは、遠慮せず、全力で暴れてこい!」
「……皆……おおきに」
胸の奥が、熱くなる。
「悪いが……俺たちも、ここに残らせてもらうぜ。国を守るために、地上で戦いたいんだ」
「多分、邪神が権現したら魔物がわんさか湧くと思う。頼んだで!」
「おう!」
拳をぶつけ合い、覚悟を確かめ合う。
「さて、急ごうか。邪神は──待ってくれへんからな」
「「「おーっ!!」」」
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空を飛んで辿り着いた天空王宮は、想像していたよりも静かだった。
兵士たちの姿もなく、拍子抜けするほどあっさりと中へ侵入できた。
最奥へと進んだ先。
そこにあったのは、馬鹿でかい赤い石──賢者の石の下に置かれた、ポイズンドラゴンの牙だった。
「……賢者の石、か。そりゃ兵もおらんわけやな」
「ど、どういうことや?」
「賢者の石は禁忌よ。だって、その材料は……人間そのものだもの。何百、何千という命の血と魂を凝縮した塊、それがあれ」
「なるほどな……牙だけじゃ足りへんから、賢者の石まで使うっちゅーことか……!」
拳を震わせながら叫ぶ。
「人の命を、なんや思っとんねん!」
「ふん。邪神様の贄になれるのだ。人間どもには光栄なことだろう」
静かに、しかし底意地の悪い声が響く。
現れたのは、皇帝だった。
「……お前……」
「他の王族たちも、この賢者の石の中にいる。邪神様には一人でも多くの生贄が必要だからな。あいつらも本望だろう」
「家族まで……手にかけたっちゅうんか……」
怒りに震えながら、問いかける。
「これを復活させたらどうなるか分かってんのか?」
「もちろんだ。世界は終わる。それでいい」
「なぜ、そこまで……?」
皇帝はゆっくりと口を開いた。
「我ら帝国は、戦争を生きる糧とした。力こそすべてだった。だが気づいたのだ……
人間は魔族を侮り、魔族も人間を蔑む。亜人も魔人も同じだ。
平等な幸せなど幻想。生まれで全てが決まる。宗教も、差別も、対立の種だ。
私は悟ったのだよ。この世界そのものが、救いようのない愚かさでできていると」
一息。
「だから一度、滅ぼす。私も死ぬ。それでいい。世界をリセットし、また生命が生まれたときに……考えればいい。繰り返すのも、滅びるのも、それはそいつら次第だ」
──重たい沈黙が落ちる。
だが、ちがやは、怒りを噛み殺しながら言った。
「……ふん。ええか、皇帝。お前、自分を賢いとでも思っとるんか?」
「なに?」
「戦争せな分からんかったお前が、なにを偉そうに世界を語っとんねん。
人殺して、土地焼いて、奪って、そんでやっと世界が腐っとることに気付いた?
アホか。そんなもん、戦わんでも、ちゃんと生きとったら分かるっちゅーねん」
皇帝の顔色が一瞬だけ動く。
だが、ちがやは止まらなかった。
「どんだけ綺麗な言葉並べてもなぁ、お前がやっとることは、ただの自殺や。
それも、勝手に他人巻き込んで、壮大に自分に酔っとるだけや!」
皇帝は黙って、ちがやを見つめ返していた。
そこには、ほんの僅か──後悔にも似た影が差していた。
だが。
「今更なにを言っても、もう遅い……世界は滅ぶ運命だ」
静かに、だが断固とした声で皇帝は言い切った。
──ならば。
「せやな。お前は、ここで終わる。全部まとめて、うちらが止めたる!」
主人公は牙を握りしめ、仲間たちと共に前へ踏み出した。
「世界を滅ぼしたいだけのクソ馬鹿野郎……お前の好きにはさせへんで!!」
そして、決戦の火蓋が切って落とされた──!
遅くなってすみませんでした。今回、どうやって話を進めていくか悩んでいたら投稿が遅くなりました。